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2005年度上期 未踏ソフトウェア創造事業  採択案件評価書


 



1.担当PM

   千葉 滋 (東京工業大学大学院 情報理工学研究科 助教授)



2.採択者氏名


開発代表者

片山 俊明 (東京大学 医科学研究所 ヒトゲノム解析センター ゲノムデータベース分野 助手)

共同開発者

中尾 光輝 (独立行政法人 産業技術総合研究所 生命情報科学研究センター 産総研特別研究員)
後藤 直久 (大阪大学 微生物病研究所 遺伝情報実験センター 特任研究員)
田中 伸也 (京都大学 化学研究所 バイオインフォマティクスセンター 研究員)


3.プロジェクト管理組織


  日本エンジェルズ・インベストメント株式会社



4.委託金支払額


  10,000,000



5.テーマ名


  Ruby言語による生物化学情報基盤ライブラリの開発



6.関連Webサイト


  http://bioruby.org/ 、 http://chemruby.org/



7.テーマ概要


 国産のスクリプト言語である Ruby 言語のためのバイオインフォマティクス(生物情報学)ライブラリ BioRuby とケモインフォマティクス(化学情報学)ライブラリ ChemRuby の開発をおこなう。特に、和文と英文のドキュメント整備に注力し、チュートリアルと API のリファレンスを公開する。また、ユニットテストを追加し、ライブラリに求められる安定動作を保証できるようにするとともに、外部の開発者が BioRuby と ChemRuby の開発に参加しやすくなるようにする。成果はオープンソース・ソフトウェアとして公開し、医薬生物学系の幅広い分野で自由に利用できるようにする。



8.採択理由


 
本提案で開発しようとするソフトウェアは、バイオインフォマティクス研究に携わる研究者が日常的なデータ解析をおこなうプログラムを書くための Ruby言語のライブラリである。このライブラリ BioRuby は既に公開されており、国内外で一定の普及を見ている。しかしながら、これまでボランティアベースで開発されているため、一般研究者への普及に必要な詳細なチュートリアル、マニュアルの整備が遅れている。BioRuby 自体は優れたソフトウェアであるが、BioRuby のようなライブラリの場合、ドキュメント類が十分でなければ、広く一般への普及はまったく望めない。実際、このままでは、折角のソフトウェア資産が埋もれてしまいかねない。BioRuby のような優れたソフトウェアの開発を本事業で採択し、とくにドキュメント類の整備を支援し、国際的な普及にはずみをつけることは我が国のソフトウェア産業振興の観点からも、またバイオインフォマティクス研究における我が国の国際的プレゼンスを保つ観点からも、有意義である。本提案には、BioRuby のさらなる拡張だけでなく、ドキュメント類の整備にも力を注ぐとある。これまでの実績から、ドキュメント類が整備されれば、広く普及する可能性を秘めていると考え、採択とする。



9.開発目標


 BioRuby は開発開始から 5 年が経過していたが、普及を促進するためには、さらなるドキュメントの整備が必要であると指摘されていた。そこで充実したドキュメントを日本語と英語で整備し、普及活動にはずみをつける。またそれによって、最近衰えがちであった開発作業も再び活性化させ、ポストゲノム時代に研究に必要な機能を提供するように BioRuby を発展させる。開発にあたってはユニットテストも整備し、科学研究分野で使われるライブラリにふさわしい安定性を実現する。さらに、ここ数年で重要性が高まりつつあるケモインフォマティクス分野にも対応すべく、BioRuby と相互運用性の高い姉妹ライブラリとして ChemRuby を開発する。BioRuby と ChemRuby は互いに別のライブラリとしてではなく、基本部分を共有するライブラリとして開発する。



10.進捗概要


 開発は順調に進み、数ヶ月に1度の割合での中間成果物のリリースを重ね、2月にはBioRuby、ChemRuby ともバージョン 1.0.0 版をリリースすることができた。また普及のための広報活動をかねた学会発表も数多くこなし、BioRuby や ChemRuby の講習会も何度か開催した。本プロジェクトは、4人での共同開発であるので合宿形式での開発を何度かおこない、共同作業が円滑に進むように工夫した。さらに YARV の開発者とも技術交流をおこない、BioRuby、ChemRuby の機能の充実に生かした。



11.成果


 機能面では、Ruby プログラムを書かなくても BioRuby の色々な機能を利用できるようにする BioRuby シェルを開発した。また Ruby on Rails を使って シェルブラウザも開発した。これは BioRuby シェルのフロントエンドとして使う。インストールを容易にするためには、パッケージマネージメントシステムである RubyGems に対応させた。さらに起動の高速化、塩基・アミノ酸配列クラスの改良、BLAST サポートの改良など、多数の機能強化、バグフィックスをおこなった。また、1,000 以上のユニットテストを作成し、その過程で既存のバグの発見や仕様の問題点の洗い出しをおこなった。
 ドキュメントの整備については、チュートリアル文書と英文 API リファレンスを新たに書き起こした。チュートリアル文書は和文と英文の両方を用意した。英文については英語圏の開発者による手直しを受けた。API リファレンスは Ruby 言語で標準的に使われている RDoc フォーマットを採用して作り、公開した。また、開発者向けのガイドライン文書を作成した。この結果、海外からの開発者が増加し、機能開発や英文ドキュメントの充実につながった。
 ケモインフォマティクス分野のための Ruby 言語用ライブラリ ChemRuby は新規に開発した。同分野ではこれまで商用の有料ソフトウェアがほとんどであったので、ChemRuby の今後の普及が期待できる。ChemRuby は様々な化合物のデータフォーマットの読み書きに対応し、PDF、JPEG、PNG などによる化合物構造の画像の書き出しを可能にする。また汎用的なグラフアルゴリズムを実装することで、類似化合物を商用ソフトウェアに劣らない速さで検索できるようにした。

  詳細は以下のプロジェクトサイトから得られる。

  http://bioruby.org/
  http://chemruby.org/



12.プロジェクト評価


 科学分野の研究では、新しい道具の発明や開発が即、新しい発見につながることも少なくない。その意味で、BioRuby/ChemRuby のようなバイオ・ケモインフォマティクス研究を進める上で鍵となるソフトウェアが、我が国の若手研究者の手によって開発・保守されているのは、たいへん望ましいことである。完成したソフトウェアは、それほどコンピュータに詳しくない一般の科学者にも使いやすいことに配慮した仕上がりになっており、機能的な完成度もさることながら、ソフトウェアの機能設計の工夫に、開発者らの才能をかいま見ることができる。また講習会の開催など地道な普及の努力により、国内外で利用者を増やしている点も、高く評価できる。



13.今後の課題


 本プロジェクトで再び活性化された BioRuby/ChemRuby の開発コミュニティを維持し、継続的な開発とサポートをおこなってゆくことが、今後の課題である。今回、英文ドキュメントの作成にあたっては、海外の開発者の協力を得たが、このような協力を重ねて、BioRuby/ChemRuby を国内外の生物化学系の研究者が利用するポピュラーなソフトウェアとして育ててゆくことが望まれる。また、開発者らは BioRuby/ChemRuby を単に開発するだけでなく、是非、これを利用して本業の生物化学分野でも優れた研究業績をあげてほしい。それが BioRuby/ChemRuby の普及にもつながると思う。


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