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平成15年度未踏ソフトウェア創造事業(未踏ユース)  採択案件評価書


 




1.採択者氏名


代表者

小林 正朋(東京大学大学院 情報理工学系研究科)

共同開発者

なし



2.担当プロジェクト管理組織


 リトルスタジオインク(株)



3.委託支払金額


 2,549,705円



4.テーマ名


 魚釣りメタファによる半受動情報検索インタフェースの提案



.関連Webサイトへのリンク


 なし



6.テーマ概要


 雑多な情報群の中から有用なものを獲得する手段としては,プル型の情報検索やプッシュ型の情報配信,エージェントによる間接的な情報収集などがある.しかし,それらは「情報を得る」という目的に特化した手法であり,探索のプロセスを楽しめるようにはできていない.

 そこで,情報を「魚」に,クエリを「餌」に見立てた視覚的で生物的な検索手法を提案する.「情報を探しにいく」のではなく,「情報が寄ってくる」というメタファである.個々の意志をもつ情報は空間中に分布し,その分布は刻一刻と変動する.これによって情報検索のプロセスを楽しめるだけでなく,情報とクエリの関連性を連続的な指標として視認することができるようになる.

 この手法の応用としては,ひらめきをサポートする「少しだけ気まぐれな」情報獲得システム,人工知性における生物的な学習機構のエミュレーションなどを想定している.

 提案者は学生であるが,この企画を大学における正規の研究活動として進行させる予定であり,指導教官の了解を得ている.



7.採択理由


 「魚釣り」という実に魅惑的なメタファを提唱していることだけで,PMがビーンと反応してしまった提案である.ただし,このアイデアをソフトウェアの形になるまで育てるのは並み大抵の困難さではないと思われる.超面白いが,超難しいのは確か.この提案はまさに「未踏」その一点でPMは賭けに出た.でも,情報検索を魚釣りのように楽しむ人は必ずいる/出てくる.それにどのような技術的裏付けを与えるか.うーん,難しいけれど,面白いと,同じことを何度も言いたくなるプロジェクトだ.ずっこけることを恐れないで挑戦してほしい.でも,なにかちゃんとつくってね.

 

 
8.成果概要(中間報告時)
 

  
 流動的かつ確率的な結果を返す情報検索システムを実現するため,個々の情報単位を人工生命的手法によって自律的に動作させることにした.一つの情報単位は情報本体と動作制御部からなり,n次元空間中に分布する.動作制御部は仮想的な物理量 (位置,速度,加速度) および餌・仲間に対する「好み」を表現するための機構を持つ.それぞれの情報は周囲とのインタラクションを通して好みの餌もしくは仲間を追跡し,嫌いな餌もしくは天敵から逃亡する (小林 図1).情報の分布状況および「好み」は,時間変化する.

 

 

情報の分布および動作 (追跡・逃亡)図

 

小林 図1 情報の分布および動作 (追跡・逃亡)

 

 本システムの最終目的は「余暇に癒しを,企画に閃きを」であるが,開発期間中には,提案手法による基本的なドキュメント検索システムおよびいくつかの付加的な機構の作成を目指す.

 この期間に,被検索集合として単純なデータ群を用いたプロトタイプIを作成した.Iによって,期待される結果の一部を確認した.また,後期においてIを一般化したシステムIIを作成する準備として,IIの基本部分を設計・作成した.

 プロトタイプIでは,単純な数値データ (ここではRGBベクトル) を被検索単位とした簡易システムを実装し,データの分布および移動の視覚化によって挙動を確認した (小林 図2).動作制御部の持つ各物理量およびその増加・減衰係数を実験的に変化させた.なお,任意の情報集合に適応できる最適値を決めることは困難である.

 また,「好み」の表現方式として2データ間の積に基づく単純な方式とニューラルネットワークを用いた簡易学習志向の方式を試験したが,データ集合全体の振る舞いには大きな違いが生じないことを確認した.

 システムIIの準備として,従来広く利用されているキーワードによるドキュメント検索に適用することを考えた.クエリは文字列,被検索データはWeb上あるいはローカルのHTMLドキュメントとする.

 まず,情報 (ドキュメント) の「好み」情報としてキーワード群を割り当てる.初期キーワードとして,<meta>によるキーワード指定,<hn>による見出し,<dl>または<dfn>による定義付け部分に基づいてキーワードを割り当てる.これらのキーワードは動的に変化する.

 システム全体は,情報集合と入出力インタフェース部,総合制御部,およびユーザからなる.ユーザは入出力インタフェース部を介してクエリを投入,結果を得る.総合制御部は情報集合とクエリを一元的に制御する.進捗状況は40%〜50%である.

 このほか,検索作業にゲーム性を加えて面白さを拡大するとともに,有用性を高める機構について考察した.

 

データ分布および移動の簡易視覚化図

 

小林 図2 データ分布および移動の簡易視覚化

 

 
.PMコメント(中間報告時)
 

 
 検索される情報に命を吹き込んで,寄ってきたり,逃げたりさせるという発想は一見トンデモ系であるが,これから大量の情報が溢れる世界では,巨大情報を扱う新しいパラダイムになる可能性すらある.ここで開発されるシステムはその可能性を検証できるレベルまで実験的に動けばよいとPMは考えている.

 その意味で,小林君には妙に縮こまらない自由な発想をどんどん展開していってほしいと思っている.もっとも,そろそろ動くプロトタイプを提示するための作業も必要だから,いつまでブレーンスーミング状態でも困るのだが,このパラダイムにはまだまだ豊かなアイデアが潜在しているようにPMは思う.小林君が今後の課題としている,従来の検索エンジンを媒介したキーワードの最適化機構は,「釣場」を様子を検索によって少しずつ変えていく面白い方法論だろう ― PMは詳細を完全に理解しているわけではないが.

 企画段階ではほんとうに海のものとも山のものともつかないアイデア発表だったが,さすがに着地点が見えるようにもってきたあたりは光るものを感じる.ところで,小林君は面と向かって話していると,ちょっと他人の追随を許さないような独特のキャラを発揮する.このキャラをシステムの中にも取り込んでほしいものだ.


10.成果概要(終了時)


 アイデアを練りつつ,手法を少し変化させ,以下のような開発と実験を行なった.

(1) 提案手法のプロトタイプ開発および評価

 前期に加えて,空間位置と情報に緩い相関をもたせるために釣り場マップ (データ分布の曖昧な視覚化) という概念を導入した.

(2) 提案手法による情報検索システムの開発

 提案手法を従来広く利用されているキーワードによるドキュメント検索に適用した.クエリは文字列,被検索データはWWW上のドキュメントとし,WWW‐システム間のインタフェースとしてGoogle Web APIを用いた.

 情報 (ドキュメント) の「好み」情報としてキーワードあるいはドキュメントを割り当てる.初期値は当該ドキュメントをWeb上から獲得した際に使用したクエリおよび同時にシステムへ追加されたドキュメント群である.すなわち,ユーザの投入したクエリに対してGoogle検索を行ない,上位にランクされたドキュメント群を提案システム内の被検索集合に追加し,それらに対する初期「好み」として投入クエリを割り当てる.また,付加的な「好み」として同時に追加されたドキュメント群同士が相互に設定される.提案手法では被検索単位毎に制御部を持たなければならないためWWWをそのままの形で利用することができないが,この方式によって複雑な処理を介することなく被検索集合を最新かつ最適に近い状態に保つことができる.なお,「好み」情報は動的に変化する.

 ドキュメントの持つ「好み」情報は,定数長のベクトルで表現される.空間中に分布したドキュメント (魚) は,以下の4規則にしたがって運動する.これはProctorらの提唱する手法に基づいている.

 ・ 近傍の魚との衝突を避ける.
 ・ 近傍の魚と速度を合わせる.
 ・ 好みの餌または仲間に近寄る.
 ・ 苦手な餌または敵から離れる.

 システム全体は,情報集合と入出力インタフェース部,WWWインタフェース部 (Google Search),総合制御部,およびユーザからなる (小林 図3).ユーザは入出力インタフェース部を介してクエリを投入,結果を得る.総合制御部は情報集合とクエリを一元的に制御する.

 

システムの概観図

小林 図3 システムの概観

 

 小林 図4は作成したシステムの実行画面である.魚 (楕円体で表現されている) の群れを「上から見下ろした」様子が出力されている.

 

システムの実行画面図

 

小林 図4 システムの実行画面

 

(3) 面白く役立つ応用機能の開発

 検索作業にゲーム性を加えて面白さを拡大し,またシステムの有用性を高めるため,いくつかの機能を組み込んだ.ここでは代表的なものだけを紹介する.

(3-1) 時間の経過に基づく被検索データの変化

 個々の「魚」の持つ「好み」は (基本的な傾向として) 時間の経過とともに薄れていく.また,好みの「餌」を手にしない限り「魚」は次第に消耗していき,消耗の度合いが閾値を超えると一定の確率で死滅する.なお,消耗度は「魚の太り具合」によって可視化されている (小林 図5).

 

太った魚(左)と痩せた魚(右)の図

 

小林 図5 太った魚(左)と痩せた魚(右)

 

(3-2) クエリ投入に基づく被検索データの変化

 ユーザによるクエリの入力に対してGoogle検索を行なうのは前述のとおりであるが,それに加えて一定時間毎に関連ドキュメント検索やリンク検索を行ない,被検索情報集合を随時更新する.これにより検索結果に流動性が付加される.

(3-3) データ分布に基づく被検索データの変化

 近傍に存在する「魚」同士は,ある確率で「ひとめぼれ」によって新たに「好み」を設定される.多くの場合これは当初「片思い」であるが,一方が他方を追跡し続ける (近くに存在し続ける) 事によって「両思い」になり得る.また,未知の「餌」については任意で弱い「好み」を設定する事で「とりあえず様子を見てみる」という好奇心を表現している.

 以上のほかに交差および突然変異の機能を追加した.これらの変化率を高めると,検索結果の曖昧性や確率性が高まる.逆に値を抑えれば,結果がやや固定的になる.目的によって適切な設定を選択する必要がある.また,網漁と魚篭,俯瞰モードと魚影といった便利さや面白さを増す機能も採り入れた.

 本手法は「好み」を適切に定義することによって任意のデータを扱える.試作したアプリケーションはWWW検索であるが,個々の「魚」の動作には「好み」やURL,仮想物理距離といったメタデータ部分しか関与していないため,コンテンツが機械的に解析可能か否かにかかわらず本手法を適用することが可能である.



11.PM評価とコメント(終了時)


 なかなか面白いデモができなくてやきもきしたプロジェクトだったが,最終段階でこのアイデアの面白さを予感させるデモを見ることができた.セーフ! 実は,小林君を招待した1月の情報処理学会プログラミングシンポジウムでは,うまいデモが見せられず,聴衆からかなり冷やかされていたので,PMもどうなるかなと心配していたところだった.でも,さすがデモ命の五十嵐研 (2001年度のスーパークリエータの五十嵐健夫さんの研究室) の学生だ.

 PMはこの魚釣りメタファのアイデアに一目惚れした.それはいまでも間違っていないと思う.データ検索に対するアンチテーゼというより,コペルニクス的転換を提唱しているので,どこかうまいところを突けば,今後大化けする可能性が高いと思っている.

 今回の開発では,余暇の娯楽として情報検索の過程それ自体を「ゲーム」として楽しみたいという問題設定が強調されている.それはもちろんそれで面白いが,このメタファはそれに留まらないもっとシリアスな用途に使えるのではないかとPMは夢想している.そんなキラーアプリはないものだろうか.小林君の言うアイデアの「ひらめき」を支援するためのツールもその一つだが,データが自律しているということを積極的に使ったなにかがほかにもありそうな….それが見つかるまで,最終成果にあったようないろいろなアイデアを織り込んで,それこそ魚釣りをしながら将来を考える調子でよろしいのではなかろうか.

 それにしても前期のデモ画面に比べると,後期の魚 (と見えるが非常に単純な長楕円体かな?) は妙にイキイキしてとてもよい.釣り上がったときのピチピチはねる様子は,報告会を聞きに来ていた若者たちも「ウケルゥ!」と感心していた.抽象性の勝利だろう.ゲーム性を高めるためのインタフェース設計はまだまだ工夫の余地があるが,ゲームとしての活路は確かにあるような気がする.小林君はジェスチャ志向ユーザインタフェースを試みているが,これも面白い.

★★ 準スーパークリエータ: 途中ちょっとハラハラさせられたが,着地は成功.PMは彼の常人とはちょっと違う「外れた」発想力を高く買っている.将来もっと面白いことができそうな人だ.




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