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平成15年度未踏ソフトウェア創造事業  成果評価報告書(プロジェクト全体について)



 プロジェクトマネジャー: 伊知地 宏



1.プロジェクト全体の概要


 領域を問わずに公募を行い,38件の応募から以下の6件を採択した.
  (1) 坂本大介:共感する部屋
  (2) 西森丈俊:ゲーム記述に特化したプログラミング言語と環境の開発
  (3) 大谷淳平:教育的かつ実用性のある3Dグラフィックスミドルウェアの開発
  (4) 加藤直樹:吸い取りインタフェースを有す電子掲示板システム
  (5) 松井潔:ソースチェックに威力を発揮するCプリプロセッサ
  (6) 川道亮治:XMLプログラミング言語Xi(ザイ)の完全な仕様策定とその実装
 大きく分野を分けると,芸術・娯楽系が3件,ユーザインタフェースが1件,プログラミング言語が2件となった.上記のリストではこの順で並べてある.
 坂本氏の「共感する部屋」は,部屋の状況をセンサーを通してコンピュータが把握し,その状況に対して直接的な目的でなくなんとなく反応を返す,たとえば淀んだ部屋の雰囲気を明るくするように作用するというようなもので,これまでにほとんど例をみない,どのようなものが出来るのか興味を持たせる非常に面白い提案である.一種のインタラクティブアートとみなすことが出来るが,それ以外の方向へ発展する可能性もあり,坂本氏の独創性に依存して何が出来るのか良く分からないが非常に気になるプロジェクトであった.コンピュータの使われ方の新しい形態を模索している未踏性の高いものである.センサーの開発が前期に行われ,そのセンサーで得た部屋の状況や人の動きに関する情報から言語的でない柔らかい情報を表示するソフトウェアが後期に開発された.
 西森氏の「ゲーム記述に特化したプログラミング言語と環境の開発」は,テレビゲーム開発の経験を活かして,ゲームデザイナが抱える問題点を解決しようというものである.ゲームの企画の際に,ゲームデザイナがゲームアプリケーションプログラマを煩わせることなく,自らプログラミングを行え,試行錯誤しながらゲーム検討できるように,デザイナ向けのゲーム用プログラミング言語を開発しようと言うものである.どんどん増大化するゲーム開発費を抑える効果が見込まれる.前期終了時点でプログラミング言語Wowと言語処理系をほぼ完成させ,後期には言語仕様の見直し,言語処理系の完成と実行系の改良,プログラム編集環境の開発が行われた.
 大谷氏の「教育的かつ実用性のある3Dグラフィックスミドルウェアの開発」は,ゲームの特に3Dゲームの開発経験を活かして,ゲーム業界がかかえる3Dソフトウェア開発における問題点を解決しようというものである.具体的には,高価な開発ソフトウェア,教育の問題であり,それにたいしてフリーの3Dグラフィックスミドルウェアとそれを使ったコースウェアを開発するものであり,2D時代には世界で最も強かった日本のゲーム業界を,3Dにおいても世界のトップに引き上げる効果が大きいと見込まれる.前期終了時点で3Dグラフィックスミドルウェアは当初の予定以上の機能を持ってほぼ完成し,後期にはキャラクタモデル表示やアニメーションの開発,ソフトウェアのさらなる最適化によるパフォーマンスの向上,デモ・チュートリアルフレームワークの拡張とデモの作成が行われた.
 加藤氏の「吸い取りインタフェースを有す電子掲示板システム」は,掲示板を電子化しようという提案であり,電子掲示板と携帯情報機器の間で双方向の情報交換をできるようにしようというものであった.しかし,提案書に少しだけ書いてあった通常の掲示板に貼った紙による掲示に対するアプローチにPMが興味を持ち,面接,プロジェクト計画立案を経て,紙による掲示物の携帯情報機器による取り扱いにメインテーマが移ったものとなっている.前期には,電子掲示板についてはほぼ完成し,紙掲示板については基盤となる技術の確立ができた.後期にはメインテーマである紙掲示板の携帯情報機器による情報吸い取り機能が完成した.
 松井氏の「ソースチェックに威力を発揮するCプリプロセッサ」は,昨年度に新部PMに採択されたテーマの継続である.現存するC言語のプロプロセッサはその仕様を満たしていないものがあまりに多く,それに対して世界一仕様に忠実なC言語のプリプロセッサを開発しようというものである.今年度は,昨年度に積み残したいくつかの課題とドキュメント (日本語,英語) の整備を課題としており,是非とも完成品を作り出してもらいたいと思っている.前期にはC言語プリプロセッサはほぼ完成し,後期にはマルチバイト文字の処理と,ドキュメント,特に英語によるドキュメントの整備が行われた.
 川道氏の「XMLプログラミング言語Xi(ザイ)の完全な仕様策定とその実装」は,XML形式の文法を持つXML用プログラミング言語Xiの完全な仕様を作成し,その言語処理系を開発することを目的としている.プログラミング言語Xiはすでに存在するが,関数型言語であるのにその仕様には一貫性がなく不完全な部分が存在するため,関数型言語として完成されたものにする.前期終了時点では,言語Xiの仕様検討が若干遅れ気味であったが,後期に遅れを取り戻し,言語仕様の確立とサンプルとなる言語処理系の開発が行われた.
 全般的に見るとプロジェクトは極めて順調に進んだ.細かいところで未達成の項目があるものの,当初に計画された開発内容はほぼ達成された.特に,大谷氏と松井氏のプロジェクトは予定よりもかなり早く開発が進み,開発内容のレベルも高く特筆に価するものである.

 



2.プロジェクト採択時の評価(全体)


公募の際に,対象とするプロジェクトを以下のようにした.

 基本的には公募分野を限定しない.未踏性が高く,2,3年内には実用化が可能なものを対象とする.ただし未踏性が同じレベルとPMが判断した場合には,以下の分野のものを優先する.
  ・ プログラミング言語: 新しいプログラミング言語,言語処理系実装技術,プログラム変換,プログラミングツール,ビジュアルプログラミング,プログラム自動生成,制約解消系など
  ・ 芸術や娯楽を支援するソフトウェア: 音楽,文学,絵画などの作成,鑑賞を支援するソフトウェア,ゲーム作成を支援するソフトウェアなど
  ・ 数理科学の研究・教育を支援するソフトウェア: 数学,計算機科学,物理学などの数理科学の研究や教育を支援するもの.例えば,数式処理系,証明支援系,対話的学習システムなど.
  ・ ユーザインタフェース: Web,例によるプログラミング,実世界指向などで実用的なもの.

 また,審査の基準を以下のように置いた.

  ・ 開発成果が与える効果: 既存ソフトウェアに対してコスト面,性能面で圧倒的に凌駕する.あるいはこれまでよりも 広い範囲に適用できるようになる.
  ・ オリジナリティー: アイデアの斬新さがある.
  ・ ソフトウェアの完成度: 新しい技術の実験ではなく,使えるソフトウェアの完成を目指していること.

 この結果38件の応募があり,5次に渡る書類審査と書類審査合格プロジェクト
に対する面接審査を行って,6件を採択した.
 審査においては,研究の片手間でソフトウェアを作るようなもの,開発内容に対して開発メンバーの数が多すぎるものは,ソフトウェアの完成度を高くすることが出来ない可能性が高く,書類審査の時点で落とした.面接審査に至ったプロジェクトは,未踏性あるいは新規性が高いか,実用性あるいは社会への影響が大きいと思われるもののいずれかである.
 坂本氏の「共感する部屋」は,アイデアの奇抜さ,面白さ,斬新さを評価し,未踏性が極めて高いと判断した.未踏性が高いということは失敗する確率も高いということであり,PMが一番注意して状況を把握し,適切に相談を受け,アドバイスを与えるべきプロジェクトということになる.
 西森氏の「ゲーム記述に特化したプログラミング言語と環境の開発」は,ゲーム開発という特殊目的用プログラミング言語の仕様に新規性が高いと感じ,開発成果のゲーム業界への影響も大きいと判断し,新規性,実用性を評価した.
 大谷氏の「教育的かつ実用性のある3Dグラフィックスミドルウェアの開発」は,高価ではあるがすでに類似するグラフィックスソフトウェアがあるので未踏性は高いとは言えないが,フリーないし安価で3Dグラフィックスミドルウェアとコースウェアが提供されることに,極めて高い社会への影響力があると判断し,特に実用性を高く評価した.
 加藤氏の「吸い取りインタフェースを有す電子掲示板システム」は,提案の中心であった電子掲示板には暦本氏らの研究開発成果があり,未踏性,新規性をほとんど感じなかったが,提案書の最後に少しだけ書いてあった紙掲示板に対するアプローチに新規性を感じ,面接時の紙掲示板に対する集中的な質問を経て,未踏性を確信するに至った.システムが完成すると実用性も高く,未踏性にあわせて実用性も評価した.
 松井氏の「ソースチェックに威力を発揮するCプリプロセッサ」は,昨年度の開発成果をふまえ,実用性が高いことは確認できていたので,これを完成させることには十分に意義があると考え,完成することに集中するということで採択した.
 川道氏の「XMLプログラミング言語Xi(ザイ)の完全な仕様策定とその実装」は,提案の面白さは感じられるものの高い未踏性,新規性を見出すことは出来なかったが,XML業界における影響の大きいプロジェクトである判断し採択を決めた.



3.プロジェクト終了時の評価


 プロジェクトは全般的に順調に開発が終了した.一部には途中で開発の遅れや混迷状態が見られたものもあったが,それらのプロジェクトにはPMが積極的に関与し,問題の提示,考える視点の提供,技術的アドバイスを行い,最終的には当初の目標に近いレベルにまでに達した.
 採択時の評価に対して,極めて高い成果を出しているのが大谷氏の「教育的かつ実用性のある3Dグラフィックスミドルウェアの開発」と松井氏の「ソースチェックに威力を発揮するCプリプロセッサ」である.
 大谷氏の「教育的かつ実用性のある3Dグラフィックスミドルウェアの開発」は,採択時には新規性をあまり感じ取ることの出来なかったが,計画になかったいくつかの機能の開発によって,実装面,特に最適化において非常に高い新規性を見出すことが出来るようになった.新しい技術が開発されたと言うほどまでではないが,既存技術を組み合わせて,それらを簡単に実装してしまうプログラミング能力には目を見張るものがある.
 また,松井氏の「ソースチェックに威力を発揮するCプリプロセッサ」の開発も完成度が極めて高く,緻密な計算の基で開発が行われ,堅実にプリプロセッサ処理系を構築した.特に今年度だけ特殊事情で生じた契約期間外である12月と後期に入った1月に一気に開発が進展し,PMが今年度の開発は無理かもしれないから計画から落とすべきではないかと主張していた,マルチバイト文字の処理の実装までも行われ,処理系としての新規性が大いに増した.
 ほぼ予定通りに開発が進み,成果も予定通りの物が出来たのは,西森氏の「ゲーム記述に特化したプログラミング言語と環境の開発」,加藤氏の「吸い取りインタフェースを有す電子掲示板システム」である.計画のレベルが元々高かったので,予定通りということは高いレベルの成果を出しているということになる.ただし,課題もいくつか明らかになったので,今回の経験を活かして完成度をさらに増して欲しいと思う.
 坂本氏の「共感する部屋」と川道氏の「XMLプログラミング言語Xi(ザイ)の完全な仕様策定とその実装」は開発の遅れや進む方向で混迷状態に陥ったことがあり,PMが積極的に関与したプロジェクトである.両プロジェクトともに,最終的には当初の目標をほぼ達することが出来たが,それに伴う課題もきわめて明確になった.
 坂本氏の「共感する部屋」はセンサーから得た情報を柔らかく視覚的に表示するソフトウェアの方向性で混迷した.有名なUI研究者に対してデモをして貴重な意見,批判をもらい,またPMがアプリケーションの提案などを行うことで,方向性が明確になり,目標に近いレベルの完成度までに至った.しかしまだ,情報表示系に関しては積み残しの課題が山積しておりPMとしてかなり不満を持っている.この不満は,PMが芸術方面へのコンピュータの利用に興味が強く,期待度が大きかったことの裏返しでもあるのだが,年齢も若く能力も十分にあると思われるのでもっと果敢な挑戦を期待したいものである.
 川道氏の「XMLプログラミング言語Xi(ザイ)の完全な仕様策定とその実装」は,言語仕様の検討が揺れ動き,言語処理系の実装方式も二転三転して,期間内にソフトウェアが出来るのか心配になったが,なんとか完成レベルまで到達した.言語仕様の検討においても設計道具を持っておらず,闇雲に理論的な方向に走り,XMLプログラマが使いにくい仕様になっていないか気になるところである.実用性を重要視して採択したプロジェクトであったので,PMが早い時期から関与し方向性を変えあるべきプロジェクトであったのかもしれないと反省している.






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