平成14年度未踏ソフトウェア創造事業(未踏ユース)

採択案件評価

1.採択者氏名(先頭は開発代表者) 山田 育矢 20歳 (株式会社ニューロン代表取締役,慶應義塾大学環境情報学部)、
佐藤 大介20歳(株式会社ニューロンチーフアーキテクト,慶應義塾大学環境情報学部)、
渡辺 翔太18歳(株式会社ニューロン,慶應義塾大学総合政策学部)
2.プロジェクト実施管理組織 株式会社 創夢
3.委託金支払額  3,000,000円
4.テーマ名  プライベートIP端末同士を含めたセキュアなP2P型通信の研究
5.関連Webサイトへのリンク  
6.テーマ概要

 本テーマの目的は「プライベートIP端末同士を含むセキュアなP2P型通信」の研究開発である.Ipv4のIPアドレス枯渇によるNATの普及によって,多くの端末がプライベートIPアドレスを使ってインターネットに接続されている.プライベートIPアドレスを持つ端末は同一LAN以外の端末からP2P型接続を受け付けることができない.よって,プライベートIPアドレスによる接続はサーバ・クライアントモデルによるWebやメール等のサービスの利用には適しているが,ファイル共有やストリーミングなどP2Pによるサービスには不向きである.

 特にプライベートIP端末同士のP2P通信は,データをスプールする専用のサーバを構築する以外のアーキテクチャでは汎用的なものはいまだ実現されておらず,またそのようなアーキテクチャはコスト面やサービスの安定性の面で,デメリットも大きい.

 そこで本提案はP2Pの新しい手法を取り入れることでプライベートIP端末間通信を実現し,ファイアウォールにより隔離された環境からもP2Pを利用可能にすることを目指す.パフォーマンスのチューニング及び,実証実験による実用性のテストも行なう.

 本ソフトウェアをP2Pアプリケーションに組み込むことで,プライベートIP,グローバルIPに関係なく,すべての端末同士が認識可能となり,接続を行なうことができるようになる.

 また将来的には,上記技術をコアとし,認証サービスやグルーピングサービスなどを組み込むことで,P2Pアプリケーション開発の汎用プラットフォームのデファクトスタンダードたることを目指す.


7.採択理由

 プライベートIPをつなぐP2Pの実現法のアイデアは飛び抜けたものではないように思うが,ベンチャービジネスを興している提案者たちの若さのなせるパワーに感服した.提案書もクリアできちんと書けている.IPv6がなかなか普及しないので,こういったアイデアをしばし追求していくことも重要であろう.

 
8.成果概要

 本研究の目的は全ての端末同士でインターネット上におけるEnd to Endの通信を実現するフレームワークの設計にある.このフレームワークは各端末の存在しているネットワークの状況を分析し,最適な方法を自動的に選択して端末間通信を行なう.今回の開発期間ではこのうち,UDP通信におけるEnd to End通信を実現するための仕組みを実現した.End to End通信にはNAT越えとファイアウォールの壁が存在するが,今回の実装ではこのうちNAT越えを,従来の負荷集中が起きるアーキテクチャとは異なる形で実現した.また,今回の開発期間において,NAT,ファイアウォールを越えるフレームワークのアーキテクチャ設計を行なった.

(1) フレームワークの構成設計

 すべての端末上で一般的なEnd to End通信を実現するために必要なシステムの機能を把握し,その機能をいかにしてフレームワーク内で保持させるかの設計を行なった.

(2) ルータ機能活用によるUDPのNAT越え (STUN) の実装

 UDPでの通信の際に,NAT越しでもいくつかの手順を踏まえれば直接通信によるEnd to End通信が可能なことが実験と資料調査により判明した.その実装をIETFのドラフトを参考にしつつ実装した.

(3) UPnPコントロールポイントの実装

 UPnPによるNAT越えの実現を行なうにあたり,必要な部分のみをコントロールするUPnPコントロールポイントの実装を,UPnP.orgで検討が進められている仕様の最新版に基いて行なった.

(4) 新型アーキテクチャによる中継通信システム (UDP対応) の実装

 UPnPやSTUNを利用しても直接通信が不可能な場合,中継を利用するしかないが,このプロジェクトで開発した独自の中継システムを利用することで負荷分散を実現した (山田・図1).


山田・図1

(5) ネットワーク状況アナライザ (UDP対応)

 各サーバントがおかれているネットワーク状況を把握し,通信相手のネットワーク状況と照らし合わせ,最適な通信方法を選択する機能を実装した.

これらの成果は現在特許申請を準備中である.

9.PM評価とコメント

 このプロェクトはオープンソース指向,フリーウェア指向の強かった今年度の未踏ユースの中では唯一ビジネス指向である.山田君たちは,大学入学と同時にベンチャーを起こした元気印であるが,慶応の湘南藤沢キャンパスが学生のベンチャ起こしを強力に後押ししたという環境もあった.若者のつくったベンチャーは長続きしないのが大半らしいが,山田君たちのニューロング (Neuwrongという名前がまたいい) はしっかり生き残っている.バックアップしている教授陣たちもなかなかすごい.

 それはともかくそんなわけで,成果報告も特許申請中のものがあり,詳しくは書けない.彼らは今回開発した技術が使えるものであると見極めたうえで特許申請をすることに決めた.特許申請にはそれなりのお金 (100万円程度) がかかるので,小さなベンチャーとしては特許申請するかしないかは重大な戦略判断なのである.

 彼らがそう判断した通り,PMも技術的にはフィージビリティが見えたと思う.ただ,それをビジネスモデルにまで具体化するには,もう少し知恵を絞る必要があるようにPMは感じた.もっともそれは未踏ユースのレベルを越えているので,ここしばらくの彼らの健闘を祈りたい.よいビジネスモデルが提案できれば,きっと資金が調達できるであろう.

 採択理由でも触れたが,このアイデアはIPv6が世の中の標準プロトコルになれば,ほとんど意味がなくなるものである.しかし,IPv6は依然としてくすぶったままである.そのすき間で,若者たちがしっかりとした技術基盤にもとづいて (ここが重要),ビジネスを成功させたという良いサンプルとなってくれることを期待したい.技術立国ならぬ,技術立社 (立人) とでもいうのだろうか.

 なお,PMは今回時間の余裕があまりなく,このようなビジネス指向プロジェクトとオープンソース系プロジェクトを同じ場でワイワイバヤガヤとぶつけ合ってしまったが,このやり方がよかったかどうかについてはもう少し考える必要がある.

山田 ★スーパークリエータに準ずる: 技術でもってベンチャーを伸ばしていくややカリスマ的な実力をもっている.

佐藤 ★スーパークリエータに準ずる: 山田君を支える技術ブレーンとして十分な力を発揮している.

  
(補足)