平成13年度未踏ソフトウェア創造事業


採択案件評価書

1.担当PM  13.金出 武雄
2.採択者氏名  中村 仁彦 (東京大学 大学院情報理工学系研究科 教授)
 山根 克   (東京大学 大学院工学系研究科 博士課程)
 栗原 一貴 (東京大学 大学院工学系研究科 修士課程)
 鈴木 一郎 (東京大学 大学院情報理工学系研究科 修士課程)
3.プロジェクト実施管理組織  財団法人京都高度技術研究所  
4.委託金支払額  12,000,000円
5.テーマ名  <人間の運動・認知情報処理研究のための高度計算基盤ソフトウェア>
6.関連Webサイトへのリンク  
7.テーマ概要

 バイオメカニックス、ロボティクス、人工知能、認知科学、脳科学、臨床医学において人間の運動機能、認知情報処理にかかわる問題が横断的に重要になってきている。本プロジェクトではこれらの問題の研究基盤となる高度計算ソフトウェアの開発を行う。

 具体的には、(1)運動感覚系の高速な双方向性力学計算、(2)数理・解剖的情報とのインタフェース、(3)標準身体モデルと運動パターン、を備え、上記分野における人間の運動解析・生成の基盤となるソフトウェアを開発する。

 本プロジェクトにおいて開発するソフトウェアでは、骨格系・筋腱系を含む人体の詳細モデルを扱うことのできる力学計算を実装し、それをMRI画像や標準人間モデルなどの生理・解剖的情報とシームレスに結合する。これによって、人間の詳細モデルに基づいた、(A) 運動の運動力学系情報、(B) 筋・腱張力、骨応力、皮膚接触力、前庭感覚等の運動感覚系情報、の計算を可能にする。これによって、冒頭の諸分野に共通な定量的な人間運動情報を扱う計算基盤ソフトウェアを提供する。

 人間の運動機能、認知情報処理にかかわる問題は、さまざまな学術分野で横断的に重要になってきている。また、ゲームコンテンツ、映像産業、リハビリテーション、老人医療、臨床医療、先端ロボティクスの産業応用などにおいて、人間の運動機能、認知情報処理を計算支援する技術は社会的および産業的な需要が今後、ますます高まっていくことは疑う余地がない。本プロジェクトで開発する高度計算基盤ソフトウェアの成果は、これらの問題の研究および技術基盤となり、バイオメカニックス、ロボティクス、人工知能、認知科学、脳科学、臨床医学などの学術分野の発展に役立つ。

 また、(1)ゲームコンテンツ、映像産業などのエンターテイメント、(2)リハビリテーション、老人医療、臨床医療などの医療福祉、(3)先端ロボティクスの産業応用などの新規産業、を支援することで社会や産業の発展にも資することができる。

8.採択理由

従来の多関節キネマティクスのみによるモデルから一歩踏み込んで、骨格、筋、腱、皮膚をも含む詳細モデルを扱う力学計算とMRI画像や標準人間モデルデータなどの生理・解剖学的情報と結合したソフトウェアを目指そうとする提案である。
提案者は運動力学計算、特に人体運動解析・生成の第一人者であり、提案はモデルの内容に関する点においても、また計算機ソフトウェアの構成に関しても具体的であり、実現可能性が高い。バイオメカニックス、ロボティクス、人工知能、認知科学、臨床医学などにおいてきわめて有効な基盤的ソフトエアとなることが期待される。

9.プロジェクト概要

バイオメカニックス,ロボティクス,人工知能,認知科学,脳科学,臨床医学において人間の運動機能,認知情報処理にかかわる問題が横断的に重要になってきている.本プロジェクトではこれらの問題の研究基盤となる高度計算ソフトウェアの開発を目的とする.具体的には
(1) 動感覚系の高速な双方向性力学計算
(2) 生理・解剖的情報とのインタフェース
(3) 標準身体モデルと運動パターン
を備え,上記分野における人間の運動解析・生成の基盤となるソフトウェアを開発する.本プロジェクトにおいて開発するソフトウェアでは,骨格系・筋腱系を含む人体の詳細モデルを扱うことのできる力学計算を実装し,それをMRI画像や標準人間モデルなどの生理・解剖的情報と結合できる.これによって,冒頭の諸分野に共通に必要とされる
(A) 運動の運動力学系情報
(B) 筋・腱張力,骨応力,皮膚接触力,前提感覚等の運動感覚系情報
を計算する基盤ソフトウェアを提供する.

10.開発目標

以下の4つの機能を持つソフトウェアを開発することが目標であった.
(ア) MRIデータから作成した身体詳細力学モデル
(イ) モーションキャプチャデータの詳細モデル運動データへの変換機能
(ウ) 詳細モデルを用いた逆動力学計算による運動感覚系情報計算機能
(エ) 詳細モデルを用いた順動力学計算による運動計算機能

11.進捗概要

4目標とも順調な進捗がえられた。

(ア) MRIデータから作成した身体詳細力学モデル
MRI全身骨格データを取得し,これから骨格系の幾何モデルを作成した(現在も修正中).これと並行して市販の骨格系幾何モデルを購入し,筋・腱・靭帯系の開発を実施した.筋・腱・靭帯系をワイヤー駆動系としてモデル化し,腱・靭帯の端点や経由点の情報を骨格系幾何モデルに追加した(現在も一部修正中).このモデル化の形式については運動学,動力学計算を可能にする独特の形式を作成した.このデータ入力は解剖学の教科書に基づいて,手や足の指部を除いて,出来る限り詳細に記述することを心がけた.

(イ) モーションキャプチャデータの詳細モデル運動データへの変換機能
モーションキャプチャーシステムを実時間計測が可能なように高速化した.技術的には光学的反射マーカのラベリング計算と構造データを用いた関節運動データの再構成計算を組み合わせることで高速化を達成した.これを用いて幾つかの典型的な運動パターンデータを取得し,データベースを構成する.

(ウ) 詳細モデルを用いた逆動力学計算による運動感覚系情報計算機能
大自由度の骨格系モデルと筋・腱・靭帯のワイヤー駆動系モデルを用いて, 逆動力学計算により運動に必要な腱の張力を計算する動力学計算アルゴリズムとそのソフトウェアを開発した.骨格系モデル,筋・腱・靭帯系の駆動系モデルの作成もおこなわれた。

(エ) 詳細モデルを用いた順動力学計算による運動計算機能
大自由度の骨格系モデルと筋・腱・靭帯のワイヤー駆動系モデルを用いて,単独プロセッサーによりO(N)の効率をもち,並列処理によりO(logN)の効率を持つ順動力学計算アルゴリズムとそのソフトウェアを開発した.

12.成果

計画されたソフトウエアの開発は多少の方針転換はあったものの機能的にはすべておこなわれた。(1)医療分野の関係者のフィードバックを求めるべく、整形外科,リハビリテーション医療の分野への開発物の紹介を行い,医療関係者との共同研究を計画しつつある。必要な機能とインターフェイスの追加によって製品化を目指す。(2)筋肉の緊張など人間の内的な体性感覚情報のシミュレーションを行うソフトウェアとして,認知科学の研究に用いることが提案され、またロボティクスにおいても人間感覚情報に基づくヒューマンフレンドリ・ロボットの開発などへ利用できるので、このような研究基盤ソフトウェアとしての研究機関への提供が行われている。

13.プロジェクト評価

多関節系の運動力学モデルの研究における第一人者である中村仁彦教授による本プロジェクトはさすがと言わせる成果を生んだといえる。開発されたソフトウエアは1セットとして、世界でも最高レベルの機能を持っていると考えられ、医療、認知、ロボットなど多くの分野での応用が期待される。

本プロジェクトを観察して特に感じたことであるが、このような大学で開発されたソフトウェアに関する知的所有権を管理し,特許やライセンシングなどについて大学の研究者を支援する体制は、各大学で最近ようやく、つくりはじめたことであるが、きわめて弱体である。 IPAでも、そういう支援する体制、あるいはそのような業務を行うベンチャー企業を育成するといったことをやってもよいのではないか。

14.今後の課題

さらに一層の改良(たとえば皮膚のモデルなど)をはかるとともに、本開発物を応用すべき,医療や認知科学などの分野の関係者との協力を行い,それぞれ特化したソフトウェアとして展開することが重要である。