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2004年度第1回未踏ソフトウェア創造事業 成果評価報告書(プロジェクト全体について)



 プロジェクトマネジャー: 伊知地 宏 (ラムダ数学教育研究所 代表)



1.プロジェクト全体の概要

 
  領域を問わずに公募を行い,63件の応募から以下の5件を採択した.
  (1) 坂本大介:彩られた空間 -新しい情報の景色-
  (2) 大谷淳平: Lamp:教育的かつ実用性のあるゲームミドルウェア
  (3) 吉川美奈子:自動作詞システムの開発
  (4) 中原淳:-動き出す実物大グラビアアイドル- Image Based Robot
  (5) 濱田剛:ハードウェア自身を再構成する数値計算アクセラレータ用コンパイラの開発
 大きく分野を分けると,芸術・娯楽系が4件,ソフトウェア工学系が1件となった.上記のリストではこの順で並べてある.最初の2件は2年目の採択である.
 坂本さんの「彩られた空間 -新しい情報の景色-」は,部屋の状況や人の動作をコンピュータがセンサを通して把握し,与えられたモチーフにしたがって絵を作成するシステムを開発しようというものであり,環境に適応した芸術の支援を目指したものである.昨年度の「共感する部屋」ではデバイスの開発に時間が取られ,芸術を支援するという面での開発が不十分であり,今年度はこの面に焦点をあわせた開発となった.開発当初からPMがかなり積極的に関与してアドバイスを与えたが,坂本氏が芸術とは何かを理解することに予想以上に時間がかかり,光が差したのは12月頃であり,芸術を支援するソフトウェアの本格的な開発は開発期間の残り2ヶ月ほどで行われることになってしまった.最終的に人との簡単なインタラクションが行えるようにはなったものの,本格的な芸術支援までには至らなかった.しかし,芸術に関する理解の副産物として環境に影響を与えるデバイスの開発が行われた.
 大谷さんの「 Lamp:教育的かつ実用性のあるゲームミドルウェア」は,ゲームの特に3Dゲームの開発経験を活かして,ゲーム業界がかかえる3Dソフトウェア開発における問題点を解決しようというものである.具体的には,高価な開発ソフトウェア,教育の問題であり,それにたいしてフリーの3Dグラフィックスミドルウェアを開発し,それを利用した教科書も執筆するものであり,2D時代には世界で最も強かった日本のゲーム業界を,3Dにおいても世界のトップに引き上げる効果が大きいと見込まれる.昨年度にはソフトウェアの基礎的な部分が完成し,今年度においてゲーム作成に必要な機能の開発と教科書の執筆が行われ,教科書には改善の余地があるものの非常に完成度の高いかつ実用的なソフトウェアが完成した.
 吉川さんの「自動作詞システムの開発」は,タイトルのとおりに曲を与えると作詞の支援をしてくれるシステムの開発をしようというものである.採択当初から一番完成が危ぶまれたプロジェクトであり,実際のところ11月末まではあまりプロジェクトが進んでいない状態であった.12月からPMが積極的に関与し,ソフトウェアの機能の絞込みや詞を作成するための方法についてアドバイスを与え,その後2ヶ月ほどでかなり完成度の高いシステムが出来上がった.曲を与えて半自動でインタラクティブに作詞を行えるシステムが完成した.
 中原さんの「-動き出す実物大グラビアアイドル- Image Based Robot」は,運台に載せたプロジェクタを使って人の映像を壁に映し,機械的なロボットの代わりに自然な人間の形をした映像ロボットを作ろうというものである.人の自然な動きをどれだけ再現できるかが技術的課題であり,システムの効果を実証するためにPMは舞台劇にどれだけそのシステムが利用できるか検証することを求めた.ハードウェアの問題などがあったため当初にはあまり開発が進まなかったが,開発期間後半には技術的な課題を次々クリアーすることが出来,技術的にはほぼ予定通りに完成した.PMが求めた舞台劇の例に対して,開発者はアプリケーションをいくつか開発したが,それはあまり満足できるものでなく,有効性をあまり示せなかったのが残念ではある.
 濱田さんの「ハードウェア自身を再構成する数値計算アクセラレータ用コンパイラの開発」は,再構成可能なハードウェアであるFPGAのハードウェアおよびソフトウェアのプログラミングをC言語に似た形で行えるようにするものであり,コンパイラというよりはトランスレータに近いものである.現状ではFPGAのプログラミングには多大な時間と労力を要するが,本システムが完成すると特定分野では状況が飛躍的に改善されることが期待される.開発は極めて順調に進み,開発期間の半分で基幹部分がほとんど出来上がり,開発者の開発能力の高さを示した.システムの完成度は高く,すぐにでも実用に供せそうな出来そうなものとなっており,FPGAの世界で広く使われることが望まれる.
 全般的に見るとプロジェクトは順調に進んだ.細かいところで未達成の項目があるものの,当初に計画された開発内容は多くが達成された.特に,大谷氏,濱田氏のプロジェクトは開発が順調に進み,開発内容のレベルも高く特筆に価するものである.



2.プロジェクト採択時の評価(全体)


 公募の際に,対象とするプロジェクトを以下のようにした.

  基本的には公募分野を限定しない.未踏性が高く,2,3年内には実用化が可能なものを対象とする.ただし未踏性が同じレベルとPMが判断した場合には,以下の分野のものを上から順番に優先する.
  ・ プログラミング言語: 新しいプログラミング言語,言語処理系実装技術,プログラム変換,プログラミングツール,ビジュアルプログラミング,プログラム自動生成,制約解消系など
  ・ 芸術や娯楽を支援するソフトウェア: 音楽,文学,絵画などの作成,鑑賞を支援するソフトウェア,ゲーム作成を支援するソフトウェアなど
  ・ 数理科学の研究・教育を支援するソフトウェア: 数学,計算機科学,物理学などの数理科学の研究や教育を支援するもの.例えば,数式処理系,証明支援系,対話的学習システムなど.
  ・ ユーザインタフェース: Web,例によるプログラミング,実世界指向などで実用的なもの.
  ・ その他.

 また,審査の基準を以下のように置いた.

  ・ 開発成果が与える効果: 既存ソフトウェアに対してコスト面,性能面で圧倒的に凌駕する.あるいはこれまでよりも 広い範囲に適用できるようになる.
  ・ オリジナリティー: アイデアの斬新さがある.
  ・ ソフトウェアの完成度: 新しい技術の実験ではなく,使えるソフトウェアの完成を目指していること.

 この結果63件の応募があり,6次に渡る書類審査と書類審査合格プロジェクトに対する面接審査を行って,5件を採択した.
 審査においては,隠れた人材の発掘を最も重視した.研究の片手間でソフトウェアを作るようなもの,開発内容に対して開発メンバーの数が多すぎるものは,ソフトウェアの完成度を高くすることが出来ない可能性が高く,人材発掘的意味あいも薄いので,書類審査の時点で落とした.面接審査に至ったプロジェクトは,未踏性あるいは新規性が高いか,実用性あるいは社会への影響が大きいと思われるもののいずれかである.
 坂本さんの「彩られた空間 -新しい情報の景色-」は,昨年度の「共感する部屋」の続きであるが,昨年度がハードウェアの開発にほとんど終始してしまったために,未だにアイデアの奇抜さ,面白さ,斬新さを評価でき,未踏性が極めて高いと判断した.それ以上に,まだ全然磨かれていない彼の才能を開花させたいという気持ちも強く,昨年度の失敗から,昨年度以上にPMが関与するプロジェクトと位置付けた.
 大谷さんの「 Lamp:教育的かつ実用性のあるゲームミドルウェア」は,昨年度の開発内容ですでに未踏性はそんなに高くないものになっていたが,その実用性には非常に期待するものが大きく,継続してソフトウェアを完成させることが人材発掘に当たると考えて採択した.ソフトウェアを実用に供するためにはゲーム開発の教科書が必要であり,PMが教科書の執筆を採択の条件として加えたが,はからずしも教科書が本年度のプロジェクトでの未踏性の高いものとなった.
 吉川さんの「自動作詞システムの開発」は,テーマの未踏性が非常に高いものであるので採択した.面接段階でデータベースや自然言語処理などの技術を開発者達が持っていることはわかったものの,それ以上の何か飛んでいる物がないと出来ないシステムであるが,吉川氏がシンガー・ソング・ライターでもあり,その感性にも期待した採択であった.採択段階で一番危険度の高いプロジェクトとして位置付け,開発後半にはPMが積極的に関与するつもりでいた.
 中原さんの「-動き出す実物大グラビアアイドル- Image Based Robot」は,技術的にはレベルの高さが要求されるが,提案内容だけでは未踏性が高いとも,実用性に優れているとも言えないものであった.中原氏が芸術系大学院の学生であるので,面接で芸術について話をしたときに,提案された物が芸術に使えないか質問し,舞台の一人劇で利用できる可能性があることがわかり,その実用性を考慮して採択と決定した.
 濱田さんの「ハードウェア自身を再構成する数値計算アクセラレータ用コンパイラの開発」は,提案時点から非常に未踏性の高いものであったが,短い開発期間で完成させることが出来るのかが懸念事項であった.しかし,面接でソフトウェアシミュレータがすでに出来ていることを知り,実現性もかなり高そうなことがわかったので,文句なく採択と決めた.



3.プロジェクト終了時の評価


 プロジェクトは全般的に順調に開発が終了した.一部には途中で開発の遅れや混迷状態が見られたものもあったが,それらのプロジェクトにはPMが積極的に関与し,問題の提示,考える視点の提供,技術的アドバイスを行い,最終的には当初の目標に近いレベルにまでに達した.
 採択時の評価に対して,期待以上の高い成果を出しているのが,大谷さんの「 Lamp:教育的かつ実用性のあるゲームミドルウェア」と濱田さんの「ハードウェア自身を再構成する数値計算アクセラレータ用コンパイラの開発」である.
 大谷さんの「Lamp:教育的かつ実用性のあるゲームミドルウェア」では,3Dゲーム開発初心者が3Dゲーム開発を比較的簡単に行うための必要な機能が開発され,ソースコード自体も勉強できるように非常にきれいに書かれている.さらにこのゲームミドルウェアの有効性を示すために,比較的簡単なゲームも開発が行われ,その有効性が実証されている.さらにゲーム開発の教科書も執筆し,その内容はまだマニュアル的ではあるものの,初心者が独自にゲーム開発を学べる体制を構築した.短い開発期間でこれだけのことをするのは素晴らしく,「スーパークリエータ」と認定するのにふさわしい.
 また,濱田さんの「ハードウェア自身を再構成する数値計算アクセラレータ用コンパイラの開発」では,FPGAのプログラミングを実際に比較的簡単に行えるシステムが完成した.開発期間の前半にFPGA用の数値計算ライブラリを当初計画よりかなり早く意欲的に開発し,11月末頃にはすでにFPGAのプログラミングが出来るようになっていた.特定領域への応用・実用はすでに可能となっており,高いレベルの成果が得られている.望むらくは,ハードウェアに関する知識がもっと少なくてもプログラミングが出来るようになって欲しい.
 開発途中で混迷状態に陥り,開発の遅れも発生したためにPMが積極的に関与して,最終的には当初の目標に近い成果を得られたのが,坂本さんの「彩られた空間 -新しい情報の景色-」と吉川さんの「自動作詞システムの開発」である.計画のレベルが元々高かったので,予定通りということは高いレベルの成果を出しているということになる.ただし,課題がいくつも明らかになったので,今回の経験を活かして完成度をさらに高めて欲しいと思う.
 中原さんの「-動き出す実物大グラビアアイドル- Image Based Robot」は,期待したハードウェアを手に入れることができなかったり,予想外の運台制御のトラブルに見舞われたりして,開発の立ち上げ段階で結構遅れが発生した.これが最後まで影響したのか,中原氏がハードウェアの制御だけで満足してしまい,提案の本質であるシステムの有効性を示す作品を,PMが満足できる出来るレベルにまで仕上げることが出来なかったのが,非常に残念である.


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