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平成15年度未踏ソフトウェア創造事業(未踏ユース)  採択案件評価書


 




1.採択者氏名


代表者

倉井 龍太郎(北海道大学 工学部電子工学科)

共同開発者

なし



2.担当プロジェクト管理組織


 (株)メディアフロント



3.委託支払金額


 3,000,000円



4.テーマ名


 統合分子生物学環境の開発



.関連Webサイトへのリンク


  なし



6.テーマ概要


 フリーで公開されながらも,その操作の難解さやインストールの難しさからから,研究者に敬遠されている生命科学関連のソフトウェアを統合するためのGUI環境を構築する.

 インターネット上でフリーで公開されている,生命科学関連のソフトウェアは多数存在するが,それらは,タンパク質構造予測,タンパク質構造解析,アミノ酸配列の相同性チェックのためのソフトウェアなど多岐にわたっている.したがって,これらを統合して使用すれば,一つの生命科学および計算化学のための簡易で統一された操作感をもつ,分子生物学関連ソフトウェア向けのインタフェースおよび統合環境を開発することが可能である.

 また,分子生物学関連ソフトウェアの操作性の悪さはそれが分子生物学者が苦手なUNIXもしくはLinux上のCUIで開発されていることに起因するものが大きいので,まずは,CUIのGUI化を行なう.また,インストールを簡単にするために,分子生物学関連ソフトウェアをインターネット上から自動で取得し導入を行なう自動インストーラの開発も行なう.さらに,簡易なソフトウェアを目指すために,充実したマニュアル作りも行なう.



7.採択理由


 PMが今回の多数の提案の中で最も地味なのに,最も感銘を受けたものの一つ.分子生物学の分野では宝のような公開ソフトがたくさんあるのにそれをみんなが使えていない.それをなんとかしたい.まだ学部2年生で,しかも畑違いの分野のソフトウェアで一肌脱ごうというその意気がいい.なんだか滅私奉公のようでもあるが,このようなソフトウェアの開発こそ,有用で,困っている人達を助けるという大きな意義をもっている.PMは大いに期待をしている.

 
8.成果概要(中間報告時)
 

 
 従来から公開されている生命科学関連のソフトウェアを,簡単かつ統一された感覚で扱えるGUIソフトウェアを開発する.当初の計画では,Linux版,Unix版,Windows版,MacOS版の開発を万遍なく行なう予定であったが,リソースや実際のニーズを考えて開発はMacOSに絞った.

 現状ではもっともニーズが高いであろうMacOS Xをターゲットに,今回のプロジェクトで統合予定である,Procheck,clustalw,MODELLER,Dock,Blast,BabelをそれぞれMacOS X上でコンパイルした.その上で,CUIベースで動作していたProcheckをMacOS X上で呼び出し,タンパク質の構造を解析させるGUI (Cocoaアプリ) を作成した.対象としたソフトウェアは以下の通りである.

  Procheck http://www.biochem.ucl.ac.uk/~roman/procheck/procheck.html
  clustalw http://www.ebi.ac.uk/clustalw/
  MODELLER http://www.salilab.org/modeller/modeller.html
  Dock
  Blast http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/
  Babel http://openbabel.sourceforge.net/

 開発したソフトウェアは以下のものである.

(1) 主たるインタフェースおよび外部ソフトウェアとの連携を行なうコンポーネント

(2) 公開されている分子生物学関連ソフトウェアをMacOSに移植した.ただし,ライセンスの問題により再配布できない場合は移植方法のドキュメントを作成した.

 なお,clustalw,MODELLER,Dock,Blast,Babelなどといったソフトのインターフェイス作成および,これらのソフトとProcheckの統合は未了なので,後期に持ち越す.

 
9.PMコメント(中間報告時)
 

 
 このプロジェクトは諸般の事情で着手が非常に遅れてしまった.このプロジェクトの発想の源が,彼が非常勤職員になっている産業技術総合研究所大塚栄子フェロー部門 (札幌にある) の田村裕研究員との出会いにあったことと,産総研の知財管理の諸々の事情が絡んできたことによる.それにいろいろな情報の行き違いまで加わったので混乱したのであった.これについては,田村裕研究員とお会いして,すべての疑問が氷解した.それにしても,田村さんという方はユニークな方で,PMは会ってすぐ意気投合してしまった.田村さんには奇人・変人(?)と波長が合う不思議な素質があるようだ.

 それはともかく,このプロジェクトからは,採択理由にも書いたように,技術内容は地味だが,間違いなく役に立つソフトが生まれると思う.倉井君は結構あちこちに興味が散逸するところがあるようだが,このプロジェクトはしっかりと完遂してほしい.

 当初はいろいろなプラットホームの上でシステムを実現する予定だったが,PMとプロ管が訪問して議論した結果,ユーザが確実にいるMacOSだけに的を絞り,さらにそれによくチューンされたツールを活用することにしてもらった (ツールについては,メディアフロントの小松さんのアドバイスがあった).これで,新しいツールの習熟が加わったものの,遅れはかなり挽回できたのではないかと思う.

 開発の焦点を実情に合わせて絞り,きちんとした見切りをつけることの重要性が浮び上がったプロジェクトである.


10.成果概要(終了時)


 前期から持ち越した分も含めて,以下の生命科学関連のソフトウェアを,簡単かつ統一された感覚で扱えるGUIソフトウェアを開発した.当初の予定よりはレパートリーが少ないが主要なソフトはきっちり押えた.

 Procheck http://www.biochem.ucl.ac.uk/~roman/procheck/procheck.html
 (タンパク質の立体構造予測)
 clustalw http://www.ebi.ac.uk/clustalw/
 MODELLER http://www.salilab.org/modeller/modeller.html
 (タンパク質の立体構造評価)
 open babel http://openbabel.sourceforge.net/
 3dna http://rutchem.rutgers.edu/~xiangjun/3DNA/

 統合環境の全体構成を倉井 図1に示す.Cocoaアプリでインタフェース部分とシェルスクリプト実行用クラスなどを実装し,シェルスクリプトで,計算の前準備,科学計算プログラムの起動,計算結果の後処理,結果表示用ソフトの呼び出しを実装した.

 倉井 図2はMODELLERの動作におけるファイルの流れを示す.MODELLERはタンパク質の立体構造予測を行なうソフトで,既にX線解析等で分かっている立体構造をもとに,アミノ酸配列を一部変更したときの構造をホモロジーモデリングによって予測するものである.これは,無料で使える唯一のホモロジーモデリングソフトだと思われる.得られた結果のファイルをX-Windowの中で,Rasmolというソフトを立ち上げて表示するが,このあたりの面倒なことをユーザは一切気にする必要がない.

 

統合環境の概要図

 

倉井 図1 統合環境の概要

 

ファイル読み込み時の動作図

 

倉井 図2 ファイル読み込み時の動作

 

 また,BSD系のportと同等の機能を持つFinkをインストールシステムに利用することで,インストールの簡易化を図った.CUIベースであるFinkに対し,finkinfoとGUIを用意し,必要なパッケージをクリック一つですべてインストール/アップデートできるようにした.finkinfoはソフトウェアをインストールするためのスクリプトであり,今回は,生物学関係のソフトウェアをインストールするためのfinkinfoをいくつか作成し,インターネットからプログラムを入手し,インストールやアップデートまで自動で行なえるようにした.

 このシステムはコンピュータに強くない生物学者が用いるものなので,コンピュータに詳しくない人でも簡単に操作が行えるようなドキュメントを作成した.



11.PM評価とコメント(終了時)


 ともかくUNIXと聞いただけで尻込みするような生物学者たちにも,簡単にインストールでき,簡単に計算機実験ができるようになった.たとえ,UNIXを多少知っていても,こういうふうに流れ作業ができれば便利この上ない.採択理由にも書いたが,このような縁の下的なソフトの開発も重要である.

 今後,対応ソフトをもう少し増やす (これ自体は,基盤が固まったので,1日/1件ぐらいのペースでできるとのこと) こともあるが,まだ少々バグが残っているようである.それに見切りをつけて,早めになんらかの形で公開に持っていけるようにしていただきたい.

 このプロジェクトは産総研の知財部門とのからみがあり,途中いろいろ難しいところがあったのだが,倉井君はある程度ゴーイングマイウェイで開発を進めることはできたと思う.あとは,これが多くの生物学者にどのように使われるような道筋をつけるかが課題である.

 フリーにするのか,ライセンシングを少し固くするのか,ビジネスに乗せるのか,PMはまだ了解していないが,どのような形であるせよ,広く使われてしかるべきソフトであると信じているので,なにかあればPMも後押ししたいと考えている.

 倉井君はまだ大学2年生だが,こういうソフトの開発を経験したおかげで,北大の中でも目立つ存在になったのではないかと思う.大学3年以降も良い先生に恵まれるのではないかと期待している.彼自身は,まだまだ自分の興味の範囲を紋りきっていないフリーハンドをもっている.3年後ぐらいには全然違うことをしている倉井君で出会うことになるかもしれない.

★★ 準スーパークリエータ: まだ若い.これからどんどん伸びる素質があると見た.つくったソフトの有用性が高い.




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