未踏ソフトウェア創造事業 成果評価報告書

プロジェクトマネージャ 竹内 郁雄(電気通信大学)



1.成果評価の基本的な考え方

今回は,未踏ソフトウェア創造事業の初年度であったため,開発期間が実質的に5ヵ月間しかなく,また,この事業の助成を受けた開発の進め方,特に事務処理面についていろいろ未知のところがあり,開発者や本PMに多少の混乱があった.このため,安定した軌道の上に乗った事業の年度予算による (単年度でも通常9〜10ヵ月の開発期間が与えられる) 開発計画と同列に成果を論じるのはやや困難である.成果評価は,5ヵ月という開発期間に対する相対的なものとならざるを得ない.

これを大前提として,本PM (以下単にPMと書く) は評価において以下のポイントを重視した.順番はおおむね重要度の順である.

評価は,A+,A,A-,B+,B,B-,Cの7段階で行なった.

A 優れている
B ふつう (予想通りという意味)
C 劣る

である.AとBにはそれぞれプラスとマイナスの幅をもたせた.この評価はあくまでのPMの主観に基づくものであり,別の見方をする人があり得ることをお断りしておく.

[1] 未踏性: 出来上がった (あるいは少しおまけして,目指した) ソフトウェアやアイデアが,どれほど先駆的であったかの評価.世界中でいろいろなものが同時並行的・競争的に開発されているので,この判断はPMの知識の範囲に束縛されている.

[2] 発展性: 2通りの意味がある.一つはビジネス展開への発展性に対する評価であり,もう一つはフリーソフトウェアあるいはオープンソースなどの形態による発信型開発の普及性・発展性に対する評価である.後者にはさらに二つの側面がある.日本あるいは世界に広く普及するという量的な発展性と,ここで生まれた先駆的ソフトウェアが多方面での協調的開発を誘発して,さらなる質の向上が見込めるという意味での発展性である.

[3] 完成度: 出来上がったソフトウェアがどれほどの完成度であったか.期待された性能や機能が十分に達成されたか.文書化がしっかりしていて,ユーザが使えるようになるまでのバリアが低いか,についての総合的評価.

[4] 生産性: 小人数で,短期間に,豊かな機能をもつソフトウェアを作成した場合,生産性が高いと評価される.これはスーパークリエータに期待される重要な資質である.

[5] 戦略性: プロジェクトが技術開発面以外で戦略的に進められたかどうかの評価.ビジネス展開に向けたものではこういった側面の意義は自明だが,発信型の開発でも発信に関する戦略的な動きがあったかどうかが重要である.

[6] 意外性: 未踏性と類似しているが,計画段階でPMに見えなかったものが,どれほど生み出されたかに関する評価.これもスーパークリエータに期待される一つの重要な資質でもあろう.

これらの評価は開発チーム全体に対する総合評価である.個々人のスーパークリエータ性については必要があればコメントの中で記載することにした.

このほか,この事業は国の予算を使った助成であるので,コストパフォーマンスに対してなにか印象的なことがあれば評価の対象とした.また,プロジェクト運営状態についてもなにか印象的なことがあれば評価の参考とした.

2.各プロジェクトの詳細評価とコメント

プロジェクト名には申請代表者の名前を冠した.なお,提案概要と採択理由は,それぞれ提案時と採択時のままであるが,読みやすさのために字句の統一などに関わるような修正だけは行なってある.

成果の概要は,内容量や記述の統一をとるために,開発者の報告や,開発者とのミーティング情報をもとにすべてPMが自分が理解できる言葉で書いた.開発者の意を正しく汲んでいなかったらご容赦願いたい.開発者自身による報告はIPAに申請すれば閲覧できるはずであるが,一部ノウハウに関わる情報が含まれており,見ることのできない部分があるかもしれない.



なお、詳細評価は、プロジェクト毎に参照されたい。



3.総評

短期間のプロジェクトを9個同時にマネージすることは大変である.2000年度はPMにほかの公務もあり,一つのプロジェクト当たりに割ける時間が少なかった.プロジェクトの開発者諸氏にお詫びしたい.しかし,かなりの議論をメールでできて,大枠でとんでもないミスが起きなかったことは幸いであった.

PMの基本スタンスは,開発者が特に困っているふうではないかぎり,個別の技術的な詳細にあまり口をはさまないことであった.もともとそんなところで細かい「指導」ができるほどの才覚はないのだからそれは当然で,未踏ソフトウェア創造事業であれば,開発者には,むしろPMの予想をいつも裏切るくらい翔んでくれることを期待したい.

今回の事業は実施期間が5ヵ月ということもあり,PMはこの短い期間にある程度のものができそうな提案を中心に選択的な採択をした.つまり,それまでにある程度の積み上げがあるものを中心にした.この方針は,プロジェクト実施期間が倍ぐらいになる次年度にも継承しようと考えている.この事業に応募しようという方は予備的な検討はすませておいていただきたいと思う.さすがにアイデア1本だけで勝負を挑まれると,よほどのものでないかぎり,あるいは提案者によほどの信頼がおけないかぎり採択は難しい.

それにしても5ヵ月は短かった.大半のプロジェクトは一応動くソフトウェアができても細部の詰めやドキュメントを完備するには至らなかった.これはやむを得ない.むしろ,これだけの短期間にそれなりの成果を上げてもらったことに感謝したい.2月末の期限を過ぎても,開発や文書化が進み,いわば「駆け込み成果」があったプロジェクトもあり,そのたびに評価を上方修正しないといけないという嬉しい悲鳴もあった.

未踏ソフトウェア創造事業が初年度であり,かつ前代未聞の仕組みをもった事業だったので,PMはもちろん,開発者,支援組織,さらにはIPAの方まで,事業の進め方について慣れない点があり,PMは最初のころはその応対に追われた.しかし,IPAの方々の前向きの姿勢に助けられて,大きな混乱を生じないですんだ.

さて,申請の審査の段階から少し気になっていたが,この事業の目的や趣旨がまだ正確には世の中に浸透していなかったようである.PMはこの事業の趣旨を他省庁の研究助成,たとえば科学研究補助費などとはっきり峻別したつもりであった.しかし,申請の中には,未踏ソフトウェアを個人あるいは小人数で戦略的に開発するという趣旨を誤解しているものが少なからずあった.実は,このような誤解は,PMが採択したプロジェクトのいくつかにも暗々裏にあったようである.次年度以降は,このような誤解がなくなることを期待したい.

PMの採択したプロジェクトは,ビジネス指向のものよりも,ソフトウェア発信型のほうが多かったが,予算金額は逆転している.もっとも,ビジネス指向に見えて,和田さんのプロジェクトは実際はかなり基礎技術指向に振られたし,湯澤さんのプロジェクトも日本のゲーム業界の新機軸展開に寄与したいという半ば (以上) ソフトウェア発信型であった.なので,結果的にはほとんどのものが期間内にはビジネス展開への直接のリンクを見出せなかった.山本さんのプロジェクトは独立行政法人化する産業総合研究所の中で,産業界と直接リエゾンするプロジェクトに発展していくのかどうか,期待をもって見守りたい.唯一近々直接ビジネスにリンクする可能性のあるのは仙石さんのプロジェクトである.
ただ,携帯電話業界のいろいろな (技術的または政策的) ジガラミがあって,いろいろ壁がありそうだ.でもなんとかなると期待したい.これは短期決戦でいってほしい.

ソフトウェア発信型であれば,発信に対する戦略的な動きが必要である.PMはこの方針を早いうちから各プロジェクトにもっと後押ししておけばよかったと反省している.

PMはすべてのプロジェクトに対して,デフォールトとしての継続はないと申し上げた.継続の希望を内々にいくつかのプロジェクトから伺ったが,とりあえずそのようにお答えした.与えられた期間で真剣勝負を挑んでいただきたかったからである.これは限られた原資のもとで,事業のマンネリ化を防ぐために重要なポイントである.しかし,継続に値するプロジェクトがあることも事実である.