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2004年度未踏ソフトウェア創造事業  (未踏ユース) 成果評価報告(プロジェクト全体について)



 プロジェクトマネジャー:  筧 捷彦 ( 早稲田大学教授 )



1.プロジェクト全体の概要

 

 未踏ユースも 3 年度目に入り,従来からの竹内 PM とともに筧がPMに加わった。2人のPMがそれぞれの方針を打ち出して提案募集をするものの,あくまで“未踏ユース”として 1 個の窓で提案してもらい,PMの側で担当も含めて選定を行った。

 

 筧 PM が担当する分として選定したものは, 10 件であるが,総括してみると,言語処理系やその周りをテーマとするものが 7 件を占め,いわゆるアプリケーション領域にテーマ分類されるものは 3 件である。選定では,それぞれの提案について個別に善し悪しを判断していったのであるが,結果は,PMの性向を反映したものになっている。

 

 1 件だけがグループでの開発で,他はすべて個人での開発である。開発者は, 8 件までが学部・大学院の在学生であり,しかもその 7 件までが理工情報系である。残る 2 件の社会人も年齢的には同じ層である。

 

 これら 10 件の開発とも,目標を一通り達成することができた。当初の計画で想定していた通りのソフトウェア環境が入手できないことがわかって,作品の動作環境を限定せざるを得なかったものなど,いくつかの計画変更があったものの,最初にねらっていたものの大筋を踏み外すことなくそれぞれ仕上げることができたのは何よりであった。

 

 PMの個人的事情もあって,PMが直接的に開発者の背を押すような積極的な関与をすることができなかったにも関わらず,ここまで行けたのはプロジェクト管理組織の手厚いフォローによる以上に,開発者自身の意欲が高かったからである。開発者には,キックオフ会合と中間発表会,そして最終発表会の 3 度,一同に集まってもらった。これらの会合でも,PMからのコメント以上に,相互の意見交換によって開発者それぞれが意欲を高めていた。PMとしては,さらにもう一歩抜きんでるところまでそれぞれを後押ししたかったというのがいつわらざるところである。




2. 応募状況と採択時の評価 (全体)

 未踏ユースとして一括して募集した結果,応募総数は59件(57名)であった。採択件数は2人のPMで合わせて 21 件である。見掛けの競争率は約3倍であり,一応それらしい数値にはなっている。

 

一次審査は,提出された書類をそれぞれのPMが査読して,ヒアリングに残すべきものを選出した。この時点で振るい落としたものには,落選理由を添付したが,その多くは,つぎのいずれか,またはそれらの複数が重なったものになっていた。

•  半年強の事業期間の中で,何をどこまで仕上げようとするのかが明らかでない。
•  作り上げようとするものの“売り”が何であるのかがわからない。
•  プロジェクトの面白さや,そこにかける“夢”が感じられない。
•  計画をやりとげる腕前の程を示す材料が不足している。

これらは,いずれも,書類の書き方が悪い,ということに尽きる。ひょっとしたら,その書き方の悪さでせっかくの人材を見逃しているかも知れない。とはいえ,応募してプロジェクトを勝ち取ろうという積もりなら,それなりの書き方をして欲しいものである。

 

二次審査は,ヒアリングを実施して,プレゼンテーションを聞き,質疑応答を行って応募書類だけでは判断のつかなかった情報を収集して行った。結果として,筧PM分として採択したのは10件であった。その内容を項目ごとに分類すると,つぎのようになる。

•  開発グループ

    1人:9件,5名 : 1件

•  開発代表者所属

    学部:4件,大学院:4件,企業:1件,個人:1件

開発者は,いずれも男性である。1件(1名)が獣医学科の学生であることを除くと,いずれも情報系の学部生・大学院生・社会人である。

 

採択してテーマを分類すると,つぎのようになる。

•  プログラミング環境 5件
•  システム環境 2件
•  アプリケーション 3件

アプリケーション3件の内容は,草花モデリング,電子カルテ,夢生成である。

 

全 10 件の採択プロジェクトの中で,最初からビジネス指向を明らかにしたものは,企業所属者の提案だけであった。その他は,すべて広くダウンロードして使ってもらうことを意図していた。

 

 


3.プロジェクト終了時の評価


 仕上がりのレベルにいくつかのものが生じた。すでに公開して広く使ってもらうに至っているもの,仕上がっているけれどビジネスとしての道を考えていて公開していないもの,公開するにはまだ幾つかの作業を残しているものの違いである。しかし,そのいずれも,一応できあがったね,といって差し支えないだろう。よく頑張ってくれたと思う。

 

 その中で,作品が,他の人に使ってもらってみる段階までに到達し,作者の持ち前の感性を色濃く反映したものが高い完成度で仕上げた,つぎの人たちに称号を与えたい。

 

 スーパークリエーター:  山本峰章さん,笹田耕一さん,井尻敬さん,山崎秀輔さん

 準スーパークリエーター: 荒川淳平さん

 

 山本さんは,日本語プログラミング言語“なでしこ”とそのプログラミング環境を仕上げて公開している。誰でもがPCの上で定型的な作業をさかさかと日本語でプログラム化してしまえるというもので,豊富な組み込みの命令群を備えていることもあって,すでに多くの利用者を得ている。なにより,これらの仕組みをすべて独学で仕上げたという,まさに,“下町の”プログラミングの達人である。“本ちゃん”のスーパークリエーターに名乗りを上げてほしい人である。

 

 笹田さんは,日本発のプログラミング言語(オブジェクト指向スクリプト言語) Ruby にほれ込んで,より多くの世界中の人に使ってもらいたいと,その処理系(インタプリタ,コンパイラ)の処理速度を従来のものの 大幅に引き上げるという目標を達成し,すでに多くの Ruby ユーザに使ってもらっている。笹田さんは,情報系博士課程の学生であり,博士課程までに大学・大学院で学んだことすべてを総動員してこの仕事をした。 もちろん,単なる“優等生”だけではできない,創意工夫があっての成果であり,未踏ユースのスーパークリエーターと呼ぶに足りる。

 

 井尻さんは,修士課程の学生である。研究の一環として,草花モデリングシステムを開発した。井尻さん自身が草花のモデリングを通して“生け花”をしたい,楽しみたい,という人である。タブレットの上でさっとペンを走らせると葉ができ,花びらができ,花が咲く。実に楽しいインタフェースをもった作品に仕上がっている。さらに多くの人に楽しく使ってもらえる形にするには一層の工夫が必要となる。そこまでいけば“本ちゃん”のスーパークリエーターである。

 

 山崎さんは,情報系学部の大学生である。初めてプログラミングを学び,アルゴリズムとデータ構造を学ぶときの難しさを克服する支援を目指して,統合開発環境“双葉”を作り上げた。PCの上で広く使ってもらおう,という意図をもって, .NET framework の上で組み立てたシステムである。 .NET の制約から,対象言語が C# に限定されてしまったのは残念であった。“双葉”には典型的なデータ構造を可視化する機能がついていて,アルゴリズムの働きを目で見て理解することができる。すでに公開してユーザもついてきている。何より,山崎さん自身の書いた“教科書”が用意されていて,実習機能付オンライン教科書になっているところが素晴らしい。ここまで1人で仕上げられたのは,未踏ユースのスーパークリエーターというにぴったりである。

 

 荒川さんは,友人 4 人とともに携帯電話から遠隔コンピュータを操作する仕組みを仕上げた。 UNIX の ls , cat , cp , mv , rm などの組込みコマンドと, ssh, sftp が携帯電話の押しボタンとあの画面の上でさかさかと動くようにしたというのだから,まさにこのグループはスーパークリエーターである。困ったことに,称号は個人に与えるものになっている。荒川さんに “準”がついているのは,荒川さんの個人の力量を見定めるには情報が不足していることによる。

 


(注)開発者個々に対するコメントについては各々のプロジェクトの「開発成果評価書」を参照ください。筧PM傘下のプロジェクト一覧は こちら からジャンプできます。(IPA未踏事務局より)



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