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2005年度上期 未踏ソフトウェア創造事業  採択案件評価書


 



1.担当PM

   中島 秀之 (公立はこだて未来大学 学長)



2.採択者氏名


開発代表者

うるまでるび(アーティスト名) (有限会社うるまでるびプロダクション 代表取締役)

共同開発者

なし



3.プロジェクト管理組織


  有限会社 うるまでるびプロダクション



4.委託金支払額


  17,089,585



5.テーマ名


  使いやすさを極めた先進的なアニメーションソフトウエアの開発



6.関連Webサイト


  http://urumadelvi.jp/feeling



7.テーマ概要


 
本プロジェクトは2004 年度上期に採用した「使いやすさを極めたアニメーション用ドローソフトの開発」の後継となるものである.2004 年度はアニメーションを前提としたドローソフトが開発され、それだけでもかなりの完成度を見せたが、やはりアニメーション機能の欠落が痛いと感じたため、後継プロジェクトの提案を薦めたものである。ただし、二つで一つの評価はせず、あくまで今回提案のものを独自に判断するという基準で採択を行った。


 ドローソフトに盛り込まれた様々なアイデアと整合性を保った形でのアニメーション機能の導入を期待した。概要にも述べたが、プロが使用するソフトが前提となっているので、動きの指示などもスクリプト言語によるものではなく、プロの感性が活かせるものである必要がある。そのようなソフトは現存せず、完成すれば画期的なものであると考えて採択した。


 提案者はプログラム開発者であると同時に、プロのアニメーション・アーティストである。これまで既存のアニメーションソフトを日常的に使用してきた経験から、以下のような点が現在の問題点であると考え、本プロジェクトが提案された。


 1) 機能ばかりが多く、使いやすいことが蔑ろにされている
 2) 描画エリアが小さく、大らかに絵をかくことができない
 3) 表面的なバージョンアップに終始し、基本設計は古いままである
 4) 国産のソフトウェアが極端に少なく、海外ソフトメーカーの独占状態にある


 これらの問題を解決しながら、コンピュータを使用した新しいアニメーション制作の概念を提案し、実際にアニメーションソフトを制作することによってその正当性を証明することが本プロジェクトの目的である。



8.採択理由

  プロが使えるアニメーション用ドローソフトの開発がテーマで,16年度の未踏プロジェクトで良い成果を出した.描画機能としては大変良いシステムができたが,アニメーション機能という初期目標を完全には達成できなかった.今回の採択はアニメーション機能の完成も一つの理由であるが,前回の補完に留まってもらっては困る.今年度単独で未踏プロジェクトにふさわしいシステムの開発ができるかどうかが判断基準となる.アニメーションの時間制御に関する使いやすいユーザインターフェースをドロー機能のインターフェースと整合性のある形で実現することが要件となる.




9.開発目標


 重要な点はプロのアーティストが使うということにある。したがって、本人のストロークなどをそのまま活かせる道具作りが重点となり、様々な描画ツール(たとえば楕円やスプライン補完など)や、アニメーションのためのスクリプト記述言語などの開発は目的外である。


 1)使いやすさにこだわったインターフェース
 2)フレキシブルなタイムライン表現
 3)描かれた絵を簡単に変形させるための技術
 4)直接操作の記録によるアニメーション作成手法
 5)パッケージソフトウェアに負けない完成度


 また、採択時に私から前年度開発したドローソフトとの概念の一貫性を保つデザインをお願いした。



10.進捗概要


 実施者としては結構タイトなスケジュールであったようだが、結果は全く順調であった。予期を上回るデザインのシステムが完成したと考える。



11.成果


 以下の機能を持つソフトウェアが開発された。


 @ 使いやすいインターフェース


 アニメーション制作において、管理しなければならない情報は、キャンバス、オブジェクト、時間など、非常に多岐にわたる。その要素は年々増えていき、今日のアニメーションソフトウェアは、メニューやボタンが数多く配置された複雑で難解な作りとなってしまった。今回のプロジェクトでは、すっきりと使いやすいインターフェースを持つことを第一の目標とした。ただし、既存ソフトウェアと較べて機能を落とさないことも肝要であるため、そのバランスを取るために今までにないアイデアを多数盛り込む結果となった。

 

 ・ わかりやすいボタンインターフェース、キーボードによるツールの選択機能などを充実させ、初心者にとってわかりやすく、

  かつ熟練すればするほど制作時間が短縮される「なじみやすく奥が深い」ソフトウェアを実現した。


 ・ 人間が何気なくやってしまうマウスの動き、クリック動作などを研究し、そのような場面で不都合が起きないようにするだけでなく、

  むしろその動きがソフトウェアの持つ機能へとつながるように工夫をこらした。


 ・ 画面上には現在の作業に必要なものしか表示せず、すっきりとした外観でありながら

  「使いたいものがそこにある」気が利いたソフトウェアを実現した。

 

 インターフェースをたくさん表示した状態(右)とすべて隠した状態(左)。キーボードショートカットにより、どちらでも同じように作業できる。


 

 A フレキシブルなタイムライン表現


 アニメーションソフトウェアで、時間を管理するために用意された横長のパネルを「タイムライン」と呼ぶ。時間を制御するタイムラインこそがアニメーション表現の核であるが、実はこれまで深く追求された例がない。既存のソフトウェアにおけるタイムラインは、単に時間をグリッドに区切った目盛りでしかなく、まるで進化していないのである。提案者はこのタイムラインをもっと人間らしく操作できる新たなツールとして位置づけ、これまで誰も考えなかったフレキシブルなタイムラインを実現することを目指した。


 本ソフトウェアのタイムライン上には、その時間におけるキャラクターのポーズを示す「●」や「?」などの記号が乗っている。記号をドロップするとその下地のグリッドが特殊な機能が追加されたことを表す模様に変わる。


 例えば下図は、三角記号をタイムライン上にドロップした例で、アニメーションを再生すると、この部分でキャラクターの動きがだんだんゆっくりになり、最後には停止する。これはアニメーションの重要な表現手法のひとつ「イーズイン」を設定したものであるが、グリッドそのものがアート表現のツールとなることを提案するのは、おそらく本プロジェクトが世界初である。

 

 

 その他にも、だんだん動きが速くなる「イーズアウト」、最後まで再生されたら先頭に戻る「ループ」、そして制作中に他のフレームを参照できる「オニオンスキン」などの機能を、この記号ドロップによってタイムラインに指示することができる。

 

 B 描かれた絵を簡単に変形させるための技術


 アニメーション制作において、物体の動きを表現するということは、物体を変形させるということに等しい。現在のアニメーション制作現場では、物体の変形を作成する作業は人間が手で描くことにより行っているが、これはつらく長い時間を要するもので、こういった単純作業こそコンピュータに代行させるべきものである。


 コンピュータに変形を作らせようというアプローチは過去にも例がないわけではなく、これまでのグラフィックソフトウェアにも図形を変形させる手法は用意されている。その一般的な例として、その物体が含まれる空間をゆがませる方法があるが、この方法ではまるで平板に絵を描き、その平板を曲げているようにしか見えず、まったく使い物にならない。


 もっとやわらかく物体を変形する方法として、3D のソフトウェアに多く見られる骨組みの概念や、物理シミュレーションにより、自然な変形結果を得られるアプローチも見受けられるが、前者はあらかじめ物体に骨組みを組み込むという構造設計が必要であるし、後者は膨大な計算時間を要するために、気持ちよく描くことが重要な手描き用アニメーションソフトウェアにはなじまない。


 本プロジェクトでは、これら既存の手法の抱える問題をすべて解決するアルゴリズムを考案し、手描きアニメーションに最適な変形操作を実現した。それは一枚の絵を描いて指示を与えるだけで変形結果が瞬時に得られ、しかもそれがあたかも人間が時間をかけて作り上げたかのような美しい形をしているという画期的なものである。


 この変形アルゴリズムでは、図形の内部を三角形分割する。そしてそれぞれの三角形の変形前の形状と,変形後の形状の間の差異がなるべく小さくなるように計算を行う。


 本アルゴリズムの肝は三角形の歪みの表現である。最小化計算を緩和計算でなく解析的に行うには、歪みを表す関数が、自由変数(自由頂点の座標) の2次関数でなくてはならない。2次関数であれば、各自由変数による偏微分は1次式となり、最小化問題は連立1次方程式の解として一意に求められる。


 形状の差異の表現としてもっとも一般的なものは各頂点の相対座標のずれの大きさで表すものである。この表現では、平行移動した時には歪みがゼロとなるが、回転した時には歪みが発生してしまうので剛体の変形を表現する指標としては不適切である。もう一つ、最近提案された表現として回転しても歪みを発生しない表現がある。ただし、この表現は、大きさの変化も許容してしまう(相似なまま大きさが変わっても歪みがゼロになる) ために、やはり剛体運動を表現する指標としては不適切である。


 このため,本手法では、まず回転と拡大縮小を許容する表現の最小化によって中間的な結果を得て、その後、その中間結果に生じる大きさの変化を補正するという、2段階の計算を行う。

 アルゴリズムの概要。拡大縮小を許した計算結果(左)。正しい大きさの三角形の当てはめ(中)。最終結果(右)。

 

 このようにして得られた結果をリアルタイムにフィードバックし、ユーザーは求める形を見ながら選べるわけだが、操作そのものはたった3 ステップという非常にシンプルなものである。以下に具体的な操作手順を説明する。

 

 

 この手法は、この例のような体に模様がある絵を変形する場合に最も威力を発揮する。人間が手で変形結果を描こうとすると、変形前の模様を参照しながら丹念に模様を描いていかなければならないが、この手法を使えば一瞬で結果が得られるからだ。このことは大変な省力化となり、アニメーション制作現場に大きなインパクトを与えるはずだ。

 

 C 直接操作の記録によるアニメーション作成手法


 既存のアニメーションソフトウェアで変形を利用して自動的にアニメーションを作らせようとしても、2つのポーズ間を直線的につないでくれるだけの、単純な結果しか得られない。また基礎となる2つのポーズも、位置やスケールを変えただけの単純なものしか作れず、非常に制限されているのが現状だ。


 本プロジェクトで1つオブジェクトから複数の複雑なポーズを簡単に作れることは前項で説明したとおりであるが、そのポーズを補間してアニメーションを実現したのが次の成果である。しかも、その補間は直線的なものでなく、人間のインタラクティブな動きをリアルタイムに記録することにより、やわらかな動きを実現した。


 具体的な操作は以下のようになる。

 

 記録の結果は即座に確認することができるので、上書きしながら何度でもトライ&エラーを繰り返すことができる。最終的に決定された録画は、ドキュメントの持つタイムライン上にも現れ、長いアニメーションの一部としてすぐに利用可能である。

 

 このように、人間のインタラクティブな操作を記録することで簡単にやわらかい動きが作れてしまうわけであるが、この方法にも欠点はある。それは、例えば動き始めと動き終わりを全く同じにしたいなど、正確な調整がやりにくいということである。この点も本プロジェクトでは解決済みである。

 

 

録画した結果はこっくりパネル上に軌跡として表示される。軌跡上には単位時間ごとにどこをマウスが通ったかを示すポイントが並ぶ。この軌跡とポイントは、作画ツールと同じ機能の「いい子いい子ペン」と「ペリペリペン」を用いて修正できる。これにより、録画したアニメーションの一部を目で見ながら修正し、動き始めと終わりをくっつけるなどの正確な調整を行うことができる。(左図)

    

 

 録画・再生を補助するために、気の利いた機能もいくつか加えた。そのひとつが「メトロノーム機能」である。

 

 ある種の動きはタイミングを揃えることが重要である。例えば「歩く」というアニメーションを作る場合、一歩二歩と足を踏み出すタイミングを同じにしないと、足を怪我しているかのように見えてしまう。本ソフトウェアには録画時にメトロノームを鳴らし、それを聞きながらインタラクティブ動作をすることで、タイミングを取りやすくする機能が備わっている。人間は耳でリズムを聞きながら動作をすると、かなり正確なタイミングを取ることができる。その点に注目して搭載した機能であるが、視覚表現を実現するためのアニメーションソフトウェアに、聴覚を利用した機能を搭載したのは本プロジェクトの未踏の成果である。

 

 

 また、録画・再生作業中にはそのコンピュータが持つ最高速でフィードバックを得られるが、タイムライン上ではそのアニメーションのfps で再生が行われる。


 ※ fps:frames per second。1 秒間に表示される絵(フレーム)の枚数を表すアニメーションの単位


 現在のアニメーション制作現場では、まず始めにfps を決定し、あとからそれを変更することは絶対にしてはいけない行為である。なぜならば、fps を変更して1 秒間に表示される絵の枚数を変えてしまったら、それまでに仕上げた部分に絵を新たに加えたり、最悪の場合はすべてを描き直さなくてはならないからである。

 しかし、本プロジェクトの録画によって制作されたアニメーションは、内部に無段階の変形を保持しているため、fps を変更しても新たな計算によって各フレームが自動的に生成される。このことは、今までのアニメーション制作の常識を覆す画期的な成果である。


 このように簡単にアニメーションが作れてしまうことによるメリットは膨大である。
 まず、一枚の絵さえ描けば変形はコンピュータが行ってくれるのであるから、初心者がアニメーション制作を始める際の敷居を下げる。さらに、既にアニメーション制作に従事する者にとっても、膨大な「中割り」と呼ばれる中間フレームを描画する作業をコンピュータにやらせることができ、大きな作業軽減となる。この恩恵を受け、人間はアニメーション芸術の本質である作品内容に集中できる。この成果が普及すれば、内容重視の質の高いアニメーション作品が次々と生まれるだろう。




12.プロジェクト評価


 本プロジェクトは前年度採用した「使いやすさを極めたアニメーション用ドローソフトの開発」の後継となるものであるが、評価はあくまで今年度単独(つまり、前回との差分)で行った。


 本システムはプロが使用するアニメーションソフトを目指して開発された。プロが使うという意味は、手書きを基本とし、その微調整を許すことにより完成度を高めるということを基本としています。したがって、円を描くツールやスプライン曲線の操作などということは本システムの精神からははずれる。利用者が良いストローク表現のできる技術を持っており、その個性を生かすことが基本となる。


 アニメーションにおいてもこの精神は引き継がれるべきであり、安易な時間割付言語などを利用すべきではない。アニメーションもあくまで利用者の感性を活かした操作ができなければならない。


 本システムは2つの要素から構築される。コマを描くことと、それを動かすことである。いずれにおいても画期的手法が使われているが、コマを描く部分は前年度のプロジェクトとして構築されたので、その記述は前年度の報告書に譲る。


 アニメーションソフトウェアで、時間を管理するために用意された横長のパネルを「タイムライン」と呼ぶ。時間を制御するタイムラインこそがアニメーション表現の核であるが、実はこれまで深く追求された例がない。既存のソフトウェアにおけるタイムラインは、単に時間をグリッドに区切った目盛りでしかなく、まるで進化していないのである。提案者はこのタイムラインをもっと人間らしく操作できる新たなツールとして位置づけ、これまで誰も考えなかったフレキシブルなタイムラインを実現することを目指した。


 まず提案者は、音楽にヒントを求めた。音楽は時間を制御するという意味において、アニメーションと同じ芸術であるからだ。アニメーションを音楽のように五線譜で表示しようとする当初のアイデアは、その後の検討により不可能であることが判明した。
 しかしながらこれがかえって幸いしたのではないかと思う。アニメーションを動かす軌跡に対して前回開発した「いいこいいこペン」を適用するというアイデアが採用され、むしろシステム全体の概念的統一性が飛躍的に向上したと考える。

 具体的には11.成果のCを参照されたいが、この部分が今回の開発の真骨頂であると考えている。


 技術的には描かれた絵を簡単に変形させるための技術が革新的である。この部分は開発分担者の五十嵐健夫に負うところが大きい。前回開発において基本骨格は完成しており、今回はその改善に留まっている。


 本プロジェクトによる成果には、その他にも数多くの高度な機能がある。ひとつひとつは小さなことかもしれないが、その実現には人間が操作しやすいことを最大限に考慮し、また他の機能とのバランスにも細心の注意が払われている。全体として本システムはパッケージソフトウェアに負けない完成度を持っている。


 ・ いい子いい子ペン、ペリペリペンなど、ツールの統合、グループ操作メニューの新設、ページフリップ機能とアニメーション機能を
統合、日本語テキスト入力、プリントアウト機能の搭載など、多岐にわたる機能追加を行い、よりわかりやすく、より簡単に作業を行えるようにした


 ・ ステージ設計、レイヤー、ライトテーブル(オニオンスキン)など、アニメーションソフトウェアにあってしかるべき機能を搭載した


 ・ アニメーションファイルのFlash SWF フォーマットへの書き出しを実現し、制作結果を広く共有できるようにした


 ・ 内部的にはすべてOpenGL による3D として描画することとした。これはズームのスピードなどが格段に早くなるなど、
かなりの効果があった。また、2Dソフトウェアでありながら、昨今のOpenGL 対応グラフィックボードの恩恵を受けることが可能となった。


 ・ Java 言語によるコーディング。Windows,Macintosh,おそらくはLinux でも動作する完全クロスプラットフォームを実現

 

 ・ ユーザーデータの保持形式としてSVG を採用。InternetExplorer などで瞬時に表示可能になった。もちろんこのユーザーデータはプラットフォーム間で共有可能である。




13.今後の課題


 本プロジェクトの成果ソフトウェアを、まずプロフェッショナルのアニメーション作家たちに試用してもらいたいと考えている。彼らに使ってもらい、意見を聞き、必要があれば修正を施したうえでぜひ一般に公開して欲しい。


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