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2004年度未踏ソフトウェア創造事業(未踏ユース)  採択案件評価書


 



1.担当PM


 竹内 郁雄   (電気通信大学教授)



2.採択者氏名


 代表者

大矢 一恵  ( 函館工業高等専門学校  情報工学科  )

共同開発者

なし



3.プロジェクト管理組織


 財団法人 国際メディア研究財団


4. 委託支払金額


 3,000,000円



5.テーマ名


  自律適応型マッサージチェア 「ほぐし屋 筋さん」



6.関連Webサイト


 なし



7.プロジェクト概要


  仕事や勉強などで忙しい日が続き,疲れが溜まっている現代人が急増している.そのため,押圧健康器やマッサージ機器などのさまざまな健康機器が発売され,手軽に疲れをとることができるようになってきた.マッサージは人の手でやってもらうのが一番良いのだが,そのような時間もなく,家や温泉でゆったりとマッサージチェアに座る人もいる.マッサージチェアは手軽にマッサージができるが,自分で簡単に操作できるため凝りに集中してマッサージしてしまう.このため,誤ったマッサージをしてしまい,次の日以降にさらに酷い肩凝りを残してしまうといった問題がある.また,揉み返しを気にして弱くマッサージしたのでは凝りが取れないという人が多い.

 それならば,自分で気づかない凝りをほぐしてくれるマッサージチェアがあれば良いじゃないか,ということで本テーマの「ほぐし屋 筋さん」を考えた.

 「ほぐし屋 筋さん」は,マッサージチェアに座った一人一人の凝り具合を触覚センサを用いて測定し,凝り具合に応じた揉む強さを学習する.筋さんは,使用者自身では気づいていない凝りも見つけてマッサージしてくれる.使用者はマッサージコースの設定をする必要もなく,ただ座って電源さえ入れれば後は勝手に筋さんがマッサージしてくれる.

 このシステムを使用すると,従来のマッサージチェアよりも物足りなさを感じる人が多くなるだろう.しかし,揉み返しを防いで,気づかないうちに凝りをとってくれる新たなマッサージチェア「ほぐし屋 筋さん」を提供することが目的である.





8.採択理由


  書類審査の段階ではかなり疑問符が多かったが,実際に話を聞いて納得するところが多かった提案である.世の中のマッサージチェアは,ソフト的にはまだまだローテク (?) であるとは予想外だった.しかし,この開発にはハードウェア作業もあるし,競争社会で日々研究開発を行なっているマッサージチェアメーカーとどのような関係をもって開発を進めるのかなど,まだまだ心配なところがある.早めに方針を固めて,世の中にアピールできるように進めてほしい.






9.成果概要

  個人の凝りに適応可能な自律適応型マッサージチェア「ほぐし屋 筋さん」の開発を行った.このマッサージチェアは,プロのマッサージ手順に従ってマッサージする.ユーザが入力した凝り位置と凝り具合から,各部における揉み回数を決定する.マッサージ終了後にユーザの履歴を記録し,次回の揉み回数の学習に使用する.

 

 「ほぐし屋 筋さん」はプロのマッサージ手順を持ち,これを基本手順として個人の凝りに合ったマッサージを行なう.プロのマッサージでは,揉み回数を変えることで個人に適応したマッサージを行なう.筋さんはこの方法を取り入れてマッサージを行なう.ユーザは凝り位置,凝り具合,快・不快の情報を入力する.入力を元に揉みルール作成器はユーザの凝りに応じた揉み回数を学習する.筋さんはプロのマッサージ手順に沿って,学習した揉み回数でマッサージする.マッサージ終了後にユーザの履歴を記録し,次回のマッサージチェア利用時にこの履歴とユーザが入力する凝り情報を用いて揉み回数の学習を行なう.

 図 1 にシステム構成図を示す.

 

 

大矢図1

大矢 図 1  筋さんのシステム構成図

 

 

 ユーザからの入力は,以下の 3 種類である.

マッサージ前 凝り位置と凝り具合,肩位置 ( 自動取得 )

マッサージ中 快・不快

マッサージ後 快・不快

 これらの入力情報と基本手順を基にして,マッサージを行なう.

 「ほぐし屋 筋さん」は,大きくソフトウェア部とハードウェア部に分けられる.ソフトウェア部は,揉み学習器,個人の履歴データベース,通信部から成る.揉み学習器は,ユーザに合った揉み回数を学習する.

 学習にはオフライン学習とオンライン学習がある.オフライン学習には,マッサージ前の学習とマッサージ後の学習がある.マッサージ前は,ユーザが入力した凝り位置と凝り具合,個人履歴を用いて,ユーザの凝り具合に合った揉み回数を学習する.マッサージ後は,ユーザが入力する快・不快情報を用いて,揉み回数を再度学習する.それが終了した時点で,ユーザが入力した凝り位置・凝り具合と揉み回数を個人履歴に残す.オンライン学習では,マッサージ中にユーザが入力する快・不快情報を用いて,揉み回数を学習する.

 快・不快を用いた学習では,ユーザが快であると入力すれば揉み回数を増やし,逆に不快であると入力すれば揉み回数を減らす.

 ハードウェア部はソフトウェア部からの動作コマンドを受け取り,マッサージを実行する.マッサージ中は,マッサージチェアの情報を状態メッセージとしてソフトウェア部に送信する.今回は,リビングテクノロジー株式会社のマッサージチェア「ウォムザ」を改造して使用した.改造点は,肩位置検出機構,揉み玉牽引機構,横位置検出センサ,揉み玉の形状変更の 4 点である.

 

 上記のようなシステムの開発のために行なった具体的な開発のうち特筆すべきものは以下の通り.

 

(1) プロにならったマッサージ手順を作成するために,プロのマッサージ師のマッサージを撮影し,解析を行なった.この結果,

マッサージは一方向 ( 遠心性のマッサージなので心臓から離れる方向 ) にのみ行ない,同じ箇所を往復して揉むことはない.

軽擦 ( 掌全体を使って背中を一方向にさする ) ,柔捏 ( 揉みのこと ) ,叩き,軽擦の 4 段階に分かれている.

凝りを解すために使うのは柔捏だけで,柔捏は,肩,背中,腰の順に行なう.

プロのマッサージにおいて、背中を揉むときは、図2中心からの3本線が重要である。

 

大矢2

大矢 図 2 プロのマッサージ手順

 

 


(2) マッサージに関して,以下のような間違った情報が一般的に広まっていることが分かった.

 

間違った一般知識 正しいマッサージ知識

 

・ 強く揉んだ方が凝りが取れる.大矢3   強く揉みすぎると揉み返しが来る.

・ 弱く揉んだら凝りは取れない.大矢4   弱く揉んでも凝りは取れる.

・ 指圧の強弱は押す力で加減する.大矢5   押す強さではなく,押す時間で調整する.

・ 叩いたら凝りは取れる.大矢6     爽快感はあるが,叩いても凝りは取れない.

凝っている位置や凝り具合が違えば 大矢7 凝り具合と凝り位置が違っても、マッサージ

  マッサージの手順は変わってくる.     の手順は変わらない。凝っている位置を揉む

                               回数を変えることで、凝りに合ったマッサー

                               ジをする。

 

(3) 以上の結果から,マッサージ手順作成のコンセプトを次のように決定した.

プロのマッサージ手順を元にして,揉み回数を増減する.

左右で凝り具合が違う場合には,左右非対称に揉む.

叩きは仕上げにのみ使用する.

 

(4) プロのマッサージ師に,マッサージチェア「ウォムザ」の評価をお願いし,以下の改造を施した

 

・肩位置にあったマッサージをするための肩位置検出機構の追加

・一方向のみのマッサージを行なう機構の追加

・筋肉の際 ( きわ ) を揉めるようにするための,横位置を指定する機構の追加

・筋肉の際に入るようにするための揉み玉の形状変更 ( 3)

 

大矢8 

 

大矢 図 3 揉み玉の改良 --- 左がオリジナル

 

 

(5) ハードウェアの限界を考慮し,プロのマッサージ手順を参考にした,マッサージチェア用マッサージ手順を作成した.詳細はここでは省略するが,図4に腰が凝っている場合の一例を示す.

 

 これらの開発に関して特許を出願した ( 特願 2005 42719)

 

 

大矢9

 

大矢 図 4 腰の一部が凝っているときの手順例







10. PM評価とコメント


 

 このプロジェクトは,同じ研究室から続けて未踏ユースに採択されることが多いという例の一つである.大矢さんは次の小林さんと同じく,昨年の「空想大陸計画」の岡君と同じ研究室 ( 函館工業高等専門学校 情報工学科 石若研究室 ) 5 年生,つまり卒業研究生で,かつ未成年である.

 私は未踏本ちゃんから始めて PM 5 年目になるが,女性が代表のプロジェクトは今年度が初めてである.このプロジェクトは提案時は 2 名の連名だったが,プロジェクト開始のときは共同開発者が辞退せざるを得なくなって単独開発になった.提案は面白そうなものの,実現可能性を含めて,いろんな心配があったが,結果オーライであった.大矢プロジェクトの成果は,名前が表に出てこない実に多くの人の協力の結果である.なんといっても最も大きなチカラを発揮したのはプロジェクト管理組織の ( ) 国際メディア財団の大野一生さんだろう.マッサージチェアの大手メーカと交渉して数台のメッセージチェアを開発用に ( 安価で ) 提供してもらうことができた.このほかにもハードの改良部品の手配など,実にきめ細かいサポートをしてもらった.土壇場ギリギリの特許申請でも獅子奮迅の活躍だった.プロジェクト管理組織ではなく,まさにプロジェクトサポート組織となっていただいた.

 とはいえ,このプロジェクトの成果は計画とかなり異なっている.計画では快・不快センサとそれに基づいた学習による制御の開発がメインだったが,それは上記の最終成果に見られるように大幅に縮退した.しかし, PM の見るところ,いわばそのような「学術的」な方向ではなくて,本来のマッサージとは一体なになのかという,凝りに困っているユーザ向けの本質論に走ることになったことが,むしろ幸いした.プロのマッサージ師 ( 匿名希望 ) にいろいろな指導をしてもらったことで,驚くべき知見が得られ,開発が正しい方向に導かれたのだ.最終成果報告会で全員が一様に驚いたように,高価なハイテク装置と思っていたマッサージチェアについてそのような本質論の基盤研究がほとんどなされていなかったらしい.大矢プロジェクトはそこに突破口を開けた.これは特許申請すべきという PM の進言により,大野さんらの努力により,最終成果報告会前にギリギリ間に合った.

 最終成果に書いたとおり,プロジェクトはマッサージに関する素人の数々の間違った常識を覆した.典型例は,左右非対称の揉みが重要,片方向の揉みが重要,揉み玉を 1 個にする,などである.メーカの人が驚いたというから,シロウトの我々のほうが驚く.しかし,これらの開発にはハードウェアの改良や開発が必須となる.同じ研究室の先輩の垣田 幸子さん,安居 覚さんが協力してくれた.プログラム開発の部分では,昨年の「空想大陸計画」の共同開発者の大宮 健太君がいろいろ手伝ったとのことである.大矢さんは主に学習に関わるソフトウェア開発を担当した.これらの「いざ鎌倉」的協調作業は,石若研究室という環境なくしてはあり得なかった.

 プロジェクト終了時点での改造マッサージチェアは,動作確認をするためのニワカ造りだったので,実際の揉み心地について,おおお,とうなるところはあったものの ( 報告会会場で揉まれている私の声がスピーカから流れた ) ,安定した感触を得ることはできなかった.しかし,ともかくこれだけのブレークスルーを試行できたということの意義は大きい.今後これが新製品開発につながるようお願いしたい.また, PM のほうでもできることがあればお手伝いしたい.

  プロジェクト全体としてはスーパークリエータ相当の素晴らしい成果が出たものの,上記のような「いざ鎌倉」共同開発が「発生」してしまったため,契約上の単独開発者の大矢さんにどういう称号を与えるべきか,ちょっと迷ってしまう.このプロジェクトの場合,大矢さん単独で評価するとスーパークリエータの称号を差し上げるのは難しい.しかし,大矢さんの活躍がこれだけの仲間,いわば「大矢&シスターズ&ブラザーズ」を結成させる原動力になったことは間違いない.プロのマッサージ師との出会いから,開発方針を柔軟かつ劇的に変更して,ここまでの成果を上げる道筋を切り開いたことは,クリエータたるべきものがもつべき一つの素質の証となっている.よって,準スーパークリエータの称号を差し上げたい.ぜひこれをみんなと分かち合っていただきたい.



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