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2004年度第1回未踏ソフトウェア創造事業  採択案件評価書


 



1.担当PM


  伊知地 宏 (ラムダ数学教育研究所 代表)



2.採択者氏名


 代表者

坂本 大介(公立はこだて未来大学大学院 システム情報科学研究科)

共同開発者

なし



3.プロジェクト管理組織


  株式会社エスイーシー



4.委託金支払額


  3,408,280



5.テーマ名


  彩られた空間 - 新しい情報の景色 -



6.関連Webサイト


 http://mochiino.jp/



7.テーマ概要


 
本プロジェクトは,昨年度の「共感する部屋」の後継にあたるものである.「共感する部屋」では,センシングデバイスによって得られた環境情報 (温度,湿度,光量,人の動き,音) を芸術的な抽象画として可視化し,写真立てのようなディスプレイに表示するシステムの開発が目標であった.ハードウェアは出来上がったものの,抽象画を生成するソフトウェアなどはお粗末であり,芸術と呼べるようなレベルには至らなかった.本プロジェクトでは,人との直接的なインタラクションも取り入れて,空間情報という絵の具と,プログラミングという筆を用いて,様々なデバイスという紙の上に芸術的な抽象画を描けるようになることを目標とした.
 本年度は,空間情報を芸術的な抽象画に変換するための枠組みとそれを扱うための環境を中心に開発が行われ,環境情報の抽象画としての表示だけでなく,人が抽象画と対話して絵を作り直すことも可能となった.この開発において本当に中心となるのは技術ではなく「芸術する心」であり,開発者には数多くの優れた絵画を鑑賞してもらい,開発者の心に芽生えた芸術的な絵をモチーフにしてソフトウェアの実装をしてもらい,あわせて本システムを使ったいくつもの作品も作成してもらった.



8.採択理由


 昨年度の「共感する部屋」の継続である.部屋に設置したセンサーから情報を得て,それを絵として表現するというプロジェクトであり,これまでに類を見ない開発内容である.昨年度はセンサーで得た情報を模様として表現することまでは出来たが,大学の卒業論文の研究や作成のために,卒業論文と全く関係のない未踏ソフトウェアの開発にはどうしても開発時間が少なくなり,センサーとセンサーから情報を得るソフトウェアの開発に多くの時間がさかれ,本テーマの本質である情報の芸術的な表現までには至らなかった.昨年度のレベルでも一人住まいのお年寄りの状況を知るなどの,プライバシーの侵害をしないで状況を知るということには使えるが,それだけではソフトウェアの面白さは少ない.これまでのコンピュータのあり方を変える可能性のある面白いものだけに,やはりインタラクティブアートであるとかゲーム性のあるものとかへの幅広い応用が出来るレベルにまでなることを望みたい.そこで本年度は,得たデータの芸術的な表現という一番新規性のあるところだけに特化し,そのためのソフトウェアを実用レベルにまで完成させることを条件に採択する.



9.開発目標


 (1) 抽象画生成システム
 空間内の情報をセンシングデバイスで取得し,その情報を芸術的な抽象画に変換するシステムと,抽象画を容易に制作することができる環境の開発を行う.

 (2) 抽象画との対話環境
 センサ情報を変換した抽象画に対して,人が直接対話的操作をして抽象画の作成を可能とするソフトウェアの開発を行う.この目標は開発開始後にPMが指示して明確にした目標である.



10.進捗概要


 開発途中ではかなりの混乱や迷走もあったが,最終的には概ね予定通りの開発が行われた.

 (1) 抽象画生成システム
 センサ情報の取得・処理するなどのハードウェアに近いことに関しては極めて順調に開発が進んだ.しかし,芸術的な抽象画を生成するという芸術性を要するソフトウェアの開発においてはかなり遅延も発生し苦労した.坂本さんは芸術的な壁に当たると,すぐに工学の世界に逃げてしまい,センサ処理の開発に走ることが大きな原因だったようである.

 (2) 抽象画との対話環境
 対話環境はセンサ情報処理の一部とも見られるものであったので比較的順調に開発が進められた.



11.成果


 (1) activeCanvas
 本年度の成果として,抽象画を描画するためのメカニズムを作ったことが挙げられる.昨年度開発したセンサ情報処理メカニズムに改良を加え,さらに抽象画の描画メカニズムは Macromedia Flash をプラグインとして実現した activeCanvas を開発した.センサ処理と描画処理を切り離し,描画に関係することを Flash だけで行えるようにしたことでシステムの柔軟性が増し,抽象画作成を Flash だけで行えるようになった.activeCanvasはセンササーバへの接続の管理と、抽象画を描画するためのプラグインの管理を行う。

 (2) activeCanvas の抽象画生成システム
 プラグインは全て Macromedia Flash (swf) ファイルであり,プラグインの開発はMacromedia Flash上で行う必要がある.しかし,activeCanvasではすべてのswfファイルが実行可能であるわけではなく条件を満たした1つだけが実行可能となる.
 描画のためにどのプラグインを選択するのかは,次ページにあるようなユーザインタフェースを用いて行う.開発されたプラグインのプログラムによってセンサ情報を処理して,プラグインの絵を素材として抽象画の描画が実行される.芸術的な絵になるかどうかは,プラグインのプログラムによって決まると言える.

 

 (3) activeCanvas の対話機能
 activeCanvasではセンサ情報を変換した絵とユーザが対話することができる.具体的には絵が表示されたディスプレイをクリックすることで対話を行える.ディスプレイにはタッチパネルが付いていることを想定しており,対話に関する記録はセンサ情報とともに保存される.この対話に関する情報は再度同じようなセンサ情報がセンササーバから得られた場合に再生される.ユーザが絵との対話を繰り返すことにより,ある空間で同じようなセンサ情報が得られると,絵が自然にユーザの趣向を従うことを意味する.ここではユーザは絵に触る行為しか行っていない.しかし,これは絵というアート作品をユーザ自身で無意識かつ自然に再構築することを意味する.

 (4) activeCanvas で作成した作品
 坂本さんが activeCanvas を使って作成した作品の一部である.

 

Trunk of trees

The spring wind

 

Flowers on the lake

 

 (5) 額縁型ディスプレイ
 上記のような抽象画が表示されるデバイスは,壁掛型の以下のようなものである.


額縁型ディスプレイ




12.プロジェクト評価


 10月中旬に行ったミーティングでかなり強烈なアドバイスを与えるまでは迷走を繰り返し,一体どうなることかと思ったが,それ以後から徐々に方向性が明確になり,12月頃には芸術とは何かもおぼろげに分かってきたようである.この結果,スーパークリエータ級の凄く良いものが出来たとは言えないものの,かなり面白いシステムが出来上がったことは評価できる.

 ・未踏性: A
  芸術そして感性の領域に踏み込むあまり類のない怪しげなソフトウェアであることを評価する.
 ・先進性: A-
  割りと芸術的な作品を作成できるようになってきたことを評価する.
 ・実用性: B
  このシステムのユーザが明確には見えない.坂本さん自体がユーザのはずであるが,作り手としての要求は見えるもののユーザとしての要求がはっきりとは見えない.
 ・社会への影響: A-
  絵を描くシステムは増えてきたが,その中でも環境を扱う特異な領域に位置するシステムであり,この先の時代で社会へ与える影響は大きいと思う.
 (A: 高い,B: 並,C: 低い)



13.今後の課題


 基本的な技術は出来たので,自分自身で十分に遊んでみて,芸術という観点から何が不足しているのかを徹底的に追求することが望まれる.そこで何が不足しているのかが分かったら,改良を加えていくと非常に良いシステムになると思う.
 自分自身の遊び道具という位置付けならば上で指摘したことを行うだけでも良いが,広く世の中に使ってもらうためには,芸術家や芸術系大学の学生にも使ってもらって意見をもらい,その意見を反映させて行くことも重要だろう.
 現在のシステムに不足しているものは技術でなく,芸術的センスであることを理解することも重要である.本システムを良くするためには,坂本さんの芸術的センスを磨くことも必要であろう.
 芸術家育成ゲームに発展させることも面白いことだろう. 


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