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2005年度上期 未踏ソフトウェア創造事業  採択案件評価書


 



1.担当PM

   竹林 洋一 (静岡大学 情報学部 情報科学科 教授)



2.採択者氏名


開発代表者

井尻 敬  (東京大学大学院 情報理工学系研究科 修士2年)

共同開発者

なし


3.プロジェクト管理組織


  有限会社日本ビジネスサポート協議会



4.委託金支払額


  4,151,162



5.テーマ名


  植物のモデリングシステムの開発



6.関連Webサイト


  http://www-ui.is.s.u-tokyo.ac.jp/~ijiri/index-j.html



7.テーマ概要


 
手描きストロークによる3次元モデリング技術を植物のデザインに特化させることにより、極めてリアリティの高い植物モデルを生成可能なシステムを開発した。ポイントは、一度に細部まで描くのではなくて、まずラフスケッチの描けるビルボードを利用して植物全体のデザインを行ない、ラフスケッチを徐々に3次元モデルに置き換えていくというプロセス(Coarse-to-fineプロセス)である。このCoarse-to-fineプロセスを利用することにより、既存システムでは不可能であったFlower Arrangementなどの複数の花から構成されるモデルを、よりユーザの意図を反映させてデザインすることができる。また、開発したシステムは、コピーの生成、ビルボードの自動置き換え、3次元カーブ変形機能など、効率的な3次元形状モデリングをサポートするインタフェースを備えている。



8.採択理由


 
未踏ユースで開発した「花に特化したモデリングソフト」を発展させた提案であり、植物の構造を的確に表現するモデルと、ユーザの創造性を考慮した活け花(華道)につながるシステム開発への提案は未踏的要素が強い。ユーザインタフェースをシンプルにし、無償で公開し、多くのユーザの獲得を目指すという意欲も評価したい。



9.開発目標


 植物の要素(葉・茎・花弁など)やその複雑な分枝構造を生成できるのはもちろん、さらに、各要素や植物の全体像をユーザの意図通りに配置することができるというデザインのしやすさも考慮したシステムを開発する。実現に向けては、確固たる植物の形状記述モデルが必須であり、難易度の高い課題である。また、主にスケッチインタフェースを利用することで、3次元モデリングシステム特有の複雑なコマンド操作や制御点操作を省き、カジュアルなユーザにも、花のデザインが出来る環境を与えることを目標とする。



10.進捗概要


 本開発の前半では、(1)2005年度未踏ユース「スケッチベースの草花のモデリングシステム」における成果システムのブラッシュアップを行い公開した。
 次に植物のデザインに適したインタフェースを持つ、(2)“Flower Creator”と名付けた植物のモデリングシステムを開発した。“Flower Creator”開発過程において、(3)“Sketch L-System”と名付けたストローク操作によってフラクタクルを生成できるシステムを開発した。見た目の美しさ、操作のし易さ、表現の柔軟さのいずれも標準を上回る出来であり、最終成果物として申し分ない完成度に仕上がっている。



11.成果


 (1) 既存システムのブラッシュアップ
 2005年未踏ユースで開発したシステムのブラッシュアップとして以下の4項目を実現した。動作スクリーンショットを図1に示す。

 

図1: “スケッチベースの花のモデリングシステム”のスクリーンショット

 

 ・ 生成したモデルのエクスポート機能の実現
  生成したオブジェクトを、MAYAやLight waveなどの汎用3Dモデリングソフトへの移送を実現した。
 ・ 花序パターン追加の実現
  新たに数パターンの花序を追加し、Raceme, Umbel, Spike, Corumb, Dichasium, Drepanium, Compound Raceme, Compound Umbelの 8パターンを利用可能とした。
 ・ 雌しべ生成機能の実現
  TeddyのExtrusion生成アルゴリズムをベースに輪郭ストロークから雌しべオブジェクトを生成するインタフェースを実装した。輪郭を表すストロークを描くことで、自動的にメッシュを生成する。
 ・ 細かなユーザインタフェースの改善
  花式図エディタにおいて、制御点操作により、自動的に放射対象にアイコンをアレンジ可能にした。ボタン位置、サムネイル生成アルゴリズムの改善を行い、ユーザ負担を軽減して効率的なモデリングサポートを実現した。

 (2) “Flower Creator”
 図2にFlower Creatorの動作スクリーンショットを示す。

 

図2: システム概観。Overview window(左)とTask window (右)

 

 スケッチの描けるビルボードを階層的に組み立てることで、プロトタイピングを行う。本システムを利用することで、マウスストロークと茎・葉・花のコンポーネント選択によって図3に示すような植物モデルの構築を実現した。

図3: 開発システムを利用したモデリング例

 

 (3) “Sketch L-System”
 本プロジェクト遂行の副産物として開発した、Sketch L-Systemを図4に示す。Sketch L-Systemは、L-Systemの形状生成過程にストロークの制御を組み込んだ物である。

 

図4: Sketch L-Systemのスナップショット

 

 マウスストロークを利用して、植物の構造や成長の様子を置き換え規則と初期状態により記述するフラクタルの生成を実現した。ユーザは、ストロークを短く描けば少ない分岐、長く描けば多くの分岐を持ったフラクタルが生成できる。Sketch L-Systemを利用することで、各枝の先端に葉をつけた樹木風のレンダリングも実装されている(図5)。

 

図5: 樹木風レンダリング




12.プロジェクト評価


 従来のシステムでは、正確なシミュレーションや正しい構造を作ることは可能であるが、生け花のように意図的に複数の花をモデリングしかつそれらをアレンジするモデルのデザインは不可能であった。このシステムはラピッドプロトタイピングとそれに続く詳細な作りこみのプロセスをシームレスにつなぐ初の試みである。(1)詳細な作りこみのプロセスにおいて初期デザインを参照できる、(2)3次元モデリングを行なう前から全体像が完成しているため最終的なプロダクトのイメージが掴みやすいといった点で有用性が高く、システム全体としての完成度も申し分ない。シンプルな構造でリアルに植物を表示するモデリング体系は秀逸であり、今後の別ドメインへの応用にも期待が膨らむ。今後の発展が大いに楽しみなシステムである。



13.今後の課題


 開発者自身であれば3時間程度でモデルを完成できるが、初心者にとっては操作性の面で敷居が高い部分もある。ユーザインタフェースなどのシステムのブラッシュアップ、ユーザスタディなど、一般ユーザへの流通促進に向けた検討が期待される。


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