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2004年度未踏ソフトウェア創造事業(未踏ユース)  採択案件評価書


 



1.担当PM


 竹内 郁雄   (電気通信大学教授)



2.採択者氏名


 代表者

朝倉 淳  ( 神戸大学 )

共同開発者

なし



3.プロジェクト管理組織


  リトルスタジオインク株式会社


4. 委託支払金額


 3,000,000円



5.テーマ名


  多人数P2Pネットワークを利用した新たなネットワークゲーム



6.関連Webサイト


 なし



7.プロジェクト概要

  ここ何年かで P2P ネットワークを利用したソフトウェアが多数出現し,それなりに話題になっているが,ゲームにおいてもそれは例外でない. P2P 技術を利用したネットワークゲームを作ろうという動きが出てき始めてる.しかし,それらは純粋に P2P ネットワークを利用するというものではなくて,サーバーの負担を減らすためのハイブリッド P2P というものが主流である.

 本提案は,サーバーを一切利用しない多人数参加型のネットワークゲームを開発することを目的とする. P2P ネットワークによって新たに実現可能になることや,逆に実現不可能になることなどを踏まえて,新機軸のゲームシステムを考案しゲームとして成り立たせることを最終目標としている.その結果として,ゲームの新たな方向性の開拓,そして P2P 技術の新たな利用法の提示ができるものと考える.

 具体的な開発項目を以下に示す.

 

1 P2P 技術を利用したゲームシステムとそのネットワークシステムの設計

 

P2P を使うことで何が可能になり,何が不可能になるのかを念頭におき,ゲームとして成り立たせるにはどういうシステムが妥当であるか,またどういった P2P の要素がゲームとして転用できるのかを考え,ゲームの基本的なコンセプトを決定する.そしてそれらにはどういったネットワーク構造が必要かを調べ,システムの基礎を設計する.

 

2 .ネットワークシステムの実装

 

3 .ゲームの基本システムの実装

 

4 .グラフィックと音楽の製作実装

 

5 .サブシステムの設計と実装

 

 基本システムに加えてどのようなシステムがゲームのコンセプトをより引き立たせるかを考え,追加的なシステムコンポーネントを設計して実装する.

 

6 .ベータテスト

 

 完成前に何度か公開し,バランスの調整やバグの発見などをしなければならない.

 

7 .システム・バランスの調整





8.採択理由


  竹内が好みのタイプの提案である.まだ,ゲームのデザインは固まっていないように見えるが, P2P でサーバーなしでゲームの空間 ( マップ ) 自身を成長させていくという基本構想の段階でも可能性を感じさせた.もちろん,ゲームとして本当に面白いものができるのか,というか,たとえばゲームの中にまた自発的にゲームが生まれるような発展性が出るのかどうかが気がかりだ.そのあたりを頑張ってほしい.





9.成果概要

 多人数 P2P ネットワークを利用した新たなネットワークゲームの基礎となる部分,つまり互いの P2P を利用してマップ間を接続し,ネットワークゲームプレイヤがお互いのマップ上を行き来できるシステムを開発した.これによって,多く人が偶然ネットワーク上で遭遇する可能性を含みながら,まったくサーバを必要としないというネットワークゲームの基礎ができた.また,その上に簡単な実際のゲームを開発した.

 今までも P2PMMORPG というような名前で多人数参加型の MMORPG を開発するプロジェクトはいくつか存在した.しかしそれらはサーバ・クライアント型で実現されていたシステムを,ネットワークの部分のみを P2P だけで実現しようとしているものであったり,サーバと P2P のシステムを併用して MMORPG の運営コストを下げるものであった.いずれも,本質的なシステム構成は従来のままでしかなく, P2P 特有のゲームシステムを考案して実現するというプロジェクトはなかった.

 本プロジェクトは, P2P のシステムを利用して,これまでとは違ったゲームシステムの設計と実装を行なうことを目的とした.

 

 開発した P2P ゲームの基本コンセプトは以下の通りである.

 ゲームに参加するプレイヤは全員ノード ( プレイヤの PC) 上に自分のつくったマップを持つ ( 1) .このマップは所有者が自由に編集できる庭のようなもので,「ヤード」と呼ぶ.このヤードを他のノードとネットワーク越しに接続する仕組みを開発した.これにより,プレイヤがお互いのヤード間を行き来することが可能になる ( 2) .これが複雑な P2P ネットワークを形成するようになると,ヤードを移動するプレイヤは,あたかも P2P ネットワークの上を歩いているような状態になる.

 

 

朝倉図1

 

朝倉 図 1 ユーザのマップがワープポイント ( 白い四角 ) でつながる

朝倉図2

 

朝倉 図 2  多数のユーザのマップがつながった状態

 

 

 多数のノードが接続された状態では,プレイヤが他のプレイヤと遭遇する可能性が高くなり,ネットワークゲームが成立する.これはサーバ・クライアント型の多人数参加型ゲームの特徴である「未知のノードと出会う」という要素をそのまま残してゲームが構築できるということである.これを「ヤードリンクシステム」と呼ぶ.ヤードリンクシステムの実装は,自分のヤードを管理するサーバ ( ヤードサーバ ) ,そのヤードサーバに参加するクライアントなどの実装からなる.さらにプレイヤの動きを伝えるメッセージを送受信するプロトコルを設計・実装した.これによって自分の動きをサーバに伝えて反映させることが可能となった.

 なお,ノードが他のノードに接続するまで自分自身の IP が判らないという問題点があったので,プレイヤが全員 DDNS などによってあらかじめ自分の IP を設定して,ヤードリンクを生成する際もそのドメインによって接続できるように実装した.

 ヤードリンクの中の参加ノードがオフラインになったとき,そのままではプレイヤが

その先のヤードに到達できない.そのため,一度到達したヤードをキャッシュしておき,そこを経由してその先のオンラインノードに到達できるようにした ( 3)

 

 

朝倉図3

 

朝倉 図 3  真中のノードがオフラインになっていても, B から A に行ける

 

 

 上のように開発したヤードリンクシステム上で,簡単な駆け引きが存在するようなゲームを設計し,実験版を実装した.実験版ゲームでは,一つのノードに複数のプレイヤがいても同期をまったく取らずにプレイヤのコマンドを送信して,各クライアントが独自にそれを実行するというようなスタイルをとっている.こうしたのは,フレーム毎の同期を取ろうとするとノード間のレスポンス速度がネックになってフレーム落ちが起きたからである.同期の実装は開発期間内では困難だったため,実験版ゲームではノード間のステータスの同一性が重要にならないようにした.

 各ヤードのタイルに草地や岩場などのステータスを持たせ,プレイヤがそれを自由に編集できる機能を実装した.さらにヤード上でのチャット機能を実装し,ヤード上に存在するプレイヤ同士で会話ができるようにした.

 試験版ゲームを実際に数人で試行し,問題なく動作することを確認した.

 ノード間で厳密な同期をとっていないため,ノードによって表示されているものが違うという問題点もあるが,それ自体が逆にゲームとして面白いものにする側面もあることを発見した.

 

 試験版ゲームでは,プレイヤが自分のヤード上で自分の資源を消費して戦闘ユニットを生成する.それをストックしながら他のプレイヤのヤード上に進入して,ストックしておいた戦闘ユニットを展開して戦うという,一種のストラテジーゲームである.

 ただし,他のマップへ進入することによりすぐ戦闘が始まると,強いプレイヤが急にやってきて弱いプレイヤと戦うという状態が起き,ゲームバランスが悪くなる.そこで,「戦闘状態」というステータスを設けた.これはプレイヤが任意に設定でき,戦闘状態が ON 同士のプレイヤ間でしか戦いが起こらないようにした ( 4)

また戦闘状態にチームカラーという条件を設けることでチーム戦を可能にした.同じチームカラーに設定されたプレイヤ同士では戦闘状態であっても戦いが成立せず,一時的な同盟関係が成立する.これらにより,多人数特有の流動的なチーム戦が展開できるようになった.

 

朝倉図4

朝倉 図 4  色による同盟と敵対関係

 

 

 このシステムではゲームで使う資源をマップから採掘するという形態は取りずらい.そのため P2P 特有のシステムによって供給するようにした.たとえば,ヤードリンクが成立している間はボーナスとして資源を供給したり,戦闘状態のまま他のノードにワープしたりというリスクを負った時に資源を発生させるなど.これによって,資源の供給を得る行動が,同時に P2P ネットワークの活性化に繋がることを可能にしている.




 



10. PM評価とコメント

   P2P に関する業界,学界の最近の熱気はすごいとよく聞く.ただし,いろいろと悪いイメージもつきまとうので,オーバーレイネットワークという学界的な呼び方もあるらしい.それはともかく,中央集権から分散へという動きの加速が止まらない.誰でも個人で比較的容易に P2P の新しい利用法やアプリの創案・開発に参画できてしまうというムード,というより技術的特徴があり,これが分散化の流れを後押ししているのだろう.

 朝倉君の提案もその流れの一つである.それどころか,彼の P2P で遊べるという技術開拓はその流れをさらに加速するものとなろう. P2P IT ユースたちの恰好の遊び場というか砂場である.

 

 開発された「ヤードリンク」という P2P ゲーム基盤 ( と呼んだほうが適切だろう ) は,サーバをまったく使用することなしに多人数プレイが可能で,未知のプレイヤと遭遇する可能性が高いシステムである.プロジェクト終了時点ではゲームの完成度を高めるところまでには至らなかったが,ヤードリンクさえできてしまえば,ほかに技術的に困難な特段の障害は見当たらないため,一般ユーザが乗ってくるような P2P ネットワークゲームへと展開していく見込みが高い.ヤードリンクはストラテジーゲームというゲームカテゴリとよくマッチしており,そのあたりの根強いファンを掴める可能性がある.

 ヤードリンク自体には今後の改良の余地が多くあると思われるが,朝倉君も自認しているとおり,まずはとりあえず遊べるものを製作して公開し,そこからユーザや開発に興味をもってくれそうな数奇者からのフィードバックを得ることが最重要課題である.

 ドラクエのような RPG にはまりやすい私は,ネットワークゲームを遊んだことがないのだが, P2P でゲームバランスをどう取るかが,技術基盤を確立したあとの最も難しい問題だと直観できる.これにはプログラミングスキルとは別のクリエータの才能が必要だ.

 幸いというのか不幸というのか,物理学科の学生である朝倉君はこのプロジェクトのおかげ ( ) で留年の憂き目に逢った.話を聞くと,やはり物理の道は究めたいという.そうでありながら,留年で生じた 1 年の余裕 ( ) をこのプロジェクトのさらなる進展に費したいという.実に潔い.本人がもちろんゲーム大好き人間だから,こう言えるのだろうが,ある種の落し穴があることにも注意したほうがよい.多くの人が遊べるゲームをクリエートするには,どこかで醒めた目が必要だ.その点,物理学は役に立ちそうだ.

 プロジェクト終了時点で,朝倉君から, IP アドレス帯の近さなどの利用, NPC (Non-Player Character) の導入,キャッシュの先読み機能 ( 最後のはヤードリンクの機能拡張なのでゲーム設計とは直接関係ない ) など,いくつかのアイデアを聞いているが,ほかにもまだまだアイデアがあると思う.なにしろ,いままでにないような P2P ネットワークゲーム基盤をつくったのだから,先駆者利益を素早くもっと享受したほうがよい.

 

 朝倉君は大学 3 年生で,神戸大学のコンピュータ部の部長を努めていたが,どことなく飄々とした風貌と語り口が印象深い.その神戸大学のコンピュータ部の実情を聞いて PM はちょっと驚いた.プログラムを書いたことのない ( 書く気のない ) 部員が半数以上らしい.今日の IT ヤングの一面を窺い知った思いである.その朝倉君も,今年の未踏ユースの私の担当した多くの採択者と同様,プログラミングスキルが群を抜いているというレベルではない.しかし,ニーズがしっかりしているので,このプロジェクトで多くのことを学んだと思う.考え方はしっかりしているので,今後の成長が楽しみである.まずは, 1 年以内に公開される新しいタイプの P2P ストラテジーゲームに期待したい.




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