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平成15年度未踏ソフトウェア創造事業(未踏ユース)  採択案件評価書


 




1.採択者氏名


代表者

岡 浩司(函館工業高等専門学校)

共同開発者

大宮健太(函館工業高等専門学校)
野田陽子(函館工業高等専門学校)



2.担当プロジェクト管理組織


 日本ユニシス・エクセリューションズ(株)



3.委託支払金額


 2,989,646円



4.テーマ名


 空想大陸創造計画



.関連Webサイトへのリンク


 なし



6.テーマ概要


 自分の頭の中にしかない想像だけの大陸や,映画やマンガで見た実在しない世界など,地球上では見ることのできない大陸は確かに存在する.その大陸に仮想的にでも行くことができて,探索することができる,そんなソフトウェアがあったら面白いのではないだろうか.

 本プロジェクト「空想大陸創造計画」では,あれこれ考えていた大陸を創り,新しい大陸の未来を見ることが出来るソフトウェアを開発する.「空想」とは「現実にはありそうにもないことを,あれこれ頭の中で考えること」を指すことから,「仮想」ではなく「空想」という言葉をあえて用いた.

 大陸を作るだけのソフトウェアなら,3D景観描画ソフト「Terragen」や「カシミール 3D」などが有名である.それ以外にも景観描画ソフトは存在する.しかし,景観描画ソフトだけでは,大陸の外形だけは作ることができても,大陸上においての植物の進化形,いわゆる大陸の未来に行くことができない.未来の大陸に足を踏み入れることができて,見たことのない風景や,地球には存在しない植物などに出会うことができる.そんなことができたら,さらに面白い.

 何もなかったところに大陸が出来る.その大陸に風が吹き,日が射してくる.空想植物の胞子がその風に乗り,大陸上の各地に分布し,進化を遂げていく.空想植物は形態を変えていき,最初出来た大陸とは違った,新しい大陸が形成されていく.その一連の動きを,リアルタイムで見ることができるようなソフトウェアを開発したら,景観描画ソフトウェアとは一味違う,新しいソフトウェアとなるであろう.

 大陸の形状は3次元フラクタルを用いて描き,空想植物は3次元フラクタルと遺伝的アルゴリズム (GA) の組み合わせにより,さらに成長・進化の過程も描く.大陸の気象変化によって,空想植物が分布・進化する流れをリアルタイムでシミュレートするソフトウェアを開発する.



7.採択理由


 今回の採択プロジェクトの中では最もすっ飛んでいた.奇想天外好みのPMの趣味に合致はしているのだが,それだけにいろいろ注文つけたくなるぞと,つい言いたくなる.背後にはそれなりに科学的なものがあるにせよ,いろいろな意味で現実をすっと飛ばしているので (ここが潔い),あとはこれをどう面白く見せるかというクリエータ的なチャレンジを期待する.この点ではまだまだアイデアを出す必要が感じられた.これで本当に「創発」っぽいことが起これば最高.なお,これをたくさんの人が楽しめるようにする手段についても意を注いでほしい.うまくいけば売れるゲームになるかもしれない.


 

 
8.成果概要(中間報告時)
 

 
 空想大陸に関する下記の個別機能の開発を行なった.

(1) 大陸形状を生成する機能 ―― 大陸と自然な形状になるようなアルゴリズムを工夫した.
(2) 大陸の気象環境をシミュレーションする機能 ―― 風についてはかなり本格的な流体シミュレーションを援用した.
(3) 大陸に生育する空想植物の形状を生成する機能 ―― フラクタルを利用した.
(4) 空想植物の植物図鑑モジュール (一部)
(5) 大陸形状の表示機能
(6) 空想植物の表示機能
(7) 植物進化モジュール (一部)

 岡 図1は,11月13〜14に函館市にて一般向けに発表したポスタであり,全体の概要がよく示されている.

 

 
9.PMコメント(中間報告時)
 

 
 採択理由にも述べたように,採択プロジェクトの中では最もすっ飛んでいたが,本人たち (3人) はいかにも真面目な学生で,実際に話をしてみてちょっとその差に驚いた.PMとしてはせっかくこういう企画を立てたなら,いろいろな意味でもう少しやり方に前衛的なところがあってもよかったと思う.学術的なところと,空想的なところが妙にチグハグに噛み合っている印象もある.

 以下に,10月18日の訪問のあとに彼らに送ったメールを整理したものを示す.これは中間報告時(11月末時点)でも彼らへのメッセージとして生きているが,いくつかの部分は上に示した図に反映されている.

* * * * * * *

 作り上げるシステムの利用イメージ (対象ユーザ) をもう少しはっきりさせておいてください.それが実際にそうなるというより,そうしたいというイメージを明確にするので結構です.

 このまま進むと,どこにポイントのあるかよくわからない,つかみどころのないシステムになってしまう恐れがあります.3人の開発テーマが有機的に結合できるようにするためにも必須です.たとえば,現場でコメントしたように,流体のシミュレーションが0.01秒刻みで,植物のライフサイクルが1〜2ヵ月で,さらに世代にわたる進化を扱うというのでは,一つのシステムに組み上げるにしては,部分システム相互間での時間のスケールがあまりにも違いすぎます.これに関しては,若干の補足があります --- 胞子が飛ぶとき (季節?) だけはある程度シミュレーションクロックの粒度を上げるというのはもちろんあり得ます.

 現場で私が適当に口から出任せで言った3つの利用イメージ

(1) 子供のための理科教育教材
(2) (たとえば) 生態系を発展させることを競うゲーム
(3) 生態系・進化の研究ツール

のうち (このほかにもあるかもしれません),理科教育教材にするのなら,温度の導入は必須ですね.(2)にするなら仮想世界のゲームななので不要です.(3)の研究ツールにするというのなら,構造をオープンにして,誰でも機能追加できるようなソフトウェアにし,しっかりしたドキュメントをつくらないといけません.プロトタイプ程度にするにしても,現状ではかなり辛いような気がします (「仮想」なので,人工生命とか人工生態(?)のジャンルならなんとかなるのかな?).

 あと,何度も繰り返しましたが,せっかくちゃんとした定式化に基づいてプログラムを作っているのに,範囲の外に飛び出してしまった胞子を,「ウルトラスペシャルゴッドルール」で適当な場所に戻してしまうのだけは止めたほうがいいですね (かろうじて上の(2)では許されるかもしれないけれど).対策は,対象世界をトーラスのような閉空間にすること,あるいは (これは現場で言いませんでしたが) 範囲からはみ出してしまった胞子は消えてしまう (海洋の中に没してしまう) という扱いにすることのどちらかでしょう.このあたりも,利用イメージと併せてよく考えてください.

* * * * * * *

 11月中旬のポスターでは利用イメージとして教育支援ツールが前面に打ち出されているが,そうするなら,いろいろなところでそのためのチューニングが必要であろう.

 しかし,なにしろみんな若いので,これからでも短期間にすっと伸びる可能性がある.それに期待したい.


岡 図1 全体概要図(ポスタ)

 

岡 図1 全体概要図(11/13,14に函館市にて一般向けに発表したポスタ)



10.成果概要(終了時)


 このシステムの名称はCYCLOWI (サイクロイ, CYbernetics Continent Learning in Organized World Interaction) と決定した.

 前期の成果を受け, CYCLOWIのシステム統合に向けて開発を進めた. 中間報告が簡略なので, ここでは前期の成果も含めて少し詳しく紹介する.

(1) 大陸形状の生成と表示

 中点変位法により大陸形状を生成し, OpenGLによりモデリングすることで, 大陸形状の表示を行う. モデリングした結果を大陸地図としてビットマップ形式で保存しておき, 空想植物の分布地図に用いた. 生成された高さデータは大陸形状に応じた大気の流れの計算に用いられる.

 岡 図2〜4に生成例を示す.

 

生成例図

   岡 図2 デフォルト大陸
  図3 図1の立体図
図4 黄金大陸

(2) 大陸の気象シミュレーション

 植物の分布に必要な大気の流れと降水を生成する. 大気の流れについては, 大陸地形に応じた大局的な大気の流れを数値流体力学を用いて事前に解析し, ファイルに保存しておく. 解析結果を8方向分用意し, 3CYCLOWI日 (CYCLOWIの日の単位) 毎に読みこみ直して, 3CYCLOWI日ごとに大局的な大気の流れの方向を変化させる. また, 植物形状による異なる飛散をシミュレートするためにRosslerモデルによる近似を各飛散個体に対して行なっている.

(3) 空想植物形状の生成と表示

 生成部においては, 空想植物の生育環境を通じて形態情報の更新を行なう. 表示部においては, 植物の形態情報のパラメータ (Variety, Slender, sQuare, Circular) と複雑さ (反復回数) を用いてフラクタルアルゴリズムに基づく計算を行ない, レイトレーシング法を用いたビットマップデータとして描画する. また, 形態情報内の色情報のRGB値により着色する.

 CYCLOWIのユーザは, 植物図鑑機能の中の空想植物工房機能により, 各種パラメータ指示による空想植物の生成・表示確認, および任意の2空想植物の交配結果の形状の生成・確認, 植物図鑑への登録を行なうことが可能である.

 岡 図5に生成・表示した空想植物の例を示す.

空想植物形状例図

岡 図5 空想植物形状例

 

(4) 植物図鑑モジュール

 植物図鑑は, 生育シミュレーションで生成された空想植物を登録し, 形状や遺伝情報等を表示する. 図鑑ウィンドウは空想植物の形態に関する情報を表示し, 大陸に分布させる空想植物を選択・指示するための操作画面である. この画面では, 登録済み植物の検索および形状や属性の表示に加え, 図鑑データ全体の保存機能と再開機能を持ち, ユーザ独自の図鑑を作成, 保存, 再開することが可能である.

 空想植物工房ウィンドウは, 新たな空想植物を生み出すための操作画面である. ユーザは, 既存の空想植物を元に自由に形態パラメータを設定し, 形状を確認したり, 興味ある形状を新たに植物図鑑に登録することが出来る. さらに, 異なる2つの空想植物の交配結果の4パターン形状を表示確認したあと, 面白いと思われる植物を選択し, 図鑑に保存することも可能である. これらは大陸に新種の植物として分布させることができる.

(5) 空想植物の進化シミュレーション

 気象条件をパラメータとする空想植物の分布・成長・進化を実現する. 大陸形状や空想植物の形態パラメータによる分布の変化, 環境への適応, 種の多様性などの創発を目指す.

(6) シミュレーション全体制御機能

 成長を管理する部分, 分布を管理する部分, 形状表示機能など, それぞれ別々のサブモジュールを全体制御することにより, 1つの有機的なアプリケーションCYCLOWIとして統合した. 岡 図6は, 進化シミュレーションの対象となる大陸空間イメージを表示し, CCYCLOWIのメイン操作を行なう画面である.

 大陸地図は, 論理座標系で5000×5000×2000の大きさを持つ. 気象条件や土壌情報等の環境情報は50×50×20の三次元格子上の区切り毎に設定されている. 空想植物の大きさは1×1×1空間に分布される. 本画面操作により,

 ・シミュレーションの開始, 経過日の指定による中断
 ・シミュレーションの時間経過に伴う, 植物の盛衰状態の表示

などが可能である.

CYCLOWIメイン画面画像

岡 図6 CYCLOWIメイン画面

 また, 画面中の植物位置での右クリック指示により, 岡 図7の個体情報表示画面を表示させ, 指示された空想植物の形状や, 遺伝情報を詳細に確認することができる. このほかにメイン画面のファイル機能として, ファイル保存・再開の機能がある.

個体情報表示部画像

岡 図7 個体情報表示部



11.PM評価とコメント(終了時)


 最初のうちは3人の開発者の開発モジュール間で時間粒度が違っていたりとか, 設定にいろいろな無理が見えたりして, 本当に統合できるのかどうか心配だったが, 後期に入ったあたりから, システム統合の道筋がはっきり見え出してきたようだ. 最終的には, 一体感のあるちゃんとシステムに仕上った. 岡君のプロジェクトに2回現場訪問した甲斐があった. 当初の予想をはるかに越えた出来栄えである. プレゼンも聴くたびにクリアになってきた. これが若さの効果だろう.

 彼らの指導教官である石若先生も同時に未踏本ちゃんでプロジェクトを遂行していた方だが, こういう進取の精神に満ちた指導教官に恵まれたのも幸いだったと思う. 訪れたとき, 実に明るい創造的な雰囲気に溢れた研究室であることを実感させられた.

 本人たちの狙いは子供向けということだが, 実はこれは大人のゲームにもなりそうだ. 空想大陸上の空想植物という仮想の生態系の世界を創作し, ほとんど予想できない空想植物の形態, および, 生育分布状態のシミュレーションを行なえる. 彼らが主張するように, 開発機能のなかでも,

 ・さまざまなパラメータによる, 多様な空想植物の形状の生成と表示
 ・空想植物の初期配置や, 途中の人為的分布による生育分布の変化

はそれぞれの部分機能だけでも, 十分楽しめる. 特に後者の機能により, 疑似自然界の生態系の一連の時間経緯の中で, 第三の植物を人為的に投入分布させることにより, たとえば, 「花摘み現象」 (野生の花を人為的または偶発的に摘んだことによる生育圏への影響) や, いわゆる「川魚生態圏でのブラックバス現象」など, 生態系全体への影響を仮想世界で見ることができる. これを利用すると, 誰のつくった植物が一番繁殖するかを競うかなりシュールなゲームにもなる. 「信長の野望」生態学版といったところだろうか.

 上の成果概要を見ても推測できるように, このシステムは内部にかなり複雑な論理や数理を織り込んでいる. 機能それぞれを単体で見てもなかなかなものだ. ここまでできると, 日照は? 温度は? とか, ないものねだりをしたくなる. また, 細かいこというとまだまだヒヨッコのところもある感じだが, 共同開発者の大宮君ははこだて未来大学でこれをこれを続けるつもりらしい. だからもっとリファインされる可能性もある. あそこもそういうことを後押ししてくれる良い環境だから, ぜひ頑張ってほしい.

 いずれにせよ, CYCLOWIをこのままにしておかないで, みんなに使ってもらえるにするとよい. そういった人たちの中で改良を手伝ってくれる人も出てきそうだ.

★★ 準スーパークリエータ: 3人まとめての称号.PMをずーっと不安にさせながら,最後にきちんとシステム統合を果たした腕前は立派.もっと発想が柔軟になるとさらに面白いことができる.




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