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2004年度未踏ソフトウェア創造事業(未踏ユース)  採択案件評価書


 



1.担当PM


 竹内 郁雄   (電気通信大学教授)



2.採択者氏名


 代表者

小林 由佳  (函館工業高等専門学校 )

共同開発者

なし



3.プロジェクト管理組織


  リトルスタジオインク株式会社


4. 委託支払金額


 3,000,000円



5.テーマ名


  漫画設計支援システム「POM」の開発



6.関連Webサイト


 なし



7.プロジェクト概要


  漫画大国と呼ばれるわが国で漫画を読んだことがないという人はいないだろう.漫画は世界に誇れる日本を代表する文化の一つである.だがこの漫画についてどれだけの人が制作の現状をご存知だろうか.

 漫画制作はストーリーを考えて絵を描く創作だけの作業と思われがちだが,実際には事務的作業が大半を占めている.その一つに,漫画の設計図 ( ネーム ) を作成する作業がある.ネームとはコマ・セリフ・絵をはじめ,人物の位置関係・構図・ふきだしの位置などを大雑把に示したものである.作成したネームの良し悪しで作品の出来が左右されるため,何度も試行錯誤しなくてはならない重要な作業である.そこで本プロジェクトでは漫画家の創作活動を支援するため『漫画設計支援ソフト POM 』の開発を提案する.

 漫画制作を支援するソフト comic studio comic works は,漫画仕上げ工程を主に支援しており,ネームに関してはアナログで地道な作業を前提としている.しかし,本ソフトウェアでは漫画制作を設計段階から PC 上で行なえる上に,ユーザーが試行錯誤すべき部分をすべて代行・提案してくれる. ( 「制作」ではなく「設計」という言葉をあえて用いたのはこういう理由からである. )

 本ソフトウェアは一見人間にしかできないと思われるネームのコマ割を行なう.コマ割はある程度の規則性が確認できるので,パターン化できると考えられる.また漫画のジャンルによっても作品全体のコマ割の特徴が変化する.

スポ根漫画→スピード感や迫力ある大胆なコマ割

推理物→ 1 ページに 7 8 個のコマを配置した台詞がメインのコマ割

少女漫画→枠のないコマ・変形したコマを多用した心理描写の多いコマ割

これらの特徴を機械学習を用いて学習した上でコマ割を行なうシステムを開発する.

 従来の漫画制作支援ソフトとはまったく違った方向からのサポートソフト POM によってあなたも漫画家になれる.




8.採択理由

 自分が漫画を描くために欲しいというシステムの開発である.このように自分で使いたい,しかも,世の中の漫画家 ( 志望者 ) に等しく役立ちそうなシステムの開発には予想以上のパワーが出るものである.それにしても漫画の設計図にあたる「ネーム」を作成することが最後の作画作業の何倍も手間がかかり,それをサポートするソフトウェアが現状で皆無というのには驚いた.まさに「未踏」にふさわしい.




9.成果概要

 

 漫画を描いてみたいが何から始めていいかわからないというユーザーを対象とした漫画制作入門者向けシステム POM を開発した.本システムは,ユーザーが自分の描きたい漫画のジャンルや作家名を入力すると,ユーザーが指定した漫画家のデータから複数のパターンのページ配分・コマ割・構図をユーザーに提案する.ユーザーは提案された候補の中からをイメージに合ったもの選んでカスタマイズし,それに絵と台詞を書き込み自分だけの作品を手軽に制作することができる.

 

 以下にプロジェクト概要を漫画にて説明する ( 情報処理学会第 46 回プログラミングシンポジウムの予稿集から引用 ) .長くなるが,そのユニークさゆえに全体を引用する.

 

 

小林図1手順

 

 以下,簡単にシステムの開発について述べる.作成したのは (1) 漫画データ収集用のアプリケーションと (2) メインシステム POM である.

POM はページ配分機能・コマ割機能・構図提案機能を用いて,ユーザーにネームを提案する.この機能を実現するために 3 つのデータベースと 7 つのモジュールを開発した.それぞれの関係をシステム構成図 ( 2) に示す.

小林プロシン1

小林プロシン2

小林プロシン3

小林プロシン4


 

 

小林プロシン5

小林プロシン6

 

小林図2システム構成図

 

小林 図 2  システム構成図

 

 

 プロ漫画家データベースは,ユーザが描きたい漫画のネームの候補を,作成するためのデータベースである.著名な漫画家 21 名,総計 12,113 ページ分のデータを収集分析した.この調査から,漫画のジャンルによって各項目にそのジャンルの特徴が,顕著に現われることが明らかになった.この特徴は,作家によって更に顕著に現われる.この作家ごとの特徴の違いを用いて,ユーザのイメージにあったネームを提案することが可能である.

 収集データの項目から作家ごとの起承転結の配分率を取り出したものをページ配分データベースとする.また,ユーザが入力したページ数を起承転結に配分するモジュールを開発した.起承転結の配分率は,ユーザが入力したジャンル・作家のデータの配分率に従う.さらに,配分したページ数をユーザが調整できるモジュールも開発した.

 

 漫画データ収集フォームで得たコマ割の項目についてのデータを用いて,コマ割データベースを作成した.ページ内でのコマの数・形・大きさ・配置の情報をもつコマ割遺伝子を約 2 万個作成した.作成したコマ割は,カテゴリ化によってコマ割提案の時間短縮を行なった.

ユーザが指定したページ数すべてに,コマ割を行なうコマ割モジュールを開発した.コマ割モジュールはコマ割データベースをもとに,ユーザが指定したページ数・ページ配分・作家の特徴に合わせて,コマ割の候補を提示することができる.

 

 漫画データベースから,構図データベースを作成し,それに基づいて各コマの構図を提案するモジュールを作成した.提案される構図は,提案を行なうページとユーザが指定した作家の特徴から決定される.図 3 は構図の提案例である.

 

小林図3構図例

 

小林 図 3 構図の提案例

 







10. PM評価とコメント


  小林さんは大矢さんと同じ石若研究室の同級生である.テーマのユニークさにおいて小林さんは大矢さんに匹敵する.だが,個人のキャラは,本人が漫画家志望というだけあって,はるかに「濃い」.

PM は最近まったく漫画を読まないが,ご他聞にもれず学生時代はよく読んだ.でも社会人になってからは手塚治虫と高橋留美子をちょっと読んだ程度である.うーむ,なかなかうまくプロットが仕組んであるなぁと思ったことはあっても,ネームという作業がそれほど重要で負荷のかかる作業とは気がつかなかった.小林さんの話を聞いて,なんと意外な,と思わされたほうである.それでいて,ネームの作業を支援する IT ツールがまったくないのも意外であった.もう一つ驚いたことは,漫画を書きたいという人口の大きさである.小林さんによれば 10 万人をはるかに超えるという.

 採択理由にも書いたが,自分がいま困っていて必要なものを開発する場合,倍の力が出るものである.率直なところ,採択時点の小林さんの IT スキルはほかの未踏ユース開発者に比べて心配なレベルであった.しかし,プロジェクトが立ち上がったことにより,必要なものは必要なものとして IT スキルは急速に立ち上がった.それでもまだおお凄いというレベルではないが,一旦立ち上がれば,あとはどんどん伸びるものだ.

 多数のアルバイトにお願いして作成したというプロ漫画家のデータベースはそれ自体が貴重な成果だ. 1 2000 ページを超える漫画から収録したとは半端ではない.アルバイターは漫画を読みながらのバイトなので安いアルバイト料でも力が入ったのかもしれない.

 

 小林さんは漫画家志望であり,某少女漫画誌の新人発掘投稿ページで「努力賞」を獲得する腕前なので,プレゼンテーションに自分の描いた漫画を活用するのは自然な流れ.これもユニークだ.例年,未踏ユースの 2 3 名に情報処理学会プログラミングシンポジウム ( プロシン ) での発表を PM の紹介で申し込んでいるので, 2005 1 月は小林さんを紹介した.ところが,締切りを過ぎていたので,ポスター発表になってしまった.申し訳ないことをした.プロシンは情報処理学会の発足よりも昔から続いている由緒ある ( ) 新年会シンポジウムだが,そのプロシーディングに全編漫画の予稿を出したのは小林さんが空前である.絶後になるかどうかはわからない.それにしてもポスター会場では人だかりが絶えなかった.大受けだったのだ.そういえば,漫画のプレゼンテーションで, 2004 9 月の精密工学会北海道支部の大会で優秀プレゼンテーション賞を受賞している.これには,石若先生 ( 自称 24 ± X ) のビシバシッの指導があったらしい.

 もっとも,ネーム作業支援システムとしての成熟度・完成度は満点とはいかない.実使用に耐えるようにするには,構図検討機能,ドロー機能,コマ修正機能など,まだまだ作り込みが必要である.しかし,このようなシステムができるということを実証するところまで実装できたことは高く評価できる.好きこそものの上手なれで,心配だったプログラム作りもこなせた.計画書よりも進んだところもいくつかある.これを引っ下げてプロ漫画家デビューしたいというのだから,システムはこれからもっと良くなるだろう.

 

 ここまでのものができると今後の展開が気になる.小林さんは ( とりあえず?プロ漫画家になる前に ) とある会社に就職する.会社でもこのシステムの展開をサポートしてもらえそうだとのことである.それを受けた IPAX 2005 での発表に期待したい.

 

 その若さ,ユニークな資質,テーマの選択,実証的実装,漫画の実力 ( 文章力もある そりゃそうで,文章が書けなきゃ漫画は描けない ) ,この後の展開への努力,これらを総合して,小林さんにスーパークリエータの称号を与えたい.ぜひ今後も伸びてほしい.本人は漫画部門でもらいたいだろうが….



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