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平成15年度未踏ソフトウェア創造事業(未踏ユース)  採択案件評価書


 




1.採択者氏名


代表者

釘井 睦和(同志社大学大学院)

共同開発者

谷口 義樹(同志社大学大学院)



2.担当プロジェクト管理組織


 三菱マテリアル(株)



3.委託支払金額


 2,983,000円



4.テーマ名


 携帯端末を用いたユビキタス/グリッド環境の協調的モニタリングシステム



.関連Webサイトへのリンク


 http://ibp.doshisha.ac.jp:8080/ihorb/monitorring.html



6.テーマ概要


 近年,高速な計算機やネットワークの普及に伴い,広域ネットワークに接続されたあらゆる計算資源および情報資源 (サイト) を統合し,ユーザが手軽に利用できるような環境を目指すグリッド技術が注目されている.グリッド技術によって,ユーザはどのサイトを利用するかを一切考慮せずにそれらが提供するサービスを享受することが可能になると期待されている.しかしながら,グリッド上のサイトは広域に分散しており,ユーザのタスクは通常複数のサイトをまたがって処理されることから,一部のサイトにシステムダウン等の問題があった場合にタスクの処理が中断される可能性がある.そのため,サイトの管理者は不特定多数のユーザに対する責任を負うことになり,管理コストは増大すると思われる.すでに計算資源のモニタリングツールはいくつか存在するが,これらはすべてサイトの管理者が使用するためのものであり,常時モニタリングを行なうには管理者の負担が欠かせない.

 多数のユーザが協調的にモニタリングを行なえば,実質的にはほぼ24時間体制のモニタリングが実現できると思われる.本プロジェクトではユーザがいつでもサイトの状況をチェックできるように携帯端末を用いたシステムを提案する.携帯端末クライアントは得られる情報を解析し,視覚化してユーザに提供する.表示するノード数は必要に応じてスケーリングを行なうことが可能である.ユーザは自身が発行したタスクが処理されているサイトを中心としたネットワーク網をモニタリングすることができる.多くのユーザが異なったネットワーク網をモニタリングすることで,結果としてネットワークに大きな負荷をかけることなくグリッド環境を「環視 (協調的モニタリング) 」することが可能になる.


7.採択理由


 この提案には2つのポイントがある.グリッド環境の協調的モニタリングを行なう点と,それを携帯端末で行なうという点である.前者のモニタリングを監視ではなく「環視」と呼んだところは秀逸.言葉がいいと概念もよく見える.グリッドに関わる人からは歓迎されそうだ.

 ただし,それを携帯端末で行なうことに限定している風のところに,ちょっと疑問を感じる.「環視」は,グリッドユーザであれば,PCでも十分なのではないだろうか.携帯でも限定的であれ,できればなお嬉しいというものだろう.どの道,最初はPCで実装を始めるのだろうから,そのあたりもプロジェクトの正規の成果として打ち出すのはどうだろう (それとも,それはすでに実装済み?).

 

 
8.成果概要(中間報告時)
 

 
 以下のことを行なった.

(1) 協調的モニタリングモデルの設計

 本システムは,動的な階層構造を構成するP2PフレームワークであるDNAS (Distributed Network Application System,開発者が所属する研究室で開発中) とユーザ端末上で動作する環視ソフトウェアにより構成する.DNAS並びに環視ソフトウェアの詳細な設計・開発に先立ち,協調的モニタリングモデルの設計を行なった.

(2) DNASのアルゴリズム設計

 DNASでは,各ノードが再構成可能な論理的なツリー構造 (釘井 図1) を形成する.このDNASをグリッド環境に適用するためのアルゴリズム設計を行なうとともに環視ソフトウェアのインターフェースを設計した.

DNASで構築されるネットワーク網図

釘井 図1 DNASで構築されるネットワーク網

 

(3) 環視ソフトウェアの開発

 ユーザ端末 (PCとPDAに対応) 上で動作する環視ソフトウェアを開発中である.PC版の表示例を釘井 図2に示す.

 中間報告時(11月末時点),グリッドの状況をノード (グリッドを構成するマシン) 毎に確認する機能並びに異常が発生している場合に,当該サイトの管理者に電子メールで通知する機能を実現できている.

環視ソフトウェア(PC版)の表示例図

釘井 図2 環視ソフトウェア(PC版)の表示例

 

ノードから収集している主要データ表

 

釘井 表1 ノードから収集している主要データ

 

(4) DNASを用いたテスト環境の構築と機能テスト

 DNASを用いたテスト環境を構築し,中間報告時(11月末時点),環視ソフトウェアの機能テストを順次実行している.

 

 
9.PMコメント(中間報告時)
 

 
 「環視」はいい言葉だ.ぜひこれにうまく合致した英語訳もつくってほしい.この手の話は国際的にすぐ通用するものだからである.

 全般的に少々進行が遅れているような印象である.DNASとのつなぎのところは着々と進行しているが,肝心のGUIのほうの設計がまだちょっと怪しい.ここは,結構重要なところなので,よく考えて,想定ユーザの意見なども聞きながら,おお,これはうまいこと表示してますね,と言われるようなアイデアを出してほしい.PCやPDAでは画面にまだ余裕があるが,最終目標としている携帯の画面ではよほどの工夫が必要である.訪問した際に,PMからテキトーなアイデアを出したが,もっといいアイデアがあると思う.自然体でそれを生み出してほしい.とても面白い研究課題である.また,それと同根だが,携帯に拘ることの意味もクリアに説明できるようになるとよい.

 あと,重要なのは「環視」した結果をどうシステムの管理に反映させるか,その手順についてもしっかり考えてほしい.結局,人がなにかしないといけないわけなので,そのあたりの仕組み作り (どっちかというと社会学的だが) も疎かにしてはいけない.

 同志社大学のこれだけ豊かな研究環境なのだから,ぜひそれを活かしたよい発想の展開を期待したい.


10.成果概要(終了時)


 中間成果に加えて次のことを行なった.

(1) DNAS回りの整備

 DNAS ではその論理的ツリー構造に沿って,以下のようにモニタリング情報を伝達する.
・各ノードが下位ノードからモニタリング情報を受信
・受信した情報に自身の情報を付加して上位ノードに送信
 フラットな構造のシステムではマスターノードに負荷が集中するといった問題が生じるが,ツリー構造を採用してDNASを利用したシステムでは負荷が軽減された.

 なお,DNAS 再構成時に,物理的に接続していないノード同士が論理的に接続されてしまうといったトラブルを回避するため,運用上はネットワークセグメント毎にDNASを導入することとした.この場合のDNASセグメント間の情報伝達手段としてリレー機能を整備した.

(2) 環視ソフトウェアの開発

 まず,PC版環視ソフトウェアを開発した. 当初Swingクラスライブラリを利用して開発したが,PDA版への移植性の問題からAWTクラスライブラリに変更し,全面的な書き直しを行なった.

 次に,携帯端末版の開発を行なった.携帯端末版の動作概念を釘井 図3に示す.NTTドコモ社のiモード端末を対象とし,J2ME CLDC for Dojaライブラリを用いて開発を行なった.実際に,試してみると以下のような多くの制約に悩まされた.
・アプリケーションサイズ (505iシリーズでは30Kbyte)
・通信プロトコル (HTTPまたはHTTPSのみ)
・機種依存
・ネイティブアプリケーションとの連繋
 このうち,通信プロトコルについてはiHORBを利用することで,プロトコルを意識することなく通信を行なうことが可能となった.整備した環視ソフトウェアの表示例を釘井 図4に示す.

 

携帯端末版の環視ソフトウェアの動作の概念図

 

釘井 図3 携帯端末版の環視ソフトウェアの動作の概念図

携帯端末版の環視ソフトウェアの表示例図

 

釘井 図4 携帯端末版の環視ソフトウェアの表示例
― 小さな正方形がホストに対応している

 

(3) 環視ソフトウェアの改良

 ユーザテストの結果,今後の課題とする点は残されているものの,ある程度実用に耐えうるものができた.さらにユーザにもっと環視ソフトウェアに親しんでもらえるように,ゲーム機能を盛り込むこととした. 具体的には,Windowsでお馴染みの「マインスイーパ」を取り入れた.これは,環視ソフトウェアにおいてグリッドの概況を表示する格子配列をそのまま活用したものであり,釘井 図5に示すようなイメージとなっている.

 

ホストの表示画面をそのままマインスイーパにした図


釘井 図5 ホストの表示画面をそのままマインスイーパにした




11.PM評価とコメント(終了時)


 11月中旬の現場訪問のあと大化けしたプロジェクトの一つである.その時点では,携帯電話上でのGUIが貧弱で,これで本当にみんなが使ってくれるのかという不安があった.たとえば,ネットワークトポロジーと無関係な格子状の表現で役に立つのか?

 しかし,一応の完成を見たあと,ユーザに試用してもらい「動いていないプロセスが発見できた」,「(空いているので) 使える計算機がわかる」といった好評を得たという.しかし,指導教官の「いろいろ見れるのはいいが,これはあまり面白いものじゃない」という一言が釘井君たちに発破をかけたようだ.いまいち,面白くない「環視」画面をそのままゲームにしてしまい,ゲームと重ねて「環視」できるようにしてしまった.

 この発想はまことに自由奔放,卓抜な効果をもたらす.まさに「環視」というアプリケーションにピッタリ,まさに適材適所のカンフル剤だと思う.いまのところ「マインスイーパ」と,実際の計算機の状態との関連はないが,関連をもたせるようなゲームモードも用意すると,ますます「環視」に熱が入るユーザが出てくるかもしれない.一点突破全面展開をもたらす素晴らしいアイデアが潜んでいると思う.

 グリッドでは,多数のユーザにサービスを提供することとなり,その運用管理がより重要となるが,従来のシステムでは常時モニタリングを行なうには,管理者の負担が欠かせない.これに対し,環視ソフトウェアは,サイト管理者に加えて一般のユーザにもそのモニタリング機能を提供する.多数のユーザが協力することで,グリッド環境の運用管理体制の強化が期待できるわけである.特にゲーム仕立てを取り込んだ携帯端末に対応したことで,いつでもどこでも,手軽にモニタリング可能とした点が最大の特長である.

 なお,宿題にしてあった「環視」の英訳は,なんとひそかにWebアドレスに隠れていた「monitorring」である.なるほど.これもヒットだ.釘井君はバンドマンという.まさにそういう乗りでシステムを開発している.こういうのを見ると,すべてがうまく行ったように見えるから不思議だ.

 DNASの機能により,ダウンした計算機が「環視」から見えなくなる,携帯からジョブが投入できない,携帯から「環視」の結果を管理者に直接メールできないといった問題が残っているが,解決のメドはついているようである.むしろ,最大の問題は,このソフトをどのように世の中に広めるかだ.DNASの対になっているので,いろいろ越えないといけない山があるように思われる.このような面白い発想のソフトはぜひ早く広めてほしいものだ.

★★ 準スーパークリエータ: プロジェクト期間中に伸びた.その発想のノリの良さと柔軟さは大したものだ.





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