平成12年度未踏ソフトウェア創造事業
採択案件評価書
| 1.担当PM | 6.竹内 郁雄 |
| 2.採択者氏名 | 和田 健之介 (元株式会社ATR人間情報通信研究所),和田 佳子,金子 勇,石井 卓良,中口 孝雄,星 和明 |
| 3.プロジェクト実施管理組織 | 合資会社 コムフレックス |
| 4.委託金支払額 | 35,991,062円 |
| 5.テーマ名 | 双方向型ネットワーク対応仮想空間共同構築システム |
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6.テーマ概要 提案する双方向型ネットワーク対応仮想空間共同構築システムは,さまざまな技術要素を組み合わせた総合的なシステムで,基本システムのネットワーク対応型VRシステムに,次のようなオリジナルの技術を付加することによって,従来のWEB3Dやネットワークゲームにはなかった斬新な機能を持つように構成される. (1) 動的に故障を回避するネットワークシステム: ネットワーク回線が切れたり,PCがクラッシュしてもその異常がネットワーク全体に波及せずにセッションが継続できる. (2) 完全自律型アバタ: アバタは視覚・触覚センサなどの入力情報をリアルタイムで処理して,周囲の環境情報と自分の内部状態 (栄養状態や気分など) を照合して自律的に行動する. (3) 進化システム機構: アバタの行動基準となる各ルールを簡単なアンケート形式でプログラミングすることができ,これとシームレスに結合した進化機構を効率的に利用することが可能. (4) ワールドイベントの同期保証: 3Dワールドをネットワークで繋ぎ,少ない通信コストでワールドイベントの同期をとり,マシンの性能の違いを吸収できる. (5) 双方向型3Dモデラー: 3Dモデラーは,ネットワーク・ワールドビューワーとドラッグ&ドロップだけで双方向にデータをやり取りでき,他のユーザの3Dデータをリサイクルできる. (6) 3Dイフェクト・オブジェクト: 3Dモデラーは形状やアニメーションの他に,相手を大きくしたり,透明にしたり,動作を与えたり,と様々な3Dイフェクトを簡単に付加することができる. (7) 適応インターフェース: 3Dモデラーはユーザの習熟度に応じて,使えるメニューや機能が徐々に増えていくようになっているので,初心者でも扱いやすい. (8) ワールド間の動的サーバ切替機能: 各ワールドの概要とアドレスをロビーサーバに登録することによって,他のユーザが訪問することができる.各ワールドのサーバを動的に切替える機能を利用すれば,ワールド間を接続してより大きなワールドを構築することも可能. このような機能を使って,ユーザ同士で3Dデータを交換するショップや不思議の国の体験館,ボートの浮かぶ池や遊園地などの3Dワールドを作成し,そのコミュニティの中のユーザ同士で夢を膨らませながら,徐々に自分たちの理想とする世界のシナリオを描いていくことができる. |
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7.採択理由 元来バーチャコペット (Virtual-CoPET) と名付けられたこの仮想世界共同構築システムは,これまでにつくられた同種のシステムに対して,ネットワークの基礎技術面においても,アバタ (仮想世界に生きるエージェント) が自律的に,かつ進化しながら動くという点においても,ユーザが双方向的に3Dモデリングを楽しめるという点においても,新しい技術的ポイントがある. このシステムは,提案者が大学院学生時代から約20年間さまざまな環境でさまざまな支援を受けて開発を続けてきた夢と執念が結晶として実現する最終段階に達したレベルでの提案である.たしかに,現在の完成度のままでは一挙にビジネス展開に持ち込むのは困難であると思われるが,本事業によって計画通りの完成度が得られれば,利用者の参加度合の高い仮想空間システムという特徴を生かしてビジネス展開する可能性が大いにある (すでに引き合いがあると聞いている). これまで小数精鋭 (3人) で開発を進めてきており,本事業のスーパークリエータ発掘の趣旨にも合致する.背景にある技術水準は極めて高い.なお,最近始まった京都府からの援助に起因し得る知的所有権の制限の問題はすでにクリアされている.これは,京都府の (京都での起業を前提とした) ベンチャー育成予算による援助とのことである. |
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8.得られた成果の概要 プロジェクトは,提案にあったバーチャコペットの論理構造を改良し,安定化させるのとは異なる方向に進んだ.バーチャコペットの弱点であった3Dコンテンツを,通信に必要な基本情報量をきわめて低く抑えたまま,徹底的に高品質化する方向に向かった.この結果,見た目に豊かなワールド (仮想世界) の共同構築がネットワーク越しでも容易に行なえるようになった. プロジェクトは,開発のベースをバーチャコペットのDirectXからOpenGLに変更することにより,より高品質の3Dアニメーションを実現した.具体的には (1) 四元数 (quaternian) を使った滑らかなアニメーション補間 DirectX組込みの補間機能より滑らかな補間機能を3種類作成した.滑らかさや「色っぽさ」などにそれぞれ特徴があり,それらをキャラクタの関節ごとに指定できる.これを使うと,例えば自然な歩行のアニメがわずか4個のキーフレームで表現できる (どのショットを選ぶかにはやや才能が必要だが).この補間はリアルタイムで計算されるが,アニメーションの品質はモーションキャプチャ方式に近い.しかし,必要な情報量は少ないので,ネットワーク環境に適している. (2) アクティブッセンサを搭載した自律型アバタ このシステムでは,通常のワールドと異なり,アバタが自分で世界をセンスするようにしている (こうすると動的に世界の構造が変わってもよい).従来のバーチャコペットはDirectXの組込みの関数を使っていたが,これをOpenGLで全面的に作り直した.キャラクタには7方向のセンサがあり,地面,天井,前面にある物体の認識を行なう.センサの計算負荷を下げるために,数々の工夫を創案した. (3) オリジナルの高速演算方式による物理シミュレーション 本来はスーパーコンピュータ級の計算を要する物理シミュレーションを,いわば疑似物理学を用いて行なう独自の方式を開発し,計算量を劇的に減らした.これにより,ふつうのPCを使っても,リアルタイムで,外見上は通常の力学現象と酷似した衝突シミュレーションを行なうことが可能となった.この成果はNHKの「クローズアップ現代」で紹介された. (4) アバタによるワールドオブジェクトの切断 ワールドにある物体をキャラクタが自由に切断できるようにした.こうすることにより,木を切って加工して,物をつくるといったことが原理的に可能になる.このようにオブジェクトが自由に分割して増えていく機能はこれまでの仮想空間システムには存在しなかったものである. ![]() [怪盗Xが青竹を斜めに切ったあと,切られた上のほうをジャンプしながら縦割りしているところである.このあといくつに切り刻んでもよいが,さすがに計算の負荷が重くなる.] (5) 物理演算を含むワールドイベントの同期保証を行なう通信制御 上記(3)の「物理シミュレーション」は,複雑な衝突が起こるとカオス的な振る舞いを起こす.これを分散したコンピュータ上で並行して行なうと,あちこちに異なるワールドができる,いわゆるパラレルワールドの弊害が生じる.これを防ぐため,まずサーバー集中管理による対策を完成した.これは,さらに改良を加えて,分散管理方式へ成長させるためのプロトタイプである. (6) ドラグ&ドロップによるワールドオブジェクトの動的追加 ネットワークにつながった状態で,いつでもドラグ&ドロップで別につくっておいたオブジェクトをワールドに持ち込むことができる.これによって,ユーザたちが大きなワールドを共同で構築できるようになる. (7) オリジナルのワールドを作成するための編集機能 ユーザがカスタムメイドのキャラクタやオブジェクトをワールドに持ち込めるようにするための編集機能を作成した.これはフリーソフトウェアである「六角大王」と「HumanMDL」をベースにしている. これらの機能により,ネットワーク越しでも非常に豊かな3Dワールドが構築できるようになった.典型的には,ネットワーク越しで,鬼ごっこ,かくれんぼ,キャッチボール,ミニサッカー,ボーリング大会などが行なえる.特にサッカーやボーリングは専用プログラムをつくることなく,上に述べた汎用物理シミュレーションを行なうだけで可能になる.つまり,ユーザたちが自由に遊び方を創造できる. ![]() [多くのキャラクタが思い思いのボール(?)を持ち寄って,ボーリングを楽しんでいるところ.いま,PMがお気に入りの銀ピカロボットがボールを投げたところで,残っている3本が倒れるかどうかがお楽しみ.ネットワーク上のほかのキャラクタにはこれが違った視点で見えている.] |
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9.プロジェクトや成果に対するコメント PMにとってまったく予想外の方向に展開し,それが未踏ならではの成果を生み出したプロジェクトである.当初の計画に入っていなかった3名のまさにサスライのプログラマたち (金子,石井,星) が加わり,開発者の人数こそちょっと多くなったものの,全員が実に有機的に連係してプロジェクトを遂行した.全員が月に1〜2度,4〜6日 (実際は半徹夜) の合宿形式で共同作業を行ない,そのたびに2歩も3歩も前進したという集中力にはただただ驚かされる.PMが現地を訪問するたびに,新しい技術やアイデアが導入されていた.また,それが開発者全員の「動かしてやるぞ」というプロ意識の所産であった.まさにスーパークリエータ集団である. 未踏ソフトウェア創造事業の本来の趣旨の一つは才能ある個人の発掘である.PMはそれが可能かどうか一抹の不安があったが,和田さんのプロジェクトを見て,まだ日本も捨てたものではないと思うに至った. このプロジェクトはNHKの「クローズアップ現代」 (2001年1月29日放送,視聴率10%以上) でも取り上げられ,未踏ソフトウェア創造事業を多くの人に理解してもらうのに貢献した. このプロジェクトのベースは和田さんたちが長年にわたって開発してきたバーチャコペットであるが,いまや見た目の品質はまったく別次元のものである.提案にあった学習・進化,自律エージェント,ユーザインタフェースなどを発展させるといった課題はほとんどすべて積み残しとなったが,得られた成果はそれを補って余りある.特に,このような3Dグラフィックスの作成に携わっている専門家が見ると驚く新技術に満ちている.それにしても,教科書でしか見掛けなかった四元数にこんな応用があったとはPMも浅学にして知らなかった. PMはこのプロジェクトの未踏性に唯一 A+ という評価をつけたが,開発者たちのそれぞれの持ち味 (つまり自前の技術) が,出会いの瞬間から見事に有機的に結合して,創発ともいえるレベルに達したことを特に高く評価したということである. 白状すると,本人たちが面白いと思う方向を突き詰めていくこのやり方でいいと本当にPMが思うようになったのはプロジェクト期間の半ばである.このやり方でこそ創造が生まれるとようやく理解できたからである.というわけで,教えられたことのほうが多かった. |
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10.今後の展開に向けてのコメント 一見すると,すぐにビジネスに結びつきそうなプロジェクトであるが (NHKの番組でもそのように紹介された),現在のトップ性能のビデオカードで得られる3Dグラフィックスを極めるプロジェクトでもあった.この技術をすぐなにかのビジネスに結びつけるには,少し頭を絞らないといけないだろう.2001年はネットワークゲームがブレークすると言われているが,和田さんたちのシステムはまた1〜2歩先に進んでしまったようである. 和田さんたちは大きな企業に属していない個人なので,ここで生まれた成果をなんらかの形でビジネスに乗せて日銭を稼がなければならない.要素技術の切り売りという方法,あるパックにしてライセンスを供与するという方法などいろいろなことが考えられるが,これらの成果を無駄に埋もれさせないようにしていただきたい.PMもできるかぎりの協力をするつもりである. 積み残した技術課題もさることながら,このプロジェクトで開発された豊かなアニメーション技術やオブジェクトモデルを,ゲームや仮想世界のユーザが十分に活かせるようにするための新たな技術課題やアイデアも生じたように思われる.つまり,未踏の領域がさらに広がった.しかし,そのような領域に深く踏み込んでいくとともに,あるところで具体的なシステムをまとめて世に問う作業を行なうことも必要だろう. 前途は多難だが,洋々としている.このプロジェクトから新しいサクセスストーリを生み出せるよう,さらなる前進を期待する |
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11.評価の定量的なまとめ [1] 未踏性 A+ PMはこのプロジェクトにきわめて高い未踏性を感じた [2] 発展性 A いかように発展させるか,選択肢はいくらでもありそうだが… [3] 完成度 A- やや作りっぱなしの印象はあるが,見れば誰もが納得 [4] 生産性 A 恐るべき集中力とプロ意識 [5] 戦略性 B+ 戦略は十分にあると思うが,もう一工夫が必要か [6] 意外性 A+ プロジェクト開始時のPMの想像を大きく超えた |
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