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2005年度上期 未踏ソフトウェア創造事業  採択案件評価書


 



1.担当PM

   高田 浩和 (株式会社ルネサステクノロジ システムコア技術統括部 CPU開発第二部)



2.採択者氏名


開発代表者

吉田 悠一 (京都大学 工学部 情報学科 学生)

共同開発者

太田 一樹 (東京大学 理科1類 学生)


3.プロジェクト管理組織


  株式会社グッデイ



4.委託金支払額


  6,000,000



5.テーマ名


  組み込み環境向け日本語入力環境の開発



6.関連Webサイト


  http://anthy.sourceforge.jp/ 、 http://uim.freedesktop.org/wiki/



7.テーマ概要


 
昨今、携帯電話が爆発的に普及し、携帯電話抜きの生活はほぼ考えられないものとなった。携帯電話によって、電子メールはもちろんのこと、iモードに代表されるような webサービス、MP3フォーマットによる音楽配信、Java搭載など、もはや通話するという携帯電話本来の目的を越えた端末へと進化しており、社会の基盤にも成りうる可能性を秘めている。また、携帯電話に限らず、また携帯電話に限らず、PDA・家庭用ゲーム機・家電等にも高性能なCPUが搭載されるようになって来た。これらを総称して「組み込みシステム」と呼び、組み込みシステムは現代社会においては非常に重要な位置を占めつつある。
 こうした流れの中、組み込みシステム上で日本語を入力する機会はますます増えていくことが予想されるが、現状ではその環境が充実しているとは言いがたい。まず機能面を見てみると、例えば携帯電話はボタン数が非常に少なく(通常20程度)操作しづらいので、高効率な入力機構が必要である。ところが現状の携帯電話機種はポケベル入力を満足にサポートしていない等、十分なレベルに達しているとは言いがたい。また選択肢という側面から見ても、組み込みシステム向けの日本語入力環境でオープンソースなものがないという問題がある。そこで本プロジェクトでは、一般的な使用に耐えるのはもちろんの事、ニッチな要求にも答えられるオープンソースな入力フレームワークを組み込みシステム向けに構築する事を提案する。
 開発内容としては実用性を重視し、PC UNIX環境上で既に動いている入力用ソフトウェアanthy(かな漢字変換エンジン:  
http://anthy.sourceforge.jp/)、uim(入力フレームワーク: http://uim.freedesktop.org/wiki/)を組み込み環境向けに改良する。uimは2004年、anthyは2001年に未踏ソフトウェア創造事業に採択されたプロジェクトであり、開発実績が有る。デスクトップ環境においては無視できていたような組み込みシステム特有の問題をクリアして行き、組み込みシステム上で高効率入力環境を実現する事が本プロジェクトの主要な目的である。

図1 組み込み向け日本語入力環境



8.採択理由


 
組み込みシステム向けに、オープンソースの日本語入力システムを構築しようという、ある意味野心的な提案であることから採択した。計画では、PCで実績のあるAnthyとuimをベースに開発を進めることになっており、完成すれば実用性・有用性の高いシステムとなることが期待できる。しかし、メモリ容量などの制約のもと、組み込みシステム向けの改良は必須となると予想され、効率よく入力できる実用的なシステムを構築するのはそれほど容易なことではないと思われる。そのためには、例えば、Schemeインタプリタについても内部の実装にまで踏み込んで組み込み向けの最適化を行う必要が出てくる可能性もある。日本語入力システムの内部を知り尽くしたデベロッパーだからこそ成し得る成果を期待したい。



9.開発目標


 組み込み環境向けの日本語入力環境を開発する。組み込み環境ではデスクトップ環境よりも、利用可能なメモリ容量やCPUパワーのリソースの面での制約が厳しいため、組み込み環境への対応として、メモリ使用量の削減や実行速度の向上をはかる。移植に際しては、OS依存部分を括り出すことにより可搬性を高める。

 Anthy
 ● 組み込み環境への移植(まずはTRON環境に)
  - 実行速度の向上、省メモリ化
  - OS依存な部分の括り出し
  - 浮動小数点演算の固定小数点演算化
 ● 変換精度の向上
 ● 予測入力(余力があれば)

 uim
 ● Scheme処理系の最適化
  uim内で動作しているScheme処理系を組み込み環境でも利用可能なように最適化する
 ● m32r環境への移植(M32R μT-Engine)



10.進捗概要


 6/10      キックオフ @ルネサステクノロジ
 8/10      進捗打ち合わせ @グッデイ(大阪駅前第2ビル)
 10/15    進捗フォロー: @CodeFest京都2005(京都大学人文科学研究所)

         http://kanji.zinbun.kyoto-u.ac.jp/projects/chise/News/20051013-15.html
 10/18     進捗打ち合わせ @新橋
 10/28-29 中間成果報告会 @関西オープンソース 2005(大阪産業創造館)
         http://k-of.jp/d_bof.html#b102816006F6D
 3/18      最終成果報告会 @日本青年館

         http://mitou.mysite.ddo.jp/modules/eguide/event.php?eid=24



11.成果


 Anthy
 ● 組み込み環境への移植
  - 実行速度の向上、省メモリ化
  - TRON環境への移植(SuperH T-Engine)
  - Symbian OSへの移植作業
 ● 機能拡張
  - 再変換機能の実装
  - 予測変換機能
 ● 変換精度の向上

 uim
 ● Scheme処理系(SigScheme)の作成
  uim内で動作しているScheme処理系を刷新することで、高速化と可搬性の向上を行った。
 ● m32r環境への移植(M32R μT-Engine)
 ● Symbian OSへの移植作業

 

写真1 Symbian OS上に実装した日本語入力環境



12.プロジェクト評価


 組み込み環境向けに、オープンソースの日本語入力環境を発しようというプロジェクトである。たしかにこれまで組み込み環境でも動作する、フリーな日本語入力環境というのは存在しておらず、未踏性は非常に高いと思われた。

 本プロジェクトでは、PC Linux上で使用され実績のある日本語変換エンジン Anthyと 日本語入力フレームワーク uimを、組み込み環境に移植した。Anthyの開発を吉田氏が、uimの開発を太田氏が担当し、作業分担することで開発が行われた。大阪と東京という地理的距離は何ら開発の障害にならなかったようである。

 PCで動作しているソフトウェアをそのまま組み込み環境に持って行くだけでは、動作速度が遅すぎたりメモリが不足して動作しない場合があり実用的に動作しないため、組み込み環境向けには速度の最適化やメモリ使用量の削減といったチューニングが必須となる。今回の開発では、内部のデータ構造にまで踏み込んだ変更を施すことにより、これら組み込み向けの最適化を実施している。しかしながら、このような変更により効率よく入力できる実用的なシステムを構築するのは、これらがプログラムの根幹にもかかわる部分でもあるだけに、それほど容易なことではない。日本語入力システムの内部を知り尽くしたデベロッパーだからこそ成し得た作業であったといえよう。Anthyは SH T-Engine(SH7727)の T-Kernel上で、uimは M32R uT-Engineの Linux/M32R上でそれぞれ動作させることに成功している。
 Anthyについては、計画段階では未定であった、再変換機能や、予測変換機能についても実装が行われた。一方、浮動小数点演算の固定小数点演算化については、開発期間中の対応は見送られた模様である。
 携帯電話のSymbian OSへの移植についても、審査時にできれば取り組んでみたいと言う話は聞いていたものの、おそらく時間的にも技術的にも難しいだろうと思っていた項目であったが、結局、プロジェクト後半のわずかな時間の間に取り組み実現してしまったとのことであった。性能的にはまだパフォーマンスが不十分のようであるが、動作は確認できている。
 さらに、uimで使用されているSchemeインタプリタについても、調査の結果、既存のものでは満足できない部分があるとのことから、今回、SchemeのR5RS(Revised^5 Report on Algorithmic Language Scheme) 仕様に準拠した全く新しい処理系 SigSchemeをスクラッチから開発し、動作させている。
 
 以上のように、本プロジェクトでは当初の目標を上回る成果を出すことができている。これは主として、開発者である吉田氏と太田氏がまさに天才肌のプログラマであり、非常に高いプログラミング能力とスキルを有していることを裏付けるものである。 しかし、これはひとえにPMの責任ではあるが、今回のプロジェクトに関しては、どこか不完全燃焼な感が否めず、今回のテーマや当初の目標設定が彼らの実力にふさわしいものであったのか、彼らが真にやりたいことであったのかとの思いを最後まで完全に拭い去ることができなかった。もしも彼らがあふれる才能をひとつのテーマに集中したならば、もっと想像もつかないような成果が出ていたかもしれない。厳しい見方かもしれないが、「彼らはまだまだこんなものではない」というのが今回の私の評価結果である。



13.今後の課題


 オープンソース・コミュニティで活躍する人たちの顔ぶれが固定化し年齢層が徐々に上がっているという声もある中、彼らのような若手開発者がバリバリと一線で活躍していることは非常に嬉しいことである。これからもぜひ日本発のオープンソース・ソフトウェアを世界に発信すべく、活発な活動を続けていって欲しい。大いに期待している。
 組み込み環境向けのチューニングを実施したが、パフォーマンスにはまだ改善の余地があるとのことである。実用化に向け、これらの課題についても解決すべく、ぜひ引き続き開発を進めていって欲しい。以下、開発者からのコメントについても転載しておく。

 Anthy
 今回の未踏プロジェクトを通して、TRONとSymbian OSという二つのOSに対応させることができた。実際に動作させることが出来たが、まだ応答速度やユーザインタフェースの問題で実用段階とは言えない。この点をこれからも改善していきたい。

 symbianfep
 最終的に作成したSymbian OS上の入力環境は、未踏終了時点では単体のGUIアプリケーションとして提出する。より実用化する為に、これをSymbian OSのFEPフレームワークに対応させ、一般に配布する必要がある。

 uim
 SigSchemeは uim 1.1.0に取り込まれる予定である。これによってメモリ効率・処理速度の点で大きいアドバンテージを得ることが出来る。また、同じく未踏ソフトウェア創造事業で支援を受けた Wide Studioプロジェクト(http://www.widestudio.org/) との連携も視野に入れている。

 SigScheme
 開発した処理系は単独使用も視野に入れている。 Gimp (http://www/gimp.org/)の拡張言語 script-Fuが使用している Scheme処理系を置き換えることをまず第一の目標に考えている。


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