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2005年度上期 未踏ソフトウェア創造事業  採択案件評価書


 



1.担当PM

   竹林 洋一 (静岡大学 情 報学部 情報科学科 教授)



2.採択者氏名


開発代表者

長嶋 洋一 (ASL長嶋技術士事務所 所長)

共同開発者

なし


3.プロジェクト管理組織


  有限会社日本ビジネスサポート協議会



4.委託金支払額


  7,500,406



5.テーマ名


  コ ンテンツ制作用「使える音楽データ」自動生成システムの開発



6.関連Webサイト


  http://nagasm.org 、  http://www.suac.net/FMC3/



7.テーマ概要


 
本テーマの目的は、IT時代の色々なコンテンツ、特にショートムービや フラッシュ作品等のマルチメディアコンテンツを制作する際に必須となる、背景音楽(BGM)パートとして、お手軽に「使える音楽データ」を自動生成するシ ステムを開発することである。最終成果として開発したシステムとアルゴリズムはWeb上でフリーに公開・発表し、フラッシュ等の作品系コンテンツ制作支援 環境と自由に統合できるように提供する。本テーマは、ここ1-2年は基本的にクリエイター(とその卵)のためのシステムであるが、3年後には到来する「ク リエイション(作品創造)の大衆化」という時代的要請を視野に入れている。
 ITが普及する中で、「デジカメ写真を自動スライドショー化」「ホームビデオを半自動編集してショートムービ作品化」「お手軽ツールで創るフラッシュ作 品」など、一般大衆がマルチメディア作品系コンテンツを「自分で作る」というエンターティンメントの時代が到来する。本テーマでは、ここで問題となる音楽 パートの創作を、著作権の問題をクリアし、音楽的な専門知識を要求することなく、容易にコンテンツに適した「使える」音楽を自動生成するためのシステムを 開発する。
 本テーマではこのために、(1)著作権については、自動生成アルゴリズムを採用し、本質的に既存の楽曲情報を利用しない、(2)生成された楽曲の特徴情 報を圧縮してインターネット検索できる手法をシステムの一部とする、(3)音楽データのアルゴリズム作曲・自動生成はMIDI情報ベースで行う、(4)関 連するマルチメディア心理学研究の成果を盛り込む、(5)作品系 コンテンツの特性を見極めた自動作曲アルゴリズム・エンジンの提案、(6)過去の音楽情報科学研究の成果とノウハウと思い入れと情熱を注ぎ込む、等のアプ ローチで開発を進めた。その結果、「作品系FLASH」という限定した対象ではあるが「使える」音楽データの自動生成システムを構築するに至り、システム のプログラムソース、並びに構築システムによって生成された楽曲素材を公開した。公開データは現在も蓄積中であり、評価用としても活用される。



8.採択理由


 
ショートムービやフラッシュなどブロードバンド時代のデジタルコンテンツの多様化と普及が進んでいる。このため様々なデジタルコンテンツの背景音楽 (BGM)として気軽に「使える音楽データ」を自動生成し、提供するという意味で、本提案の重要性は高い。提案者の現場での経験や知識は豊富であり、著作 権問題も意識しており、実現性と社会的インパクトが高いので採択することとした。



9.開発目標


 著作権フリーで、実用に耐えうるクオ リティの楽曲を、簡単な操作で生成する自動作曲システムの開発という困難な課題に正面から取り組むというチャレンジングな試みである。FLASHなどの作 品系コンテンツ向けの音楽トラックとして使える楽曲の自動生成を目標とし、社会的ニーズが高い対象にうまく限定して問題設定を行っている。また、自動作曲 領域での音楽情報科学研究の新しいステップを確立することを目指し、音楽的知識を明確にアルゴリズム化して自動作曲する1つのサンプルとして後々まで検 討・活用できるクリーンな音楽モデル構築をも視野に入れている。



10.進捗概要


 FLASH作品としての音楽コンテン ツ利用状況を収集し、作品の種類と音楽の間の関係を心理実験により検証した。実験データを開発者本人が作曲家の視点で分析し、独自の音楽理論に照らし合わ せて、楽曲の自動生成ルールを創出した。Max/MSPのプラットフォーム上に自動生成ルールを実装し、自動作曲システムを構築した。楽曲を自動生成する システムは実現できているが、核となる自動生成ルールは implicit であり、作曲者でもある開発者本人の持つ作曲ノウハウを駆使して作り込まれたシステムという色彩が強く、例えば、他の作曲者が自分の作風にアレンジできる 枠組みの実装までには至っていない。
 実装したプログラムソース及び自動生成した楽曲素材はweb上に公開され、現在も楽曲素材が蓄積されつつあり、ユーザからのフィードバックも得られてき ている。しかしながら、一般的なBGMとして親しまれる「ラテン/ダンス/ユーロビート」といったスタイルへの対応など、試用評価を踏まえたシステムの改 良が必要な状況であり、システムの完成までには課題が残されている。



11.成果


 自動作曲システム「FMC3(エフ・エム・シーキューブ)」の開発に成功した。作曲に関して初心者でも「お任せ」機能によりいくらでも使える音楽クリッ プが簡単に生成できる。作曲の中級者においては、そして限定された範囲とはいえ、印象を大きく変化させるパラメータをユーザに委ねて、簡単なアレンジもで きるシステムとなった。
 図1は開発システムのスクリーンショットである。作曲などの知識が少ないユーザは上部ウィンドウを操作することで音楽スタイル、曲長などを指定するだけ でコンピュータが楽曲を自動生成する。作曲の知識があるユーザは下部ウィンドウに示したインタフェースを利用してコード進行やパート間の音量バランスなど を細かく指定することができる。

 

図1: 自動作曲ツールFMC3の起動画面(Advance mode)

 

 

 ユーザが指定したパラメータをもとに楽曲を生成する際の、システムのスク リーンショットを図2に示す。

 

図2: パラメータ自動生成パッチ

 

 図3に示すように、自動生成した楽曲データと楽 曲を利用して作ったFLASHコンテンツを開発代表者のURL(http://www.suac.net/FMC3/)にてフリーで公開している。

 

図3: 公開サイトに並んだサンプル例

 

 本プロジェクトの開発成果は「音楽クリップの自 動生成システム」というソフトウェアであるが、これをダウンロードして解凍して実行させるのでなく、公開サイトに多数並んでいるサンプルをさっそく使用し て、とりあえずFLASHを作成してみた、というユーザからの反応が印象的であった。著作権の心配が無用で、いくつか聞いてみるとなんとなく使える、とい うことで、本開発成果の生成物であるサンプルがそのまま実用の領域に活用されたのは、開発プロジェクトとして実際に多数のサンプルを生成する、という計画 で進めたことのメリットである。




12.プロジェクト評価


 コンテンツ表現メディアの新たな主流として近年注目を集めているFLASHを対象として、実用に耐えるクオリティの楽曲を自動作曲するシステムを構築し た点は大いに評価できる。しかも、著作権の問題をクリアし、完全フリーの素材として利用可能という点は、インパクトが大きい。作曲家でもある開発者が、独 自の芸術的視点に立つ鋭い洞察により、「使える音楽データ」に求められる要素を分析し、自動生成ルールとしてシステムに組み込んだ点も高く評価できる。
 一方で、現状のシステムは、開発者の持つ音楽理論をインプリメントするという方法論のもとで構築されたために、ユーザは「FMC3」という一人の作曲家 による楽曲しか利用できない。作風の幅という点では、物足りなさが残るのも事実である。また、オープンソースとして公開した点も評価に値するが、他の開発 者が手を加えることは必ずしも容易ではない。システムの新たな発展シナリオの創出に向けた工夫が必要である。



13.今後の課題


 一人の作曲家の作風を作り込むのが、 現状でのシステム構築の方法論となっている。他の作曲家を取り込んで作風の幅を拡げ、システムを高度化していく仕組みの構築が強く望まれる。
 また、音楽理論を暗黙知としてそのまま実装するのではなく、各要素を形式知化し、作曲プロセスの構造を追究することによって応用の世界が拡がるような、 本質的な検討も期待したい。


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