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平成15年度未踏ソフトウェア創造事業  成果評価報告書(プロジェクト全体について)



 プロジェクトマネジャー: 萩谷 昌己



1.プロジェクト全体の概要


 今年度も昨年度と変わらずに、本PMのプロジェクト全体の目標は、ソフトウェアの開発を通してその開発者を「有名」にすることである。さらに、日本に限らず世界中にその名を轟かせることを最終的な目標とする。
 残念ながら、コンピュータ・サイエンス分野では、研究者や技術者が自らの開発したソフトウェアを通して有名になることは、それほど頻繁にあることではない。むしろ、コンピュータ・サイエンス以外の専門家が、ソフトウェアを通して有名になることの方がはるかに多いように思われる。
 本PMのプロジェクトは、主としてコンピュータ・サイエンス分野において、ソフトウェアを通して有名になる研究者や技術者を育てることを想定している。ソフトウェアを開発して、そのソフトウェアが世の知られるところとなって、その暁に開発者が有名になるというサクセス・ストーリーを生み出そうとしている。従って、このプロジェクトでは論文など書いてはいけない。もちろん、結果として論文が書けてしまうことは構わないが、論文を書くことを目的にしてはいけない。同様に、学会などでの発表は、ソフトウェアの宣伝の場として、また、ソフトウェア開発のマイルストーンとして有効であるが、学会発表自体を目的にしてはいけない。
 対象とするソフトウェアの分野に関しては、コンピュータ・サイエンス分野の研究者や技術者を育てるという点と、本PMが詳しい分野である点、また、ソフトウェアが世に広まるためには、基盤的なソフトウェアである方が有利である点を考慮した。
 以上のような考え方に基づき、昨年度より以下のような公募要領となっている。

 

公募対象プロジェクト:

基盤ソフトウェア: 計算機を用いた知的活動の基盤となるソフトウェア。コンパイラやオペレーティング・システムなどの基本ソフトウェア。Web関連を含む各種サーバや各種クライアント。さらに、各種エディタをはじめ、人間とのインタラクションのためのソフトウェア。音声や画像を活用するものも含むが、何らかの記号処理を期待する。

科学技術計算ソフトウェア: 定理証明系、数式処理システム、数値計算ライブラリ、各種シミュレータ、各種探索プログラムなど、世の中で広く使われる可能性のある科学技術計算ソフトウェア。単体としてのソフトウェア以外にも、他のソフトウェアの中でライブラリとして広く使われるようなものも歓迎する

その他: PMの想像を越える新しいソフトウェア。
提案テーマ詳細説明記入要領 及び 審査基準:

記入要領:以下の内容を様式3【提案テーマ詳細説明】として、10ページ以内でわかりやすく記述すること。

 ● 提案の内容
 ● なぜそのソフトウェアが必要とされているか。なぜ広く使われる可能性があるのか。競合するものがあれば、それらとの比較。
 ● 開発の手順。開発者とその役割。ここで開発者のプロフィールの記述を歓迎する。
 ● 完成後の流通のシナリオ。製品化するのか。オープンにするのか。

審査基準:審査にあたっては、以下の点を重視する。

ことさらに新しい技術を実験するのではなく、ソフトウェアとして完成したものを求める。競合するものがある場合、それらを凌駕するような完成度の高さを要求する。
ついでに論文も書こうなどという卑しい根性は駄目である(結果として書けてしまってもよいが)。ソフトウェアと心中するようなつもりでやって欲しい。どこかで落ちた申請書はお断りである。
将来的に広く流通させることを目標とする。なぜ、そのソフトウェアが広く使われる可能性があるのか。どのようにして流通させて行くつもりかについても説明して欲しい。
採択予定数(予算8千万位) 4件〜6件
採択しようとする応募者の条件 特になし。
プロジェクトの進捗管理、対応方針 数ヶ月に一度、進捗状況を報告していただく。公開シンポジウムを開催し、評価を行うとともに、成果の普及に務める。

 

 以上の公募要領において、科学技術計算ソフトウェアを対象とした理由としては、このようなソフトウェアを対象とする他のPMが見当たらなかったこともある。自分の本来の研究分野に多少でも貢献しようとする意気込みもあった。
 公募要領の中でも、次の点について注目して欲しい。「ことさらに新しい技術を実験するのではなく、ソフトウェアとして完成したものを求める。競合するものがある場合、それらを凌駕するような完成度の高さを要求する。」たとえ新奇な技術がなくとも、ソフトウェアとして完成度が高ければ、そのソフトウェアが既存のソフトウェアを凌駕する可能性は十分にある。実際にそのような例を挙げることに暇はないだろう。逆に、新奇性のある技術を用いても、ソフトウェアとしての完成度が低ければ、広く使われることは有り得ない。単なる研究で終わってしまう。
 また、以下の点についても注意して欲しい。「将来的に広く流通させることを目標とする。なぜ、そのソフトウェアが広く使われる可能性があるのか。どのようにして流通させて行くつもりかについても説明して欲しい。」つまり、ソフトウェアを広めていくことも、ソフトウェアの開発者(クリエータ)としての能力のうちであると考えた。つまり、自ら「有名」になるという意志とそのための戦略も、プロジェクトの採択や評価のための重要な軸である。





2.プロジェクト採択時の評価(全体)

 

 今年度は、28件の応募があり、最終的に6件を採択した。個々のプロジェクトの採択理由については個々のプロジェクトの項で詳しく述べるが、本節では一般的な採択の方針について簡単に説明する。
 前節の最後でも述べたことだが、世界中で広く使われるソフトウェアを開発するには、もちろん、ソフトウェアの開発能力が必要であるが、それにも増して、世の中で必要とされているものを的確に嗅ぎ分ける能力が重要である。また、開発したソフトウェアを売り込んで行く戦略も非常に重要である。さらに最終的には、開発したソフトウェアに拘って広めようとする根性としつこさが要求される。
 結局、28の応募の中から、以下の六つのプロジェクトを採択した。

  ●Relaxerサービスフレームワーク
     浅海 智晴
  ●予測入力の拡張
     小松 弘幸
  ●リナックス計算状態スクラップブックシステム
     ポッターリチャード
  ●ユーザレベルOS用の軽量VMに対するネットワーク機能の追加
     榮樂 英樹
  ●分散型組込制御システムのComponent BasedによるGUI開発ツール
     上野 真路
  ●生物学者にやる気を出させる代謝マップエディタ
     有田 正規

 最初の二つのプロジェクトは昨年度からの継続である。昨年度、Relaxerのプロジェクトにはかなり多額の予算を付けた。それに応える成果は、一応はあったが、予算規模に見合うような普及の努力を継続的に行う必要があると考え、今年度は、かなり予算を絞って採択した。少ない予算の中で、昨年度に開発したソフトウェアを含めて、普及の努力を続けて欲しいと考えている。また、「XML Schemaに勝て」という最終目標を達成することを期待している。予測入力のプロジェクトは、昨年度のプロジェクトの中でも高く評価したものであるが、今年度、さらなる拡張の提案があったので、日本語入力システムとしてより広く定着させようという意図もあり採択した。
 3番目と4番目のプロジェクトは、どちらも仮想機械(オペレーティング・システム)に関するものである。近年、VMWareをはじめとして、パソコン用の仮想機械が多く開発され、実用的にも使われるようになって来ている。リナックス計算状態スクラップブックシステムは、Linux上で動くLinuxの仮想オペレーティングシステムであるUML(User Mode Linux)にチェックポイント機能を追加するとともに、チェックポイントによって得られたスナップショットを操作する環境を構築するプロジェクトである。軽量VM のプロジェクトは、UMLと同様であるが、ユーザレベルで動くBSDを開発している。仮想機械技術は今後ますます重要になり、一般的にも広く用いられるようになって行くと考えられるので、その開発者が「有名」になれる可能性は高い。関連した二つのプロジェクトを採択し、切磋琢磨することを望んでいる。
 5番目のプロジェクトは組み込み用の開発ツールを開発するものである。競合する既存のソフトウェアとの差別化が課題であるが、ターゲットを全くプログラミングに馴染みのない機械設計技術者に限定することにより、幅広い普及の可能性があると判断して採択した。
 6番目のプロジェクトは、科学技術計算ソフトウェアを開発するものである。開発者自身がバイオインフォマティクスの第一線の研究者であり、研究者が必要とするものを熟知しているので、広く普及するソフトウェアとなる可能性が大きいと判断した。



3.プロジェクト終了時の評価


 全体的に、いずれのプロジェクトも、ソフトウェアの開発に関しては、ほぼ計画どおりに進んだ。今年度は、キックオフ・ミーティング、中間報告会、成果報告会を除き、プロジェクト毎のインタビューは余り行わず、メール等による報告を主とした。プロジェクトによっては、PMを訪問し進捗状況を報告する場合もあった。また、PMがかなり緊密にアドバイスを与えたプロジェクトもある。
 結果として、以下で述べる点以外は、いずれのプロジェクトの開発も順調に進み、安心して見守れる状況にあった。また、ソフトウェアの普及活動に関しても、それぞれのプロジェクトのやり方で意欲的に取り組んでいた。
  小松プロジェクトは、開発者が海外で活動を始めたこともあり、前期は開発自体が少し遅れ気味であった。試行錯誤に時間を費やしている点もあった。しかし、後期においては、前期の遅れを十分に取り戻し、開発目標以上の成果を残している。
  上野プロジェクトに関しては、専門家の批評を得ることも不可欠であると考え、組み込みシステムの分野で著名な名古屋大学の高田広章教授を紹介し、アドバイスを得るように指導した。残念ながら、まだ余り交流は進んでいないようである。また、MATLAB等の既存のソフトウェアとの差異をより明確にする必要性は残っている。
  有田プロジェクトに関しては、プロジェクトを進める間にも、競合するソフトウェアが新たに続々と発表されており、それらに打ち勝つことが課題となっている。
 最終的に、本PMの目標である「有名になる」という観点からは、いずれのプロジェクトもそれぞれの分野で相応の結果を残している。学会発表や論文発表を行ったプロジェクトもあったが、今年度のプロジェクトにおいては、決して論文のための論文ではなく、ソフトウェアの普及の目的であったということができる。
  浅海プロジェクトのRelaxerは、少なくとも国内では、XMLアプリケーションの分野において既に標準的なフレームワークとなりつつある。しかし、世界への普及に関しては、今後のさらなる活動が期待される。
  小松プロジェクトの日本語入力システムも同様である。日本語入力システムとして既に定着している。また、小松氏自身は、DixChange等を通してオープンソース・ムーブメントの分野でキーとなる存在になっている。
  ポッター氏は、UMLの開発者であるJeff Dike氏との交流を深めるなど、着実にSBUMLの普及に努めている。既にsorceforgeからの公開も行われており、一般ユーザも増え始めている。
  榮楽氏はまだ若いが、国内のオペレーティングシステムのコミュニティでは既に有名な存在である。また、国際会議での発表などを通して、国際的にも彼の仮想機械は知られつつある。ただし、競合するソフトウェアが多いため、今後のいっそうの努力が必要である。
  上野氏は、マイクロソフトの助成を得るなど、着実にその足場を固めつつあるようだが、やはりMATLAB等の競合するソフトウェアとの差異を明確にする必要性は残っている。また、商品化をすみやかに行い、開発成果を世に問うことが必須である。
  有田氏は既にバイオインフォマティクスの分野で世界的に著名であるが、このソフトウェアを通して代謝系の第一人者としての地位を固めつつある。PNASでの論文発表もソフトウェアの普及を加速すると考えられる。今後は、ユーザ・グループを立ち上げるなど、普及への地道な努力が必要である。





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