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2004年度未踏ソフトウェア創造事業(未踏ユース)  採択案件評価書


 



1.担当PM


 竹内 郁雄   (電気通信大学教授)



2.採択者氏名


 代表者

花田 良子  (同志社大学大学院 博士課程 )

共同開発者

釘井 睦和(同上大学院 修士課程)
谷口 義樹(同上大学院 修士課程)



3.プロジェクト管理組織


  三菱マテリアル株式会社


4. 委託支払金額


 3,000,000円



5.テーマ名


  G-rated Grid Game:G3 〜 Gridの付加価値としてのグリッドゲーム(グリゲー)



6.関連Webサイト


 なし



7.プロジェクト概要

 

 近年, Grid をキーワードとして,ネットワークを利用した様々なサービスやシステムが開発されている.家庭用 PC などの個人レベルの計算リソースが参加する PCGrid の分野では Folding@HOME 等の大規模なプロジェクトが実現されている.計算プロジェクトへの計算リソース提供者となるのは,そのプロジェクト自体に関心を持った一部の先進的なユーザである.個人レベルで計算リソースを提供するユーザをより多く獲得するには, Grid 計算上の計算リソースが単に課された計算を負担するだけではなく,プロジェクトに参加するユーザが楽しめるような付加価値を Grid 環境に与え,参加意欲を向上させることが必要であると思われる.

 本プロジェクトは, Grid 計算で計算リソースに課す負荷をサービスでラッピングし,計算リソースを提供しているユーザがサービスを受けることが大規模科学計算の一部を担うことにつながる仕組みを有する Grid 環境の構築を目的とする.本プロジェクトでは,サービスとしてマルチユーザのオンラインゲームを採用し,大規模計算にこれを組み込むフレームワークである G-rated Grid Game: G3 の開発を行なう.

 この仕組みにより,プロジェクトに賛同するといったボランティアで参加する計算リソース群,あるいは利益志向の計算リソース群以外に,計算リソースを提供することで何か楽しいことができるといったサービス志向で参加する計算リソース群を獲得することで,大規模な計算プロジェクトを実行できる環境が実現可能と期待できる.

 本システムの構築に関しては,サーバで必要となる,依頼された問題の問題空間 ( 解空間 ) 2 次元平面への変換プログラム,プロジェクト参加者の PC で必要となる,課された計算,およびゲームが実行可能な環境として問題空間をもとにしたゲームのマップ生成プログラム,およびそのマップを外部データとして取り込むゲームのフレームワークムの開発を行なう.





8.採択理由


  共同開発者 2 名は昨年の未踏ユース採択者であるが,花田さんは彼らの「乗り」を上回るかもしれない乗りの良さをオーディションで発揮した.このアイデアは Grid を家庭の PC にまで広げるのに大いに役立つ予感がする.提案時点ではまだ基本アイデアの段階だったが, Grid の計算と意味的にリンクした面白いゲームがきっと出来上がるものと期待している.というか,ぜひそういうロジックを考えてほしい. Grid の計算問題の意味とどの程度関係づけるかが興味深い.




9.成果概要

 Grid 環境への計算リソース提供者に対し,付加価値サービスとしてグリッドゲームを提供するフレームワーク G-rated Grid Game: G3 を開発した.本プロジェクトの成果は,ゲームとしての完成度は高くないものの, Grid 本来の目的である計算プロジェクトと連携してゲームコンテンツを提供できるなど,魅力的なサービスへと発展させうる可能性を提示できた.

 

 図 1 G-rated Grid Game: G3 が動作している Grid 計算上での大規模計算の実行の概念図を示す.

 本システムを構築するため,拠点サーバ上での問題空間 ( 解空間 ) 2 次元平面への変換プログラム,プロジェクト参加者の PC ( 計算ノードとなるクライアント ) 上で実行されるプログラム,問題空間をもとにしたゲームマップの生成プログラム,およびそのマップを外部データとして取り組むゲームのフレームワークの開発を行なった.

 本プロジェクトでは,たんぱく質の立体構造予測問題をエネルギー最小化問題として解く問題を Grid 計算問題として採用した.原子間の回転角 (2 面角 ) から構造のエネルギー値を求めるが,たんぱく質の場合,エネルギー値が最小となる 2 面角の組み合わせを求めるのは多次元の問題空間となる.多次元問題空間の 2 次元平面化,さらにゲームマップの生成を実装した.この際,生成されるゲームマップが「それっぽい」ものとなるように腐心した.

 

 

花田図1

 

 

花田 図 1 G3 の実行概念図

 

 


以下,少し詳しくそれぞれのプログラムについて述べる.

 

(1) 拠点サーバの開発

G3 は,拠点サーバと計算ノードとなるクライアントで構成される Grid 環境を想定している.拠点サーバは,依頼された問題から問題空間 ( 解空間 ) を把握し, 2 次元平面へ変換する.それを領域分割し各計算ノードへ振り分ける.

(2) クライアント ( 計算ノード ) の開発

各クライアントは,接続している拠点サーバから実行プログラム,対象問題ファイルならびに担当する領域問題をダウンロードし,この領域内での最良解を求める.

 クライアント上では,計算プロジェクトのプロセスとは独立してゲームのプログラムが実行される.ゲームと計算プロジェクトのプロセスはソケット通信により同期し,ユーザのゲーム上でのアクションに対する応答や提供するゲームの元データとなる乱数列やマップの生成を行なう ( 2) .マップの作成はキャラの動きに合わせてリアルタイムで作成させる.その上でのキャラの動作と計算の同期については図 3 に示す.

 人間はパターン認識等,計算機と比較して優れた能力を有しており,これを計算プロジェクトに活用することも有用である.この仕組みを後述のグローバルマップと合わせて図 4 のように実装した.

花田図2

花田 図 2 マップの生成

 

 

花田図3

花田 図 3  マップ上でのキャラの動作と計算の同期

 

花田図4

花田 図 4 いい解のヒントを与える仕組み

 

 

 計算プロジェクトの本来の目的は,できる限り最適解に近い解を得ることである.一方,問題空間は膨大であるため,「しらみつぶし」に解いていくよりも良好な解の付近を優先して集中的に探索したり,広い範囲を粗く探索し,マップ上の傾向を掴み,その情報を人間にフィードバックするといった対応についても実装した.そのおおまかな仕掛けを図 5 に示す.

また,主人公の他に新しいキャラを登場させ,当該キャラに最適化アルゴリズムを適用し,独自に最適解の探索を行なわせるといった機能も整備した ( 6) .当該キャラの探索結果が活用されるのに加えて,主人公にそのキャラを探させることで,ゲーム性も向上した.さらに主人公が歩き回ると体力が減り,マップ上に落ちている食料を食べたり,お金を使って体力を回復させることができる機能や,ミニゲーム等,ゲーム性を高めるなアイデアを実装した.

花田図5

 

花田 図 5 グローバルマップの利用

 

花田図6

花田 図 6 ゲーム性の向上の一例




 



10. PM評価とコメント

  共同開発者である釘井君と谷口君は昨年度の未踏ユースで「携帯端末を用いたユビキタス / グリッド環境の協調的モニタリタリングシステム」を開発している.彼らは途中,どうなることかと思ったが,最後にゲーム仕立てにすることによって,土壇場で逆転ヒットを放った.このプロジェクトもその流れを汲み,ゲーム仕立てでグリッド計算の底辺を広げようというものである.

 グリッド計算に参加することが,実はそのグリッド計算が片手間に生成したゲームで遊ぶことと同一という発想はまさに釘井プロジェクトの土壇場の発想の敷衍である.これによって,多くの一般ユーザがグリッド計算に参加してくれるだろうという予測が本当に的中するかどうかは別として,やっぱり,発想がとても面白い.「片手間にゲームを生成する」という部分だけでも,興味深い開発課題が一杯転がっている.

 その最大の眼目は,グリッド計算とゲームの関連付けや同期をどうするか,たとえば,グリッド計算に参加している「ユーザ」がゲームでよいスコアを出すことがグリッド計算の良い方向への進行とどう結びつけるかといった,通常のゲームの設計とは一味,二味違ったゲーム設計の方法論の必要性である.

 PM はプロジェクト期間の最後のほうまでタンパク質構造予測計算問題の本質を誤解していたのであるが,タンパク質の構造予測という基本的に最良解が一つしかない問題であっても,比較的良い解と悪い解の典型例を収集できることで科学的には嬉しいデータが揃うことになるらしい.だとすると,膨大な問題空間の中に 1 個しかないお宝を探すゲームではなくて,もっと違う,一種のコミュニティ経済ゲームのようなゲーム設計をすると,もっと面白い,多数の人が飽きずに遊べるゲームになるに違いない.

 望みはいくらでも高くなるのであるが,ともかく,ユーザがこのゲームが楽しめるようにする舞台設定にはまだまだ開拓や作り込みの余地があると思われる.

 さらに言うと,グリッド計算問題の背後に潜む結構根の深い数理に関する研究と関連して,いろいろなグリッド問題問題からどのように「片手間で」ゲームをつくることができるか,タンパク質の構造予測以外にも取り組んでもらえるとありがたい.

 PM の誤解であれば申し訳ないが,このプロジェクトの発想は世界に類を見ないものだと思う.この方向をもう少し追求すれば,ある種の普遍的なゲーム設計原理に関する新しい知見が得られ,一編の学術論文になるかもしれない.

 オーディションのときにびっくりした花田さんのキャラクタは,プロジェクト全体を通して健在だった.見せてもらったゲームの雰囲気が花田さんにとてもよくマッチしている.いかにも楽しげなのである.




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