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2004年度未踏ソフトウェア創造事業(未踏ユース)  採択案件評価書


 



1.担当PM


 竹内 郁雄   (電気通信大学教授)



2.採択者氏名


 代表者

鈴木 真一朗  ( 公立はこだて未来大学 )

共同開発者

高橋 和之(同上)

 



3.プロジェクト管理組織


  株式会社オープンテクノロジーズ


4. 委託支払金額


  2,233,825 円



5.テーマ名


 ブレインストーミング支援ツール 「BSE -Brain Storming Engine-」



6.関連Webサイト


 なし



7.プロジェクト概要


 

 ブレインストーミングという自由発想法において,活発に連想をすることができる人間もいるが,連想を苦手とする人間も確かにいる.そして,連想できる人も連想が止まるときが必ず訪れる.また,ブレインストーミングは基本的に複数人が一同に会し,お互いのアイデアの上にさらにアイデアを積むという手法だからこそ,問題点として,連想できない場合はブレインストーミング自体が成り立たないということ,そして独りで行なうブレインストーミングは複数人のそれよりも効果は薄いことが挙げられる.

 当プロジェクトではユーザのインスピレーションを刺激したい.ブレインストーミングは複数人で行なうという常識を覆す.「発想」の支援をするという点において,複数の人とあたかも話しをしているかのような「場」を作る.このツールは使用者の「発想」を多く引き出すための支援を行なう.

 過去のツールに見られなかった斬新さとして,

(1) ブレインストーミングにおいて,関連しているという意味しか持っていなかった「線」に意味を持たせた点,

(2) ちぎるというメタファー,

(3) 大量のデータをまとめるフェーズにも重点を置いている点,

(4) 紙という媒体上では色を使い分けるのが不便であり,有効に活用されていなかったのを改善しようとしている点,

(5) 過去のブレインストーミングを有効に活用するために学習機能を持たせた点,

(6) 現時点で決して知的であるとはいえない人工知能に,あえて無理な対話をさせることで人間側に起こる反応を利用している点,

(7) あいまいな対象を言語化したがる人間の特性を利用している点,

などが挙げられる.期待される効果として,ブレインストーミングを得意とする人にはより良いブレインストーミング環境を提供し,ブレインストーミングを苦手とする人にはブレインストーミングの魅力,アイデアを創造する喜びを知る機会を提供する.

 世の中の全ての人が偉大な発明家になれるツールを目指す.





8.採択理由


 

 率直に言って採択を少々迷ったが,「人形の進言」というところに引かれた.ブレインストーミングというのは本来何人か集まってやるものだが,そういう状況になかなかなれない場合,つまり独りでなにか考えないといけない場合にこのシステムが役立つケースもあり得ると思われる.しかし,システムの構築のためには, 3 人の開発者自身によるブレーンストーミングがもっと必要であろう ( 採択後, 2 人に減少 ) .もう一捻りのアイデア,あるいは深みがあるとよい.






9.成果概要


 

 ブレインストーミングを媒介とした一般ユーザの発想支援に特化したソフトウェア BrainStormingEngine ( 以下, BSE) の開発を行なった.

BSE は既存ソフトウェアが成し得なかった発想支援を行ない,またブレインストーミングは複数人を必要とするという問題を解決した.これには現在の作業効率支援型ソフトウェアに対するアンチテーゼの意も込められている.最終目的は,世界中の人間が強力な発想力を手に入れることができる発想支援ツールの完成である.

 

BSE はなるべく多くのユーザに使用できるように,開発言語にはマルチプラットフォームに対応している Java1.4 を採用した.開発には, Windows XP 上の Eclipse を利用した.

 ブレインストーミングを紙上から計算機上に移す基本機能をまず開発した.これによって紙面上で行うブレインストーミングと同等のことが,違和感なくできるようになった.操作性には特に注意し,発想を妨げるような操作をユーザに強いることのないようになっている.たとえば,オブジェクトを操作する際には,対象オブジェクトの周囲に操作ボタンを表示する ( 1) .こうすると,メニューバー等から操作を選ぶのに比べて,操作に伴うマウスカーソルの動きが少なくできる.すなわち,ソフトウェア化したために発想を中断させることがない.

 

鈴木図1

 

鈴木 図 1 ユーザインタフェース例

 

 

BSE は,複数の人形を GUI 上に表示し,それらにヒントを発言させることで,仮想的に複数人とブレインストーミングしているかのような場を作り出す.ヒントは日常生活でよく用いられている言葉, Osborn が考案したチェックリスト法に基づいた言葉 ( 2) ,ユーザが過去に行なったブレインストーミングの履歴をベースに作成され,積極的に発想を支援する.ヒントの元となる言葉や履歴を人形ごとに別々に持つことが可能である.

 

 

鈴木図2

 

鈴木 図 2  チェックリスト法からのヒント発言例

 

 

 人形はオブジェクトとオブジェクトのリンク上をランダムに移動し,いる場所に応じたヒントを発言する.ユーザは陽に人形をつまんで移動させることもできる.

 ブレインストーミングによりユーザが連想を行なっていく過程で,各連想項目の生成順が重要になることがあると考えられる.たとえば,第三者が途中経過のブレインストーミングを見た際に,どのような思考の流れがあったかを類推する場合などである. BSE では連想項目の生成順を可視化するために色相によって時系列を表した.古い物ほど青みが強く,新しくなればなるほど赤みを帯びる ( 3) .これを紙上のブレインストーミングで行なおうとする非常に面倒である.

 

 

鈴木図3

 

鈴木 図 3  色相による時系列表現

 また,連想を続けていく中で,重み分けをしたいことがあろう.連想された項目が膨大になればなるほど,各々が持つ意味が変遷するので,連想された項目間のリンクに太さを用いて,関連度の強さを表す.また,現段階で一番重要と考えられる項目には特別な表示を施す.これらは連想後,具体案をまとめる段階で必要最低限の項目だけ抽出するために用いる.具体案を求めるためには,膨大な項目や関連性を扱わずに,グラフ理論的な距離や関連性を用いて,抽出された項目だけを意識させるほうがユーザの負担を減らすことができるからである. BSE では,たとえば,あるオブジェクトに注目し,そのオブジェクトからの距離が近いもののみを残す ( 4) ,リンクの太いものだけを残す,といった操作が可能である.このとき,関連性が低いと判断されたオブジェクトは削除するのではなく,網掛け表示とした.

 

 

鈴木図4

 

鈴木 図 4 設定距離 3 以内による抽出例

 

 




 



10. PM評価とコメント


 PM はブレインストーミングには多少のアルコールがあれば十分という人間だと自分で思っている ( だけな ) ので,このようなツールの必要性をなかなか実感できない.それでもこういうツールは面白いと思う.エンタープライズアーキテクチャたらなんたらでは出てこない発想のソフトウェアだ.

 その発想は鈴木君の「すでにいくつかのブレインストーミングソフトウェアが世に出ている.我々は実際に幾つかのブレインストーミングソフトウェアを試したが,大きな不満を抱いた.それらのソフトウェアは発想支援ではなく,作業効率支援と呼ぶべき機能しか持たなかったからである.」の弁でしっかり表現されている.

 ただし,まさに言うは易く…であり,はこだて未来大学のいまや伝統となった ( ) 産みの苦しみがあった.大学によって差があるのだろうが,はこだて未来大学の 3 年生はそれなりに本業で忙しい.開発になかなか時間が取れない,スキルアップの余裕もなかなかない,という状況だ.提案時に 2 人だった共同開発者のうちの 1 人が抜けたので,パワーも減った.要するに,ないないずくめであり,その上,鈴木君が比較的文系的な発想でじっくりとものを考えるタイプなので,いつシステムを作り始めるんだろうと途中何度も心配になった.振り返ると,はこだて未来大に私が未踏の PM として関わって以来,そういえば,どれも多かれ少なかれ,こんな調子なのである. 1 月にプロジェクト開発現場を再訪問したときですら,かなり危ないと思わせた ( 昨年度のはこだて未来の松村プロジェクトを思い出す )

 しかし,どれもそんな調子でありながら,最後の最後でなにかができてしまう.はこだて未来には要領の良さだけで勝負しないという,なにか独特の文化が形成されつつあるのではなかろうか.最終成果報告会での発表は, PM の心配を裏切って,会場で大いに受けた.実際,そこまでの完成度に一挙に上がっていたのである.プロジェクト管理組織の佐野さんもだいぶカツを入れたようだ.

 BSE の最大の眼目はいわゆる「人工無能」的なお人形を導入したことである.お人形は,ノイジーと思えるほど,妙なことを喋りまくる.お人形の有用性は,ワープロの誤変換が新しいアイデアを産むというあの原理に基づく.もちろん,ブレインストーミングにおける Osborn のチェックリスト法といったマトモな方法も使っており,完全にノイズというわけではない.このあたりのバランスはなかなか良かった.これだけで,独りでニンマリと BSE を楽しむ人も出てくるのではなかろうか.また,お人形の貸し借りができるようにするのは面白いアイデアだ.今後,スクリプトでお人形をお好みの動作へカスタマイズする機能を追加するとのことだが,それも楽しみだ.その上で,まずは BSE をインターネットで公開しなければなるまい ( もちろん,ビジネス展開への転向も歓迎 )

 ところで,システムとしては,発想支援だけではなく,作業支援も必須である.このあたりについては,もっといろいろな機能の作り込みが重要になってくるであろう.たとえば,画面からの情報抽出メカニズムは発想支援と作業支援の両方の色合いをもつ.さらなる分析・設計とインプリ能力が必要となるだろう.




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