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2005年度上期 未踏ソフトウェア創造事業  採択案件評価書


 



1.担当PM

   原田 康徳 (NTT コミュニケーション科学基礎研究所 主任研究員)



2.採択者氏名


開発代表者

高嶋 章雄 (北海道大学 ベンチャービジネスラボラトリー 学術研究員)

共同開発者

山本 恭裕 (東京大学 先端科学技術研究センター 産学官連携研究員(特任助教授))


3.プロジェクト管理組織


  NTT出版株式会社



4.委託金支払額


  5,339,371



5.テーマ名


  動 画閲覧方法の動的組み合わせのためのインタラクティブシステム



6.関連Webサイト


  http://km.meme.hokudai.ac.jp/meec/



7.テーマ概要


 
本開発では,動画像を閲覧する際に,ユーザが能動的に閲覧方法を選択し,組み合わせることを可能にするイ ンタラクティブシステム,Movie Experience Elements Composerの構築を行った.ユーザは様々な動画閲覧方法をキーボードの個々のキーにマッピングすることができ,押下するキーの組み合わせで閲覧方法 の組み合わせが可能となる.また,組み合わせ方法をダイナミックに記録し,キーに割り当てることが可能であるため,ユーザは動画を閲覧すると同時に新たな 閲覧方法を創りだすことができる.



8.採択理由


 
これからの動画閲覧においては,ユーザが能動的に閲覧するだろうということはよく言われているが,本提案では,プリミティブの閲覧方法を提供し,それらを 組み合わせて動的に新しい閲覧方法を構築できるようにするという点が興味深い.開発に多くの時間を割けるようなので,おもしろい結果を期待する.



9.開発目標


 これまで,動画像は,<作品性の高 い>ものを閲覧者が<消費>するということが前提とされ,その閲覧方法も受動的なものであった.そのため,映像メディアそのものが,閲覧中に能動的にイン タラクションを行う対象として位置づけられることは少なく,映像再生のためのリッチなインタラクションを提供する環境は非常に少ない.

 研究レベルでは,動画像データとのインタラクションの可能性,およびその重要性が認識され始めている,例えば、MPEG-7などに代表される動画像特徴 を記述するための標準規格の策定が進み,メタデータを利用した作品やシーンの検索が可能になってきている.また,ハイパービデオのように,シーン間のつな がりや関連を明示化,または構造化し,シーンのインタラクティブなアクセスを可能にする試みもある.これらは,動画像に接する態度として能動的ではあるも のの,各種メタデータは閲覧中のインタラクションを主たる目的とはしていない.

 そこで,本プロジェクトでは,提案者がこれまで研究を行っている「TbVP (Time-based Visual Presentation)」という枠組みに基づき,研究分野での経験を生かしながら,動画像の「時間変化を伴う」「見える」という特徴を直接的に変化さ せ得るインタラクションを提供し,動画像閲覧時に様々な見方で映像を経験できる環境構築を目的とした.

 本プロジェクトの根幹は,動画像を,映画やテレビ番組などの完成した作品を鑑賞するためだけのメディアとしてではなく,能動的な表現の変化が可能なメ ディアとして捉え直すことにある.システムを構築するにあたって重要視する点は,動画像の見かたをあらかじめ決定した後に閲覧を行うのではなく,閲覧しな がら動的に見かたを変更すること可能にすることである



10.進捗概要


 本開発では,ユーザが動画像を閲覧す る際,能動的に閲覧方法を選択し,組み合わせることができるインタラクティブシステム,Movie Experience Elements Composerの構築を行った.

 

 1. 開発目標
 本プロジェクトの開発目標は以下の3点である.
 ・動画像の「時間変化を伴う」「見える」という特徴をインタラクティブに変更できること
 ・様々な閲覧方法を自由に組み合わせること
 ・組み合わせて創出された閲覧方法を即座に適用することができ,新たな組み合わせのための素材として
利用可能であることこれらを満たすシステムを構築することで,閲覧者の動画 像に対する接し方が,より能動的なものとなることが期待される.

 2. 開発結果
 開発結果として,上記3点の開発目標を実現するシステム,Movie Experience Elements Composerを構築した.システム内容,特徴の概要は下記のとおりである.
 ・対象となるムービーファイルの表示時点,表示速度を変更可能なエレメント群,ピクセル単位での表示色指定が可能

 なエレメント群を実装し た.また,新たなエレメントを作成した際,容易に取り入れることが可能な設計を行った
 ・個々のエレメントをキーボードの各キーにマッピングし,キー押下とエレメントの適用を連動させることで,
直感的な組み合わせインタラクションを実現した
 ・組み合わせ方法を記録し,ひとつのキーに割り当てなおす機能を設けることで,ユーザが閲覧を行うと
同時に閲覧方法も構築できるようにした
 ・functional recordingとprocedural recordingの2種類の記録方式を取り入れることで,幅広い組み合わせ方法
の再利用を可能にした

 meecシステムの概観を図1に示す.meec-Elementを組み合わせるmeec-ElementComposerを中心に,meec- Elementを保持するmeec-ElementRepository,組み合わせ結果を表示するmeec-MovieBrowserがシステムの中核 をなす.各meec-ElementはXML形式で記述されたファイルにより,入力インタフェースであるキーボードの各キーにマッピングされている.各コ ンポーネントについては,11.成果の章で詳細に述べる.

 

図1. meecシステム概観



11.成果


 本プロジェクトでは,動画閲覧方法を動的に組み合わせることを可能とするシステム,Movie Experience Elements Composerを構築した.以下に,システム全容,各コンポーネント詳細,操作時の機能について説明する.

 

 1. システム全容
 図1に開発したmeecシステムの概観を示す.
 システムを利用した一連の閲覧プロセスは下記のとおりである
  1. あらかじめ動画像の時間・空間属性を変更するエレメント(meec-Element)を用意し,meec-ElementRepositoryに保管して おく
  2. XMLファイルで,各エレメントをKeyboardの各キーにマッピングする
  3. ユーザはmeec-MovieBrowserに表示される映像を見ながら,キー押下により閲覧方法を変化させる
  4. meec-ElementComposerでは,ユーザにより押下されたキーに対応するエレメントを組み合わせ,meec-MovieBrowser上に 表現される映像を随時変更する
  5. meec-ElementComposerにて組み合わされた閲覧方法を,ユーザは必要に応じて記録し,動的にXML

    ファイルを更新することで,新たなキーにマッピングすることができ る.これらはキーボード操作のみで実現される

 なお,幅広いユーザ層に普及させることを狙い,javaで実装を行った.動作にはJREおよびQuickTime for Javaが必要となる.

 

 2. コンポーネント詳細
 図1に記された各コンポーネントについて詳細を以下に述べる.

 2.1. meec-Element & meec-ElementRepository
 meec-Elementは,動画の時間属性や空間属性を変更するクラスファイルである.ユーザ自身がファイルを作成したり,既存の画像処理アルゴリズ ムなどを利用したりすることを想定しており,javaインタフェースとしての実装となる.
 meec-Elementで扱うデータ属性は,すべてのピクセルにおけるRGB値,変更を施す元領域,施した後の表示領域(図2.),及び, QuickTime for Javaで提供される関数を利用した動画の速度や表示時点である.

 

図2. 変更元領域と結果表示領域

 

 本開発においても,画面をモノクロにする,再生 速度を変化する,空間の一部分を指定する,映像を拡大する,など,プリミティブな機能を備えたmeec-Elementのプログラム例を30編程度作成し た.以下にmeec-Elementの例を列挙する.

 ・空間属性変更エレメント(RGB)
  - GrayFilter.class:   モノクロ映像に変更
  - RedFilter:        赤成分を強調
  - GreenFilter:       緑成分を強調
  - BlueFilter:        青成分を強調

 ・空間属性変更エレメント(領域)
  - ShiftRight.class:     変更元領域と結果表示領域を右にずらす
  - ShiftLeft.class:      変更元領域と結果表示領域を左にずらす
  - ShiftUp.class:       変更元領域と結果表示領域を上にずらす
  - ShiftDown.class:     変更元領域と結果表示領域を下にずらす
  - Expander.class:      変更元領域と結果表示領域を広げる
  - Shrinker.class:      変更元領域と結果表示領域を狭める
  - ZoomIn.class:       ズームインする
  - ZoomIn.class:       ズームアウトする
  
 ・時間属性変更エレメント
  - ShiftForward100:    100フレーム先の時点にずらす
  - ShiftBackward100:   100フレーム前の時点にずらす
  - RateDecrementer:   速度を徐々に遅くする
  - RateIncrementer:    速度を徐々に遅くする
  - Pause:            一時停止
  - Moderate:         オリジナルの速度に変更(1倍速)
  - F_Largo:          速度を変更する(0.2倍速)
  - F_Adagio:          速度を変更する(0.5倍速)
  - F_Andante:         速度を変更する(0.8倍速)
  - F_Allegretto:        速度を変更する(2倍速)
  - F_Allegro:          速度を変更する(4倍速)
  - F_Presto:          速度を変更する(10倍速)
  - B_Largo:          速度を変更する(-0.2倍速)
  - B_Adagio:          速度を変更する(-0.5倍速)
  - B_Andante:         速度を変更する(-0.8倍速)
  - B_Allegretto:        速度を変更する(-2倍速)
  - B_Allegro:          速度を変更する(-4倍速)
  - B_Presto:          速度を変更する(-10倍速)

 

 2.2. XML File
 本開発では,各エレメントとユーザが操作するキーボードの各キーとのマッピングをXMLファイルにより行った.簡潔な表現を用いることで,ユーザが必要 に応じてマッピング内容を確認したり,直接書き換えたりすることが可能である.またXMLファイルは,後述するレコーディングプロセスにおいてリアルタイ ムで書き換えられる.
 下記に本開発で利用するXMLファイルの例を示し, 各タグについて説明する.

 ・<?xml version="1.0" encoding="UTF-8"?>:
   xmlファイルであることを宣言し,バージョンとエンコーディング方法を指定.
   例ではバージョン1.0,UTF-8でのエンコーディングを行う.
 ・<meec>:
   本システムで利用するファイルであることを明示.
 ・<keycode id=”VK_Q” ></keycode>:
   エレメントを割り当てるキーを設定.例では「Q」に割り当てる.
 ・<mee file="GrayFilter"/>:
   親ノードで示されるキーに,割り当てるエレメントのファイル名を指定.ひとつのキーに対して複数のエレメントを指定可能.例では 「GrayFilter」を設定.子ノードに<startTime>および<endTime>が存在しない場合,エレメントは対 象となるキーが押されている間継続して適用される
 ・<startTime>380</startTime>:
   親ノードで示されるエレメントが,キーを押されてから何msec後に適用されるかを指定.例では0.38秒後を設定.
 ・<endTime>4200</endTime>:
   親ノードで示されるエレメントが,キーを押されてから何msec後に適用を終えるかを指定.例では4.2秒後を設定.startTimeより小さな 値が指定された場合,あるいは0が指定された場合は,対象となるエレメントは,キーが押されている間継続して適用される

 なお,適用時間の記述がないエレメントをperpetual element,適用時間の指定を伴うエレメントをtransitive elementと呼ぶ.


図3. キーマッピング用XMLファイル例

 

 2.3. Keyboard
 本開発では,キーボードタイプのデバイスをインタフェースとして利用する.ユーザは動画閲覧時において,複数のキーボード押下を行うことで,様々なエレ メントを組み合わせた閲覧が可能となる.

 利用したキーボードデバイスは,GIGA-TMS社製のKB20AUであり,以下のような特徴がある.
  ・6キーロールオーバーであり,6個までのキーの同時押下を検出可能
  ・キートップの表示を任意に変更可能
  ・20キーとコンパクトであり,テレビリモコンに似た感覚での操作が可能
 図4に使用例を示す.

 KB20AUはプログラマブルキーボードであり,図5に示すように,実際にはフルサイズキーボードの一部分を割り当てている.そのため,本システムの操 作は,一般的なキーボードやノートPCのキーボードでも操作することができる.ただし,広く流通しているキーボードやノートPCのキーボードは,その多く が2〜3キーロールオーバーの仕様となっている.このようなキーボードでは,複数同時にキーが押された場合に検出できる数が少なく,組み合わせによっては 押下されていないキーを誤って検出する場合があるので注意が必要である.完全nキーロールオーバー対応のキーボードであれば問題なく動作する.

 なお,3節で述べる閲覧方法記録用のレコーディングキーと,表示を元に戻すリセットキーは,あらかじめマッピングが固定され,図5に示す「0」キーと 「9」キーにそれぞれ割り当てられている.また,キーをダブルクリックすることで,キー押下を保持した状態とみなす機能がある.


図4. キーボードデバイス使用例


図5. KB20AUと一般的なキーボードとの対比

 

 2.4. meec-ElementComposer
 meec-ElementComposerでは,ユーザが押下したキーに対応するエレメントの種類と適用期間をXMLファイルより読み取り,meec- ElementRepositoryに保管されているエレメントを組み合わせる.組み合わせた際の適用方法に関しては,キー押下の順番を遵守し,すべての エレメントを順に評価する.

 同時に複数のエレメントを適用する場合,エレメントが特定の属性値を相対的に変更する場合は,すべてを順に適用した結果が得られる.例えば,RGBのR 成分を10ずつ追加するエレメントと,R成分を3ずつ減少させるエレメントが適用された場合,キー押下の間,R成分は7ずつ追加される.一方で,エレメン トが特定の属性値を絶対的に変更する場合は,最後に押下されたキーのエレメントによる変更がそれまでの変更を上書きする.例えば,R成分を100に設定す るエレメントに対応するキーが押され,その後R成分を80に設定するエレメントに対応するキーが押された場合,両者が押されたままでもR成分は後に押され たキーが示す80に設定される.

 また,meec-ElementComposerで組み合わせられた閲覧方法は,それらを記録し,ひとつのキーに割り当てることができる.記録方法とし て,エレメントの持つ機能をコピーするfunctional recordingと,エレメントが適用された時間情報を保持するprocedural recordingを採用した.詳細は3節に述べる.

 2.5. meec-MovieBrowser
 meec-MovieBrowserは,meec-ElementComposerで組み合わせられたエレメント群を,実際の動画に適用し,結果をディ スプレイ上に表示する.ブラウザのウィンドウがアクティブになっている状態では常にキー入力を受けつけ,リアルタイムで画像表示に反映させる.実装上は, 2枚の動画像を重ねて表示し,一方をベースとなるオリジナル映像,もう一方を各エレメントによる属性変更が適用される映像として扱っている.

 また,インフォーマルなユーザ観察から得られた結果として操作状況が分かりづらいという意見が得られたため,ブラウザのウィンドウのタイトルスペースに 現在の操作状況をリアルタイムで表示し,ユーザへのフィードバックとした.フィードバックを映像処理でなく,テキストとして表現することで,ユーザの閲覧 プロセスを極力妨げないよう配慮した(図6).

 

図6. タイトルバーにおける操作状況フィードバック

 

 3. システム動作詳細
 本システムを利用した操作は,動画の閲覧行動と閲覧方法の記録行動とから構成される.両者は分離したフェーズではなく,両者ともユーザによる画面直視と キーボード操作のみによって実現される.

 本節では,閲覧方法を記録することで,それを新たな閲覧方法組み合わせのための素材として再利用する過程に関して詳述する.2.4.2.4節に述べたと おり,記録方式として下記の2種類を採用した.
  ・functional recording:適用されているエレメントの機能をコピーする記録法
  ・procedural recording:エレメントの適用時間情報を更新する記録法
 これら2種類の記録方式に沿ったシステム動作を,perpetual elementのみの組み合わせを記録する場合と,transitive elementも含めて記録する場合とに分けて,図7〜10を用いて説明する.これらの図はすべて右方向へ操作時の時間軸をとり,左端に表示したキーボー ドのキーが押されていた時間を帯グラフとして表している.なお,キーボード右上のキーはレコーディング操作用の固定キー(以下RECキーと呼ぶ)である. キーボード上のキーの色分けについては,1色に塗られたキーにperpetual elementが,複数の色が塗られたキーにtransitive elementが割り当てられていることを示している.帯グラフの色も同様に,それぞれの色が適用されたエレメントを表しており,ある時刻において複数の 色が混在する場合は,複数のエレメントが同時に適用されていたことを示す.それら同時刻に存在するエレメントについては,帯グラフ領域内の下部にあるもの ほど後に適用されたことを意味する.

 3.1. functional recording(perpetual elementのみ)
 図7に複数のperpetual elementの機能を組み合わせて記録する操作例を示す.

 

図7. functional recording(perpetual elementのみ)操作例


 図の例では,まず「1」「2」「3」の perpetual elementを用いた閲覧方法を順に適用している.これらは押下されている間中,それぞれの閲覧方法が適用されている状態となる.それら3つが同時に適 用されている時刻において「4」のRECキーをタイプ(押した直後に離す)している.タイプした際,RECキー以外のキーがひとつ以上押下状態にあれば functional recordingが行われ,ここでは「1」「2」「3」の機能がコピーされた状態となる.その後に押されたキーにその機能がマッピングされ「5」,それ 以降,該当キーが押さている間,「1」「2」「3」のキーを同時に押し続けるのと同様の効果が得られる「6」.

 なお,「6」では3種類の閲覧方法が同時に適用されるが,内部的には,「1」「2」「3」の順に評価され,記録時と全く等しい閲覧状態を再現する.

 3.2. procedural recording(perpetual elementのみ)
 図8に複数のperpetual elementの適用時間情報を保持しながら記録する操作例を示す.



図8. procedural recording(perpetual elementのみ)操作例

 

 図では最初にRECキーをタイプしている. RECキーがタイプされた際「1」,他のどのキーも押下状態に無ければprocedural recordingが開始される.「5」で再びRECキーがタイプされるまでに押下されたキーに対応するエレメントが,キーの押下時刻の情報とともに記録 される.図に示す例では,「2」「3」「4」が帯びグラフで表された時間情報とともに記録される.なお,記録開始「1」から「2」を押し始めるまでのブラ ンク,および「4」を押し終わってから「5」で記録を終了するまでのブランクは破棄される.一方で,「2」を押し終えてから「3」が押し始めるまでのブラ ンクは記録される.

 RECキーが離された後「5」,最初に押されたキーに閲覧方法の記録が割り当てられ「6」,以降そのキーが押されている間中,「2」「3」「4」に対応 するエレメントが,時間情報に基づき再現される「7」.なお,「7」を長時間押し続けても,「4」が終了する時間を過ぎると,どの閲覧方法も適用されない 状態となる.「7」を短時間で離した場合は,「2」「3」「4」に対応するエレメントが途中までしか適用されていなくても,エレメントの適用をすべて中止 する.

 3.3. functional recording(transitive elementを含む)
 図9にperpetual elementとtransitive elementを機能的に記録する操作例を示す.

 

図9. functional recording(transitive elementを含む)操作例

 

 図の例では,「1」でperpetual elementが,「2」で10.進捗概要の2において記録されたtransitive elementが適用されている.「3」でRECキーがタイプされた際,「1」「2」のエレメントが適用されていたことから,両者が機能的にコピーされ る.機能的にコピーされるとは,キーを押し続ける間エレメントを適用する「1」と,3種類のエレメントを順に適用する「2」が,各エレメントが元来,保持 している時間情報を書き換えないで記録されることを意味する.

 具体的には,「3」がタイプされた瞬間には,「1」のエレメントと,「2」の2番目のエレメントの2種類のみが適用された状態であるが,その瞬間の適用 状態を記録するのではなく,「1」「2」ともにオリジナルの時間情報のまま記録される.同様に,「2」のキーはすべてのエレメント適用を終える前に離され ており,閲覧方法の適用が途中で中止されているが,その中止時点の時間情報や,中止されたという情報は記録されない.つまり,「4」では,「1」で押され たキーと「2」で押されたキーとを,同時に押し始めるという組み合わせが記録される.

 「5」では,割り当てられた「1」と「2」のエレメントが同時に適用され,「2」のエレメント適用時間が過ぎてもキーの押下状態が続いているため,それ 以降はperpetual elementである「1」のエレメントのみが適用され続けている.

 3.4. procedural recording(transitive elementを含む)
 図10にperpetual elementとtransitive elementとを適用時間情報を更新して記録する操作例を示す.

 

図10. procedural recording(transitive elementを含む)操作例

 

 図では,「1」と「4」にはさまれる時間におけ る閲覧方法の適用プロセスを記録している.「2」でperpetual elementが,「3」で10.進捗概要の2において記録されたtransitive elementが途中まで適用されている.procedural recordingにおいては,各エレメントが実際に適用された時間情報を記録するため,「5」に割り当てられるエレメントの遷移は,まず,「2」が単独 で適用され,その後「3」と混在して適用され,「2」の適用が先に終了し,「3」の適用が終わる,という流れになる.なお,「3」は,10.進捗概要の2 において記録されたtransitive elementを途中までしか適用していないため,「6」においても途中までの適用となる.



12.プロジェクト評価


 計算機性能の向上や地上波デジタル放送の普及に伴い,動画閲覧の方法がインタラクティブなものになることが予想されている.しかし,これまでのアプロー チでは,オンデマンドで作品を見ることや,新たな映像作品を作り上げることにのみフォーカスがあてられており,動画像の「時間変化を伴う」「見える」とい う特徴を積極的に変化させながら映像を体験するという点にフォーカスをあてた試みはほとんどなされていない.

 本開発ではこの点に着目しシステムを構築しており,より能動的な閲覧を実現するため下記の機能がシステムの特徴として挙げられる.
 ・キーボードインタフェースを利用することで,一般的なテレビリモコンを扱う感覚で,閲覧方法の変更,組み合わせができる
 ・ユーザは閲覧中に,閲覧方法の新たな組み合わせを創出し,瞬時に利用することが可能である
 ・functional recordingとprocedural recordingの2種類の組み合わせ記録方式を採用したことで,時間変化を伴わない組み合わせと,時間変化を伴う組み合わせの両者を記録することがで き,ユーザは様々に組み合わせを行うことができる
 ・キー割り当ては簡潔なXMLで記述されており,ユーザが割り当て内容を確認したり,ファイルを直接書き換えることで割り当てを変更したりすることも可 能である
 ・各エレメントはjavaインタフェースとしての実装であり,新たな機能を持つエレメントを容易に追加することができる

 meecシステムを利用して,動画像を能動的に閲覧する様子を以下に示す.

 1. 再生状況のフィードバック閲覧
 動画閲覧中にはしばしば,速度を変化させて動画内容の動きを追ったり,不要な部分を流し見したりする.図11では,過ぎ去った時点を見直す際,巻き戻し と同時に表示をグレーに変化させた閲覧を行い,functional recordingを行った後,巻き戻しに利用したキーにこの閲覧方法を割り当てる様子を示している.結果として,巻き戻し中はグレーに映像が変化するた め,ユーザは容易に再生状況を知ることが可能となる.また,ユーザ自身へのフィードバックのみならず,例えば授業で化学実験のビデオを生徒に見せる際に も,教師が行う操作を,生徒が知ることができるなど,プレゼンテーションを補助する役割を果たすことも考えられる.

 

図11. 再生状況のフィードバック閲覧

 

 2. 注目時点の詳細な再観察
 スポーツ中継などでは,注目すべきプレイをスロー再生して放映することが頻繁に見られる.しかしながら,このような再生は,放送局の編集者の意図に基づ くものであり,閲覧者がそれをコントロールすることは困難である.図12に示す例では,2.5.1で記録した閲覧方法で巻き戻した後,スロー再生と拡大を おこなうエレメントを適用することで,同様の効果を生み出している.procedural recordingを行い,特定のキーに一連の閲覧方法を割り当てることで,ユーザ自身が注目したいと感じた時点が現れたとき,容易に詳察し直すことが可 能となる.

 

図12. 任意の時点を詳察


 3. 空間的な一部分の詳察
 これまでの動画メディアでは,映像空間に流れる時間はすべて均一であることが前提とされているが,複数の時間の流れを映像の中に取り入れ,それらを比較 したり選択的に閲覧したりすることでより能動的に動画に接することができる.図13では,2.5.2節で記録された閲覧方法を,空間の一部分の領域に適用 し,その位置をキー操作でずらしている.このような閲覧方法により,スポーツ映像である特定の選手に注目したり,ゴール付近のプレイだけを先読みしたりす るなどの閲覧が可能になる.


 

図13. 空間の一部分に対する閲覧



13.今後の課題


 研究ベースでは,動画閲覧中のインタ ラクションをよりリッチなものとするような環境の重要性は,徐々にではあるが,理解と共感が広がっている.また一般生活者のレベルにおいても,CGM (Consumer-Generated Media) という言葉に象徴されるように,テキストや画像だけでなく映像メディアも含め,いわゆるプロフェッショナルが制作した作品以外の動画像がウェブ上を流通す るようになりつつあり,多くの人々がそれらの動画像を共有する状況が生じている.

 このような現状から,本プロジェクトの根幹となる,能動的な表現の変化が可能なメディアとしての動画像およびリッチなインタラクションを提供する環境に おける閲覧経験という点で,その価値と重要性をアピールするための下地が整いつつあるように思われる.

 今後は,そのような状況をより促進するためにも,閲覧エレメントの多様化,エレメント作成のための環境構築,作成されたエレメントの共有と流通のための 基盤,といった点に注力したい.同時に,動画像における多様な閲覧方法がもたらす影響についてユーザからのフィードバックやコメントを広く集めていきたい と考えている.


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