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2005年度上期 未踏ソフトウェア創造事業  採択案件評価書


 



1.担当PM

   長尾 確 (名古屋大学 情報メディア教育センター 教授)



2.採択者氏名


開発代表者

松村 真宏 (大阪大学大学院 経済学研究科 専任講師)

共同開発者

なし



3.プロジェクト管理組織


  株式会社 リオ



4.委託金支払額


  3,967,112



5.テーマ名


  アイデア会議支援システムの開発



6.関連Webサイト


  http://fieldmining.com/~matumura/p/



7.テーマ概要


 
人件費の何割かが無駄な会議に費やされていると言われているように、貴重な時間と思考労力を割いて会議や研究ミーティングに出席しても、結論が出ず不毛に終わることは多い。会議を効率的かつ創造的な場にすることができれば、企業にとってはビジネスの成功につながるだけでなく、膨大な人件費の削減にもなる。また、研究者にとっても講義の準備や研究活動に割ける時間が増えるなど、社会に及ぼす影響は非常に大きいと考えられる。
会議を効率的にするために、まず従来の対面でのコミュニケーション様式の限界を超える必要がある。そこで本プロジェクトではインターネットを介したコミュニケーション様式であるチャットに注目する。チャットを用いることの利点は、

 ・ 同時発話の実現
 ・ コミュニケーション内容の電子化による分析・再利用の実現
 ・ 地理的・時間的制約を受けない同期型・非同期型コミュニケーションの実現

 にある。対面コミュニケーションでは同時に一人しか話すことができないので、発言のタイミングを見計らっているうちに話題が変わってしまい、意見を出し損ねることがある。しかし、チャットコミュニケーションでは複数の人が同時にメッセージを投稿することができるので、発言の機会を逃さない。また、議論内容が電子データとして残るので、議論の確認・保存・加工が容易である。さらに、インターネット環境さえ整っていれば同じ場に集う必要がないので、移動時間のロスがなくなる。これらはいずれも従来の対面コミュニケーションにはないチャットコミュニケーションの大きな特徴である。
 その一方で、チャットでは同時発話が可能なために複数の議論が同時に進行し、対面での会議以上に本題から脱線しやすい欠点がある。そこで本プロジェクトではマインドマップを用いて問題の共有を計り議論の脱線や堂々巡りを防ぐ。また、マインドマップを変形することによって新たな論点への気づきを促し、議論の発散・収束の支援を試みる。さらに、顔文字エージェントによる議論誘導、発言関係の可視化による参加者のコミットメントの向上および議事録の自動生成を組み合わせて、最終的にアイディア会議支援システム「Pythagoras」の開発を目指す。



8.採択理由


 
オンライン会議において、チャットのような同期型のシステムと掲示板のような非同期型のシステムのそれぞれの利点を持ち合わせたシステムは有効であろう。コミュニケーションの蓄積の中に潜在する断片化されたアイディアを結晶化・顕在化して提示する仕組みは多くの人が望むものであろう。提案者のユニークな発想と開発力を評価して採択とする。ただし、問題の難易度は高いので、あまり大規模なシステムを構築するよりも、小規模でも確実なものを実現していくべきであり、提案を絞り込む必要がある。そのため、予算額もそれに合わせて縮小したものになる。



9.開発目標


 本プロジェクトでは、以下の機能を有するアイディア会議支援システム「Pythagoras」の開発を目標とする。

 ・ チャットによる同期型・非同期型コミュニケーション
 ・ キーワードのハイライトによる論点のアウェアネス
 ・ マインドマップの自動生成による問題の共有および議論の発散・収束の支援
 ・ 顔文字エージェントによる議論誘導
 ・ 参加者の発言関係の可視化によるコミットメントの向上
 ・ 議事録の自動生成による議論の再利用



10.進捗概要


 9.開発目標の機能は全て実装し、現在 http://fieldmining.com/~matumura/p/ においてPythagorasのウェブサービスを公開している。誰でも自由にアカウントとスレッドを作成してPythagorasを体験することができる。



11.成果


 Pythagorasクライアントはウェブブラウザであり、Safari, Firefox, Internet Explorerなどの主要なウェブブラウザで動作するのでWindows, Macを問わず利用できる(LinuxやSolarisについては未確認)。PythagorasサーバーはMac mini(Mac OSX Ver.10.4.4, Tiger, 1MB RAM)の上にApache 1.3, PHP 4.3.11, Perl 5.8.6, Java 1.4.2-09, SQLiteにより構築されている。また、日本語の形態素解析にはmecab 0.81(*1) , 図の作成にはGraphviz(*2) を利用している。現在、Pythagorasサーバーは自宅のADSL環境で公開しているが、Pythagorasサーバーとの通信はAjax(Asynchronous JavaScript + XML)技術によって行われているため、クライアント側での処理のもたつきはほとんど感じられない。

 (*1)http://chasen.org/~taku/software/mecab/

 (*2)http://www.research.att.com/sw/tools/graphviz/



 ・Pythagoras各種機能

 本プロジェクトで開発したアイディア会議支援システム「Pythagoras」の各機能を紹介する。Pythagorasのウェブサイト(http://fieldmining.com/~matumura/p/)にアクセスすると図1の「ログイン画面」が表れる。画面上部には「管理画面」「ログイン画面」「議事録画面」へのリンクがある。ここで、アカウント情報と参加したいスレッドを選択して「ログイン」を押せばアイデア会議に参加できる。また、「管理画面」をクリックすると図2の画面に移り、ユーザアカウントとスレッドを自由に作成することができる。「議事録画面」をクリックすると図3の画面に移り、スレッドの内容、マインドマップ、参加者の発言関係図を閲覧することができる。

 

図1 ログイン画面

 

図2 管理画面

 

図3 議事録画面

 

 ピタゴラスにログインすると、図4の画面に移る。画面左上部はチャットログ表示エリア、画面左下部はメッセージ入力エリア、画面右はマインドマップ表示エリアになっている。メッセージがPythagorasサーバーに送信されるとバックグランドでIDMによって分析され、キーワードの抽出およびマインドマップの作成が行われる。分析された結果はリアルタイムに画面上に反映される。チャットログ中でハイライトされている語が抽出されたキーワードである。

 

図4 Pythagorasのスクリーンショット。画面右部は「問題共有マップ」

 

 画面上部にある5種のアイコン(図5)はそれぞれ「問題共有マップ」「アイディア出しマップ」「アイディア整理マップ」「ちゃぶ台返しマップ」「人間関係マップ」へのスイッチになっており、クリックすると画面右部のマインドマップがぞれぞれ図4、図6〜9のように切り替わる(問題共有マップは図4)。

 

 図5 Pythagorasで用いるアイコン。左から「問題共有マップ」「アイデア出しマップ」「アイデア整理マップ」「ちゃぶ台返しマップ」「人間関係マップ」

 

図6 「アイディア出しマップ」を表示中のPythagoras

 

図7 「アイディア整理マップ」を表示中のPythagoras

 

図8 「ちゃぶ台返しマップ」を表示中のPythagoras

 

図9 「人間関係マップ」を表示中のPythagoras

 

 また、議事録は図10のように問題共有マップ、人間関係マップ、キーワードがハイライトされたチャットログが整形されて表示される。これにより、後からチャットログを見返したり、議事録を回覧することが容易になる。

 

図10 議事録

 

 また、人は時間や投稿数が制限されると集中力を発揮するので、効率のよいアイディア会議の実現を目指すPythagorasではメッセージの投稿数の上限を100に設定している。そこで、その限られた100投稿の中で「問題共有」「アイディア出し」「アイディア整理」「ちゃぶ台返し」のフェーズをスムーズに移行させることが重要であり、そのためにPythagorasルールとして

 ・ 0〜20投稿 :問題の共有
 ・ 21〜50投稿 :アイデア出し
 ・ 51〜65投稿 :アイデアの整理
 ・ 65〜80投稿 :ちゃぶ台返し
 ・ 81〜90投稿 :アイデアの再整理
 ・ 91〜100投稿:結論の導出

 を制定し、投稿数に沿って議論フェーズを切り替えることを推奨している。しかし、いったん議論に集中し始めるとPythagorasルールを遵守することは難しい。そこで、顔文字によるエージェントをメッセージ入力欄の下に登場させ、アイディア会議のモデレーションを行わせるようにしている。顔文字エージェントは投稿数に応じて以下のように切り替わる。

 ・ 0〜20投稿   : (*゚▽゚)ノ 問題を出し合って共有しましょう!
 ・ 21〜50投稿 : ヽ( ´ー`)ノ アイデアを出し合いましょう!
 ・ 51〜65投稿 : o(´^`)o 出たアイデアを整理しましょう!
 ・ 65〜80投稿 : (ノ ̄^ ̄)ノ┻━┻ ちゃぶ台をひっくり返しましょう!
 ・ 81〜90投稿 : o(´^`)o 出たアイデアを整理しましょう!
 ・ 91〜99投稿 : φ(・ω・ ) 結論を導ましょう!
 ・ 100投稿     : ( ̄へ ̄)ゝ 議論お疲れさまでした!

 これらの仕掛けにより、100投稿という限られた中で効率のよいアイディア会議の実現を目指している。



12.プロジェクト評価


 基盤となる仕組みの開発は終了している。基盤システムの実装のプロセスは着実であり、速度の問題点を逐次解決しながら、開発を進めた点も評価できる。問題は、実装された機能の有用性が明確でないことである。これは、アイディア会議の成果を評価し、開発されたシステムによってどのような点がどのくらい改善されたかを説得力のあるデータで示すことが要求される。
  本プロジェクトの成果は、すでにWeb上で公開されているため、実証実験は比較的容易に行えるものと思われる。



13.今後の課題


 まず、しっかりした実証実験を行って、システムの有効性を示す必要がある。
  さらに、サービスを続けながら、ユーザからのフィードバックを反映した改良を継続すべきである。特に、マインドマップやユーザインタフェースの問題点は、運用実績を蓄積することで初めて明らかになることが多いであろう。また、Pythagorasを十分に使いやすくし、社会に定着させていくために、Pythagorasの普及活動に努め、その有用性をアピールしていく必要があるだろう。


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