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2004年度未踏ソフトウェア創造事業(未踏ユース)  採択案件評価書


 



1.担当PM


 竹内 郁雄   (電気通信大学教授)



2.採択者氏名


 代表者

花村 創史  (横浜国立大学教育人間科学部 )

共同開発者

相馬 海一郎 (同上)

 



3.プロジェクト管理組織


 財団法人 国際メディア研究財団


4. 委託支払金額


 2,953,626円



5.テーマ名


  Qube:4次元体感型ソフトウェア



6.関連Webサイト


 http://qube.edhs.ynu.ac.jp/



7.プロジェクト概要


  我々の住む 3 次元の世界とは全く異なる世界,その世界にふれてみたいという探究心は人間なら誰しもが持つものであろう.しかし既存の 4 次元世界の「可視化」には限界が感じられる.図 1 4 次元の正 8 胞体を 2 次元に投影した図形である.しかし,この図形から 4 次元を想像できる人が果たして何人いるだろうか.そもそも 3 次元に住む我々に, 4 次元を「見る」ことは不可能なのではないだろうか.そこで我々は, 4 次元を「見る」ことではなく「感じる」ことをテーマとしたソフトウェア Qube を提案する.具体的な手法として,仮想的な 4 次元空間をパソコン内にシミュレートし,その 4 次元空間の中で行なうゲームを開発する.もちろん,ここでいう 4 次元とは 3 次元空間に時間軸ではなく第 4 の空間軸を加えた空間である.

 

花村図1

花村 図 1  正 8 胞体

 

 

 図 2 に示したものは,図 1 の正 8 胞体を展開した模型である.この模型を組み立てることで左の正 8 胞体が完成するのだが,当然そんな方法は我々には想像できない.しかし右の展開模型は 3 次元の物体であり,構造を理解することになんら抵抗はない.そこで我々は 4 次元的な世界として,正 8 胞体の展開模型に注目した.この 3 次元的な展開模型の中にプレーヤーが入り,鬼ごっこやパズルゲームなどを行なう.実際には完全な正 8 胞体に組みあがっているのだが, 3 次元で生きる我々はこれを展開模型のように認識してしまう.このプレーヤーの 3 次元的認識と実際の 4 次元空間とのギャップが,プレーヤーの方向感覚を狂わせ,思わぬ回り道をさせてしまう.そしてこの回り道こそが,このゲームの難しさであり,面白さでもある.空間が思わぬつながり方をした 4 次元という世界を探索することで, 4 次元の感覚的な把握を目標とする.これによって,我々のもつ平面把握能力・空間把握能力を超えた「 4 次元把握能力」を得られるはずである.

 なお,本ソフトウェアはより多くの人にふれてもらうため,完成後には Web での公開を予定している.

 

花村図2 

  花村 図 2  正 8 胞体の展開

 





8.採択理由

  ゲーム仕立てで 4 次元を体感させるという提案で,簡単なデモを見せてもらったが,これは提案時点よりも奥の深い,あるいは幅の広いソフトウェアにぜひ仕上げてほしい.つまり,もう少し狙いを高いところに置いてほしい. 基本アイデアはしっかりしているので,そうすることはそんなに難しいことではないと思う.






9.成果概要


  本プロジェクトは, Color Qube および Catcher in the Qube の二つのゲームソフトウェアを開発成果とする.これらのソフトウェアはユーザに 4 次元空間を想像し把握しうる力「 4 次元把握能力」を獲得させることを目的として,実際に歩き回ることの出来る,且つユーザに理解しやすい 4 次元空間をコンピュータ上に表現したものである.

 現在 Web 上にある多数の 4 次元物体を 3 次元や 2 次元に投影した模型や図形を公開するサイト (SKYCUBE ,東工大ロボット技術研究会等 ) に対して,このプロジェクトでは 4 次元物体の 1 部分の断面を「見る」ことではなく「感じる」ことに重点をおいた.断片的な無数の立体を,感覚的に結び付ける能力を獲得させるわけである.このソフトウェアを通して,ユーザの頭の中に 4 次元の世界を描かせることを目的とした.またより多くの人が気軽に遊べ,難解な解説や専門的な知識を必要としない,そして何より楽しめるゲームを目指した.無意識のうちに 4 次元空間を感覚的に把握できるようにすることが最終目標である. ただし, 4 次元そのものを扱うのではなく 4 次元立方体である正 8 胞体の展開図 ( 1 と図 2) をモチーフにすることで,我々に馴染み深い立方体をゲームフィールドとして利用し,無駄な部分に理解を要しないようにした.

 

 二つのゲームソフト, Color Qube Catcher in the Qube について以下で述べる.

 

(1) Color Qube

 

Color Qube はプレイヤが倉庫番のように各面に色の付いた立方体 Color Qube を押し,各面とその面に接する部屋 ( 立方体 ) の壁の色を合わせるゲームである.フィールドは正 8 胞体の表層上 8 マスであり,正 8 胞体表層内で正 8 胞体の特性を利用して Color Qube を回転させずに押していくだけで色を合わせる.各面の色を合わせれば,ゲームクリア ( 3 を図 4 の形にすればクリア )

 

 

花村図3

 

 

花村 図 3( ) ゲームの初期状態 壁と中の立方体の面の色が合わない ,

4( ) ゲームのクリア状態

 

 

 図 5 は実際に Color Qube をゲーム内で押している画面である.この画面からは紫と緑の面はきちんと合っているものの,まだ赤と青の面が合っていないのが分かる.

Color Qube Java3D で開発し .ゲーム画面はすべてポリゴンで描写されており, 3 次元に展開された正 8 胞体をそのまま表現している.視点は部屋の中にいながらにして上下左右の部屋を確認できるように焦点距離を短くとり,ライティングも奥行き感を出すため,プレイヤ視点からのみ照明を当てた.移動時は,部屋そのものが回転してついてくるように見せることで,正 8 胞体表層では 270 度で同じ部屋に戻ってこれること,そして部屋と部屋の繋がりの不思議さを表現した.

 

 

花村図4

 

花村 図 5 ゲームの画面

 

 


(2) Catcher in the Qube

 

Catcher in the Qube はプレイヤが鬼になって,捕獲対象である「みどりちゃん」 ( 6 の中央 ) を追いかける鬼ごっこである.フィールドは正 8 胞体の表層の 8 部屋であり,プレイヤはその中を逃げ回るみどりちゃんを追いかける.捕まえたところでゲームはクリアとなる.

 このゲームは,誰でもインターネット上からブラウザを開くだけで遊べるようにするため, FLASH で構築した.しかし, FLASH 3D をサポートしていないため,あらかじめ正 8 胞体の展開図と,移動するごとに変わる部屋の様子は 1 コマ 1 コマ用意した.

 しかしこれでは部屋と部屋の違いを認識できないため,図 7 のように部屋と部屋の繋がりをグラフ化した.その際,複数の正 8 胞体を組み合わせたより難しい 4 次元場で鬼ごっこをすることを想定したデータ構造を採用した.

 当面,このソフトウェアの正 8 胞体表層で表現されている移動可能な所は 8 部屋だけあり,障害物がない.そのため, A* アルゴリズムのような高度な経路探索は必要ない.しかし,鬼ごっこを表現するためには捕獲対象が「逃げている」挙動を持つことが必要である.そこでみどりちゃんに以下のような 3 つの行動規則を設けた.

 

・移動しようとする部屋にプレイヤがいた場合は,そこには進まないようにする.

・みどりちゃんとプレイヤの目が合った場合は,向きを変える動作と,部屋を移動する動作をまとめて取ることで,慌てて逃げる雰囲気が出るようにした ( 8)

 

・プレイヤが後を迫ってきたときも,上と同様に,素直に逃げるのではなく,方向を変えて逃げる ( 二つの動作の複合 ) .これにより,鬼は 4 次元空間の特性を利用して「回り込む」動きをしなければみどりちゃんを捕まえることができない.鬼であるユーザはこうして 4 次元空間を「体感」することが可能になる.

 

 

花村図5

 

花村 図 6 みどりちゃんを追え

 

 

花村図6

 

花村 図 7 部屋のつながり

 

 

花村図7

 

花村 図 8 意図的に逃げるみどりちゃん





 



10. PM評価とコメント


  PM は大昔,カオス研究の第一人者である津田一郎さん ( 現在北海道大学 ) に「私は 4 次元空間の認知能力を養うための怪しい禅問答みたいな会に参加している」という話を聞き,いたく感動した.彼らのやり方は時間軸を使いながら,それを空間軸にすり替える訓練をするということだったと思う.頭の中で時間軸を空間軸に置き換えるというか,斜影 ( え,どこに ) すれば, 4 次元が見えてくる,といううまい話である.

 花村君たちの試みは,そんな難しいことをしないでも,ゲームで遊んでいるうちに, 4 次元が体感できるシステムをつくろうという提案であった.概念でわかっていることでも,わかりやすい GUI で目の前で見せてもらうとわかったような気になることは事実である.もっとも,体感するというより,次元を上げたときの,いろいろな数理がよくわかるようなるというほうが正解かもしれない.この意味で,プロジェクト終了時点でできあがっている簡単なゲームは啓蒙的である.これ以上難しくすると,むしろ 4 次元空間の「体感」を妨げることになるかもしれない.

 

 そのことは認めつつも,もうひと捻り難しいゲーム ( たとえば,正 8 胞体がつながったようなもっと大きな迷路を使うもの ) も比較対照のためにプロジェクト期間内につくってもらいたかった.そうすると, 4 次元の体感はともかく,見たことのないようなゲームで遊びたいと思っている層にも受けて,それがまた 4 次元を体感したいというユーザを増やすことなるからである.

 この手の話は PM の好みでもあるので,花村君たちには結構口から出任せにいろんなアドバイス ( 邪魔? ) をした.たとえば,正 8 胞体の隣の部屋を見ると,その先には自分の背中が見えるはずなので,それを表示したらどうか,部屋の壁を透明にしないで,いちいちドアを開けさせるようにしたらどうかなど.でも,これは,いろいろな制約によって実現しなかった.

 とはいえ, 4 次元正 8 胞体の見せ方について,花村君も共同開発者の相馬君もずいぶんいろんなこときちんと考えた.これはプロジェクト期間を通じてよく感ずることができた.花村君が Java 3D ,相馬君が Flash と,まったく違う表現形式を採用して,違うものの並行開発を進めたのはよい効果をもたらしたと思う.その分,ゲームの複雑度や完成度が上がらなかったことはあまり問題にしなくてもよい.

 そういえば,花村君たちは昨年度の未踏ユースの開発者である上松君と横浜国立大学の同じ研究室の 4 年生である.同じ研究室から開発者が続出するというのは,未踏ユースの ( いまのところの ) 特徴なのであるが,同じ研究室とは思えないくらい,飛び跳ねたテーマだったのが面白い. PM は横浜国立大学の教育人間科学部の建物を訪問するたびに,どこか 4 次元の世界に来た ( この場合の 4 次元目は,時間軸を遡ったレトロ感という意味 ) という印象をもつのだが,彼らの指導者である根上先生とたまさかお会いして,うーむ,これは根上先生あってのこの研究室なのか,と納得した次第.

 

 閑話休題.ともかく, Qube はもう少し発展させてから世に問う必要がある.ゲーム性をもうちょっと高めることが当面の課題である.早晩,これを Web で公開してほしい.なお,以下に花村君たちが紹介してくれた関連 Web ページを紹介しておく.これらにくらべて, Qube はなかなかいい線をついていることがご理解いただけると思う.

 

SKYCUBE : http://hp.vector.co.jp/authors/VA010204/4d/

ロボット技術研究会 >C++ 研究所 : http://rogiken.org/cpp/index.html

Qubit Home Page: http://www.qu-bit.com/

Stone's Home Page: http://www.asahi-net.or.jp/~hq8y-ishm/index.html




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