IPA


開発成果一覧へ





2004年度第1回未踏ソフトウェア創造事業 成果評価報告書(プロジェクト全体について)



 プロジェクトマネジャー: 長尾 確 (名古屋大学 情報メディア教育センター 教授)



1.プロジェクト全体の概要


 プロジェクト全体として、人間を楽にする(考える能力を減退させる)技術ではなく、人間を賢くする(考えることを支援する)技術の実現を目指した。これまで人間がやっていた仕事を無闇に自動化しても、仕事の質が下がり、必ずしも人々の生活の向上には結び付かないため、「人間の知的好奇心と知的活動への参加意欲」を増幅して「自分が賢くなれると同時に他人も賢くできる」あるいは「コミュニティや社会の知的生産性を高める」技術に関するプロジェクトを採択した。
 具体的には、Webコンテンツにコメント等のメタ情報をつけて共有する仕組み、このようなメタ情報をさらに構造化する仕組み、オンラインの個人情報から抽出される人同士の関係を用いてコンテンツの信頼性を計算する仕組み、さらに、最も一般的な共同作業である会議を活性化する仕組みの提案と実現を行った。
 各プロジェクトでは、システムを試作し実運用可能な状態にすることに成功している。ただし、世の中に大きなインパクトを与えるには今一歩という段階である。これは、ほぼ同様の機能を持つシステムがこれまでにまったく存在しなかったわけではないからである。つまり、発想の点で新規なのではなく、既存の仕組みに新たな視点と改良を加えたという性質のものなのである。しかし、今後、より明確なオリジナリティを持つものに発展するポテンシャルを持っていると判断できる。それはただ改良を加えるだけでなく既存のシステム(Webコンテンツへのアノテーションシステムやグループウェアなど)のどこに本質的な意義や問題があるかを十分に視野に入れてプロジェクトを遂行していたからである。



2.プロジェクト採択時の評価(全体)


 プロジェクトを採択するにあたって、提案しているシステムに実現するべき本質的な意義があるかどうかを最も重要な基準とした。ただ、あったら便利だからとか面白いからとか、自分が使いたいからとかいう理由の提案は不採択とした。なぜなら、それは提案者の独りよがりである場合が多いからである。それよりも、社会的な動向や(将来の)ニーズに合致すると筆者が判断する提案を優先した。アーティスティックなセンスで見た目が派手な割に本質的な内容をあまり持たないようなシステムは、研究の世界ではあきれるほど多い。そのようなものに国の予算を投入するのは明らかに間違いである。今回筆者が採択したプロジェクトはそのようなものではない。たとえば、伊藤プロジェクトと坂本プロジェクトが異なる視点で提案した、Webコンテンツに新たな価値を与えるアノテーション技術は、氾濫するWebコンテンツから閲覧者の要求に適合する内容を持つものを選択し、有効に活用するために必要な本質的技術である。これは、明らかに社会的なニーズと合致し、将来性のあるものである。また、沼プロジェクトの提案した、人間関係に基づいて、コミュニティにおける情報の信頼性を評価する仕組みは、結局のところ情報の信頼性や重要性というものが情報発信者(あるいは紹介者)と自分との関係に基づいて決定される相対的なものであるということを積極的にシステムに取り入れたものであり、これも本質的に意義のあるものであると考えられる。また、中嶋らによる、会議を効率よく進行し、さらに議事内容を電子的に再利用可能にするという提案は、やはり本質的な意義があると判断した。これは、やはりどんな集団であっても単独で意思決定をするのはまずい場合が多く、だからといって話し合いに時間をかけて決定を遅らせるのは損失になりかねないので、効率よくグループの意見をまとめて行動に移せなければならず、これに関して情報技術が有効なのはおそらく間違いがないからである。ただし、このような試みはこれまでに何度も行われてきたにもかかわらず未だに紙や電話を使った前時代的な会議が一般的なのは、これまでの会議ツールは何か本質的な機能が欠けていたのであろう。その欠けている点を補おうとするプロジェクトを採択するのは当然の判断である。



3.プロジェクト終了時の評価


 伊藤プロジェクトのアノテーションの入出力および流通プラットフォームを構築するという試みはほぼ達成された。今後は、ライブラリの公開やシステムの実運用によってその成果を確実なものにできるだろう。坂本プロジェクトで開発されたアノテーション付与インタフェースは、コンテンツ配布者が設置するWeblog等の CMS (Content Management System)のプラグインタイプであり、Web閲覧者に特別なソフトのインストールを強要せず、誰でも手軽にアノテーションを入力できる環境となっている。また、アノテーションを蓄積・管理するためのサーバーも実装されている。後は、アノテーションを検索・要約等の情報サービスに再利用するための仕組みが必要であるが、これは完成していない。沼プロジェクトは、Weblog等のWebコンテンツ管理システムが生成するサイトの更新情報等を含むRSS (RDF Site Summary)の収集・閲覧ツール(RSSリーダー)をベースとして、SNS (Social Networking Service)で用いられるFOAF (Friend-Of-A-Friend)と呼ばれる友人関係を記述するメタデータフォーマットを収集・閲覧するツールを開発した。これによって、人同士の直感的な信頼関係を知ることができるようになった。ただし、このような仕組みを用いて信頼度を算出する一般的なメカニズムは実現されていない。中嶋プロジェクトは、効率のよい会議をするためのノウハウをシステム化したeXtreme Meeting (XM) というコンセプトを提唱し、その支援ツールGalapagosを開発した。これは、リッチクライアントとWeb上のサーバーシステムから成る。試験運用が可能な状態になっているが、大規模な実証実験は未だ行われていない。
 以上のように、各プロジェクト共に当初の目標を完全に達成したとは言い難いが、9ヶ月間という極めて短期間の間に、比較的よく健闘したと考えてよいと思われる。
 本当の意味でのプロジェクトの評価は筆者が行うものではなく、広く世の中にそれらがもたらしたものの価値を問うべきものだろう。そのために、製品化あるいは無償公開(もちろんその後の展開を考慮した上で)をできるだけ早い時期に行い、一般の人の手の届くものにするべく努力を続けてもらう所存である。
 その意味で、筆者のやるべき仕事はまだ完了していない。


ページトップへ






Copyright(c) Information-technology Promotion Agency, Japan. All rights reserved 2004