IPA


開発成果一覧へ





2005年度上期 未踏ソフトウェア創造事業 成果評価報告書(プロジェクト全体について)



 プロジェクトマネジャー: 長尾 確 (名古屋大学 情報メディア教育センター 教授)



1.プロジェクト全体の概要


 個人や集団の知的活動(文書作成、プレゼンテーション、ディスカッション、ブレインストーミングなど)を支援するソフトウェアは、今後ますます重要性を増していくだろう。そこで、今回は、特に、文書作成とプレゼンテーションを支援するソフトウェアとして、栗原の提案する「手書きテキスト入力・検索およびペンベースのプレゼンテーションソフトウェア」に関するプロジェクト、松村の提案する「オンラインチャットに基づくブレインストーミング支援ソフトウェア」に関するプロジェクト、伊藤の提案する「アバターを効果的に利用して合意形成をスムーズに行うソフトウェア」に関するプロジェクト、中嶋が2004年度採択のプロジェクトを継承して提案する「議事録ドリブンの会議支援を一歩進めてプロジェクト運営を効率的に行うソフトウェア」に関するプロジェクトを採択した。
  栗原のプロジェクトを除く他の3つのプロジェクトは、いずれも複数の人間の共同作業である会議をさまざまな観点で支援する仕組みに関するものであり、従来のグループウェアの枠組みを越えて人間の知恵をうまく集め、誤解を解消し、コミュニケーションを活発にし、よりよくわかりあえるための画期的なツールとなるものである。一方、栗原の「手書きツール」は、「文字をタイプする」ではなく「文字を書く」という、個人の脳を刺激する基本的活動に立ち返り、テキスト情報とイメージ情報をシームレスに生成・操作できるようにして、窮屈だったコンピュータの世界をより人間に近いものにしようとするものである。これらは、いずれも人間社会に大きな恩恵をもたらすような未踏性のあるソフトウェアの開発にチャレンジしていると考えられる。



2.プロジェクト採択時の評価(全体)


 2004年度と同様に、プロジェクトを採択するにあたって、提案しているシステムに実現するべき本質的な意義があるかどうかを最も重要な基準とした。ただ、あったら便利だからとか面白いからとか、自分が使いたいからとかいう理由の提案は不採択とした。なぜなら、それは提案者の独りよがりである場合が多いからである。それよりも、社会的な動向や近い将来のニーズに合致すると筆者が判断する提案を優先した。
 今回採択されたプロジェクトは、いずれもこの条件を満たしている。
 たとえば、栗原プロジェクトは、ただ手書き文字認識の精度を高めればよいという従来のアプローチを捨て、暗黙的な認識によって人間の手間を減らし、文字として確定する以前の状態を確率付きテキストとして保存し、検索・入力補完などを行い、手書き入力や操作をこれまでよりずっと使い勝手のよいものにしようとしており、日本語はタイピングより書くという行為が適していることを再認識させることを目指している。これは、現在および将来のニーズに適合するものと思われる。その証拠に、ニンテンドーDSの「脳を鍛えるトレーニング」では、文字入力等を手書きで行うことで脳によい刺激を与えられることを示している。
 また、松村プロジェクトは、オンラインチャットによってブレインストーミングのような創造型の会話を行うために、システムが提供すべきさまざまな機能(たとえば、引用頻度の高い複数の語とそれらの関係の表示、複数の語の関係をまとめる上で欠落している部分の指摘、など)の実現を目指し、従来の発想支援の枠組みを越えた、日常的なオンラインコミュニケーションをアイディア創造の場とする試みであり、まさに現状のニーズとシーズに適うものである。
 さらに、伊藤プロジェクトは、オンライン会議において効率よく合意形成を行うために、アバターと呼ばれる参加者をキャラクター化したものを表示し、ビデオ等で直接的に表現するのが困難な雰囲気や感情などの文脈情報を色や動きなどで効果的に表示し、参加者が状況をよく把握し、論点を明確にし、誰が誰の意見を支持しているか・いないかが一覧でき、判断を容易にする仕組みの実現を目指している。これは、ある程度の規模の人数で日常的に何らかの決定を行わなければならない組織にとって極めて重要である。また、アバターを使うことで複数の会議に同時に参加することが可能になり、時間を効率的に使うことができる。これらの点は時代の要請に十分に適うものである。
 最後に、中嶋プロジェクトは、プロジェクト運営における会議の役割を詳細に検討し、議事録ドリブンと呼ばれるメソッドを考案し、意思決定会議の実践的なプラクティスを盛り込んだツール群を実装し、その運用を繰り返すことでツールやメソッドをブラッシュアップすることを試みている。これは、単なるソフトウェア開発に留まらず、会議を含むプロジェクト運営のあり方を見直そうとするものである。この試みの興味深い点は、ツールの利用者たちがそれを使いこなし、それに慣れていくことで自然にメソッドが身についていき、会議に対するスタンスそのものが改善されていくというものである。今後ますます企業を即戦力を要求し、教育やトレーニングの時間が制限されていくと思われる中で、使いながら賢くなれるツールというものは本質的に必要とされるものである。
  以上のように、採択された各プロジェクトの提案は社会的動向やニーズと合致し、大いに将来を期待させるものである。



3.プロジェクト終了時の評価


 栗原プロジェクトは、文金と呼ばれる、確率付きテキストを扱うミドルウェアを完成させ、それに基づく手書きによるWeb検索やメール作成ツール、さらにプレゼンテーションツールを開発した。これらは、PCへのダウンロードあるいはWeb経由での利用が可能である。結果的に、タブレットPCでの利用に限定せず、ペン等の入力インタフェースがあり、Webと接続可能なものであれば利用できるようにしたのは、コンセプトの広がりを考えるとより適切であったと思われる。また、教育現場での利用を想定し、簡単に教材等にソフトウェアを組み込めるようになっているのも高く評価できる。
 松村プロジェクトは、Pythagorasと呼ばれる、オンラインチャットによるアイディア創造支援のツールを開発した。これは、チャットによる同期型・非同期型コミュニケーション、キーワードのハイライトによる論点のアウェアネス、マインドマップの自動生成による問題の共有および議論の発散・収束の支援、顔文字エージェントによる議論誘導、参加者の発言関係の可視化によるコミットメントの向上、および議事録の自動生成による議論の再利用等の機能を有するシステムである。それらの機能の有用性を検証するには至っていないが、実験を繰り返すことで本質的な機能が明確になっていくと思われる。
 伊藤プロジェクトは、Cha la Carteと呼ばれる、参加者をアバターで表示するオンライン会議システムを開発した。これは、参加者の率直な感情をキャラクターにより表現し、色で全参加者の感情の分布を可視化することで会議の雰囲気の視覚的な把握を実現したものである。また、アバターの位置や大きさを操作することで、会議への姿勢や議論における意見の支持を明確化し、会議の進行を支援することができる。このシステムによって、「参加者が率直になり、合意形成がスムーズに行えるオンライン会議」が実現できる。これも、大規模な実証実験が行われていないため、開発した機能のどの部分が本質的なものなのか明確になっていないが、Webブラウザ上で簡単に利用できる仕組みのため、今後、多くの運用実績が得られることが期待される。
 中嶋プロジェクトは、Galapagosと呼ばれる、エクストリーム・ミーティングのツールを開発した。これは、プロジェクト管理における意思決定会議を効率的に運営するためのシステムであり、プロジェクトのスケジュールやToDo管理と連動している。特に、議事録のエディタ機能を充実させ、使い勝手を格段に向上させている。実際に、このツールを使って、多くのプロジェクトを長期間に渡って管理し、かなり入念に評価を行っている。その結果、意思決定を効率化し、会議そのものにかかる時間を大幅に短縮することができた。システムを開発し、コンセプトを具体化しただけでなく、実際に組織内で運用してブラッシュアップを繰り返し、完成度を高めたことは大いに評価できる。また、開発したシステムの事業化の体制も整っているようである。今後、このシステムとプラクティスの普及に努め、できる限り多くの会議での不毛な時間を最小にすることを目指して欲しい。
 以上のように、いくつかのプロジェクトでは、当初の目標を完全に達成したとは言い難いが、9ヶ月間という極めて短期間の間によく健闘したと考えてよいと思われる。
 2004年度の報告書にも書いたとおり、本当の意味でのプロジェクトの評価は筆者が行うものではなく、広く世の中にそれらがもたらしたものの価値を問うべきものだろう。各プロジェクトの成果は、製品化あるいは無償公開(プログラムあるいはサービスの公開)によって一般に利用可能な形になっている。
 これらの真の評価はこれから決まっていくことになると思われる。


ページトップへ






Copyright(c) Information-technology Promotion Agency, Japan. All rights reserved 2004