
2004年度第2回未踏ソフトウェア創造事業 採択案件評価書

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1.担当PM

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石田 亨 (京都大学大学院 情報学研究科 教授)
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2.採択者氏名

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高崎 俊之 (特定非営利活動法人パンゲア 副理事長) |
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なし
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3.プロジェクト管理組織

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株式会社フレックスインターナショナル
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4.委託金支払額

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5,994,232円
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5.テーマ名

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セマンティック・ラッパーとしての絵文字ナレッジベースXTM構築
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7.テーマ概要

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プロジェクト担当者が副理事長を務めるNPOパンゲアでは, 世界中の子どもたちが文化・距離・言語の壁を越えて, 自主的な遊びや共同創作活動などを通して「つながり」が育める環境であるUniversal
Playgroundの実現を目指している. そうした背景から, 本プロジェクトでは世界のこども達が互いの存在を認め合い, 異文化を許容するために,
絵文字によるグローバル・コミュニケーション・プラットフォームの構築を進める.
ここでの目標は, 正確な情報変換を行う「多言語翻訳」ではなく, 文化的独自性を許容する「互いの差異と類似の共有」である. 「情報」をやりとりするためには語義の正確性を重視した翻訳メディアが必要だが,
「つながり」を重視したコミュニケーションにはそれとは異なるメディアが必要である. そこで「互いの存在を認め合い」「伝え合う」絵文字コミュニケーションの実現に向け,
異文化絵文字ナレッジベースをXML Topic Mapsを用いたセマンティック・ラッパーにより構築し,語と絵文字をマッピングするソフトウェアを開発する.
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8.採択理由

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異文化対応機能付き絵文字ナレッジベースの構築を目的としている.
機械翻訳の限界を超えるには感性コミュニケーションが有効で, そのために子供にも分かる絵文字を開発し, 蓄積しようとしている. アイデアだけでなく,
ボランティア集団で既に走り始めているのがいい. 実証の場として国際NPO活動「パンゲア」を用いる予定で, 多国間での異文化コミュニケーション環境が用意されているのがいい.
MITに端を発するプロジェクトだけに, その看板に埋もれてしまうことなく, 独自性がどの程度出せるかが成否の鍵になる.
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9.開発目標

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セマンティック・ラッパーとは, 絵文字が表す概念(Concept Term)をシソーラス(Wordnet)にグラウンディングさせ,
さらには概念に複数の絵文字(ユーザが自由に追加できる)をマッピングさせる絵文字ナレッジベースの枠組みである.
本プロジェクトの開発対象は以下のとおりである:
(1) セマンティック・ラッパー: XML Topic Mapsで記述されたセマンティック・ラッパー・ナレッジベースへ他のアプリケーションからアクセスするためのAPI.
(2) アノテータ:新規概念や絵文字の追加削除, 概念間関連の変更など絵文字ナレッジベースにフルアクセス可能な管理者用GUIクライアントアプリケーション.
(3) Web絵文字解釈アンケートシステム:絵文字デザイン開発時に, 文化的差異などの知見を得るための, オンライン絵文字解釈アンケートWebアプリケーション.
(4) 絵文字メーカ:絵文字の新規制作および既存の絵文字の編集・修正・メタ情報付加を可能とする絵文字描画アプリケーション.
(5) コミュニケータ:互いの差異と類似性を実現する絵文字メールクライアント.
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10.進捗概要

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開発工程の順序を一部入れ替えるなどの変更はあったものの,
結果として計画していた5項目について全てほぼ予定通り実装することができた.
セマンティック・ラッパーの設計時にXML Topic Maps記述の仕様を策定した. 各概念をTopicとして, その定義,
各言語訳, 絵文字画像ファイルなどを定義し, また各概念間の広義語・狭義語・関連語といった関係性を定義することで一貫性を保ったスケーラブルなナレッジベースを実現した.
セマンティック・ラッパーはJavaによって実装されている.
またコミュニケータでは, 各概念にマッピングされる絵文字は, ユーザそれぞれが独自に選択できる(または自分で制作した絵文字を利用できる)システムとした.
送信者のメッセージに含まれる概念と「絵文字ID」をXML形式で受信すると, 「送信者の使用した絵文字によるメッセージ」と「受信者が該当概念にマッピングしている絵文字メッセージ」の両方が表示される.
つまり絵文字が翻訳され, 原文・訳文が同時に表示され, グローバルユーザ間のメッセージのやり取りの中で「互いの差異と類似」について認識することを促す仕掛けを実現した.
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11.成果

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互いの存在を認め合い, 異文化を許容するグローバル・コミュニケーション・プラットフォームとして,
多言語・異文化に対応した一貫性のある絵文字ナレッジベースが構築された. 開発されたシステム群を図1,
図2に示す.
開発後半からは, 言語学専攻の学生にアノテータを用いた概念の追加・修正作業を行わせることによって, ユーザビリティ向上のためのフィードバックを得ることができた.
現在, アノテータの実運用が行われており絵文字ナレッジベースが拡大している.
コミュニケータおよび絵文字メーカは, 2005年9月からNPOパンゲアの実証フィールドである日本, 韓国, ケニア, オーストリア,
アメリカのこども達が段階的に利用していくこととなった.
絵文字アンケートシステムは既に日本と一部の海外(英語圏)については運用を開始しておりMIT
Media LabやUC San Diegoの教員・研究者らから実験データの分析・照会に関する問い合わせが来ている.
またこの秋からは韓国, フランス語圏, ドイツ語圏, アラビア語圏での運用をおこなう予定で,
各国の研究者との連携を図っていく.
本プロジェクトの開発期間中, NPOパンゲアとして小中学生による日本・韓国・ケニアなどの国際的な実証活動を行い, 絵文字デザインの文化的または個人的な類似点・相違点や,
ユーザインタフェース上のヒントを得ている.
図1 アノテータと絵文字メーカ
図2 コミュニケータ
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12.プロジェクト評価

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本システムの開発は, 担当者が所属するNPOパンゲアの活動と不可分である.
絵文字の研究開発は過去に何度も試みられてきたが, 絵文字の多義性と構文構成力の限界から成功した例は少ない.
本プロジェクトを理解するには, 背景としてのNPOパンゲアの活動を理解する必要がある.
こども達が絵文字を通じてコミュニケーションを試みる過程そのものが重要で,
絵文字はその補助手段に過ぎない. 多様な絵文字はこども達の作品集であり, その再利用にはセマンティクスの整理が必要となる.
セマンティック・ラッパーは絵文字をWordnetに対応付けるための工夫である.
セマンティック・ラッパーによって, 例えば「概念に絵文字ファイルをアップロードする」「新しい絵文字が登録されたら随時知らせてくれる」などのサービスを容易に実現できる.
担当者はプログラミングの専門家ではなく, 開発には苦労が多かったと思われる. 本システムの利用を待ち望んでいるこども達が世界中にいたことが開発の支えとなった.
コミュニケーションの道具である文字の原点を感じさせるプロジェクトであった. 今後の開発の継続と, NPOパンゲアの活動の発展を期待したい.
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13.今後の課題

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多くの課題が残されている. コミュニケータでの絵文字入力インタフェースの改善,
絵文字ナレッジベース内のコンテンツ(概念/多言語訳/絵文字ファイル)の追加および実証結果による修正,
各言語に対応した絵文字メッセージの配列順序の変換, 絵文字画像だけでなく写真・動画・音声などのマルチメディア素材をも概念とする拡張などである.
また, NPOパンゲアを通した各国ユーザへの普及活動, 開発したシステムをWebで公開し, ダウンロードを可能とすることも必要である.
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