未踏ソフトウェア創造事業 成果評価報告書

プロジェクトマネ−ジャ 上林弥彦(京都大学)


1. 選考の立場



1.1 対象分野

 今回の選考は各PMが責任を持つということであるため、対象としては自分が評価しやすいデータベース関係に絞り公募した。



1.2 ビジネスセンスが中心でない理由

 我々のところの選考基準では、ビル・ゲイツ的な人である条件は重視していない。ビル・ゲイツはよく知られているように、BASIC(DEC社のBASICを見て作った)、OS(CP/Mから)、さらにWindows(マッキントッシュ)、Internet Explorer(Netscape)といったように、ビジネスセンスでは優れているが、発明はあまりないと考えたからである。すなわち、我々のグループではビジネスセンスも非常に重要であるが、それよりも、自分で新しいものをつくる能力があるというのを重視した。

 最近、学生ベンチャーが結構はやっているが、業務内容が新しいというよりも需要の多いところをカバーしていることが多い。このため、ビジネスの可能性がすぐにあるというのは重要視せず本人の能力に注目して選定した。しかし、かなりの採択テーマにビジネスの可能性があると考えている。



1.3 その他の条件

 文部省の科学研究費やIPAの他のプロジェクト向きのものや、大学の研究室の仕事を学生がやっているようなものは避け、より個人的なものを重視した。
また、実際には既存のクリエーターの人達も何人か応募していたが、よそのPMのところにも応募があり、十分そこでも採用されるという可能性があったので、そういう人を避けたということになっている。これは既存クリエーターよりも、むしろ新しい人に活躍してもらう方が面白いのではなかと考えた結果である。学生の方は当初は育成のつもりであったが、相当高度な提案が多く出された。



2. 採用予定タイプ



次の3つのタイプを考える

[タイプ1] 検索エンジンGoogleは、スタンフォードの博士課程を出たLarry Pageらによって開発されており、短期間の間に検索のヒット率が高いことや、網羅しているデータ量が多いために非常によく利用されるようになった。最近では10億ぐらいのウェブページを網羅しトップになったが、これはやはり研究能力ということが利いている。とくに情報関係で新しいことをやる場合に、研究を遂行するための基礎的知識と能力があるかどうかで、システムの良さが決まるような部分がある。たとえば、各種の検索エンジンの提案者はほとんど大学関係者(大学院学生が多い)である。シリコンバレーで活躍している人から、技術革新が早いために、どんどん新しいことに挑戦しなけらはならず、継続的に成功している人は博士号を持っている人が多いという話も聞いている。



[タイプ2]プログラム能力があるが、まだ若くて今までの制約とかを無視して考えることができるほど発想が柔軟であることを期待したものをタイプ2としている。その代表格がNapsterの開発者Shawn Fanningで、99年に当時ノースイースタン大学1年生の時に開発している。現在裁判の問題はあるがP2Pの基本システムとして期待されており、知的所有権など既成概念にとらわれなかったのがよかったと考えられる。


[タイプ3]さらにタイプ3として、高度のプログラム作成能力と独創性を持ち有用かつオープンなソフトを開発するもので、Linuxのような標準を目指すものを考えている。



3.広報活動

以下のようにビラとポスターを準備し、九州大学, 神戸大学, 京都大学, 東京大学等で広報活動を行った。



通産省の未踏ソフトウェア創造事業について

通産省の未踏ソフトウェア創造事業では、スーパークリエーターをより積極的に発掘するため、12人のプロジェクト・マネージャー(審査委員:氏名公開、以下、「PM」という。)を登用し、原則PM個人の評価により採択案件を決定する方式を採用することとなった。これに喜連川先生のご努力でデータベース分野がふくまれることになったのでぜひとも積極的な応募をお願いしたい。

締め切り:8月4日(金)の消印有効 詳細はIPAのホームページhttp://www.ipa.go.jp/に掲載。8月中に決定、来年3月までの7月で、一件当たり500万円から3000万円程度を想定し5件程度(別に50万円程度の小規模なものもある)。開発物は国のものではなく開発者に属する。

対象者 :独創的な技術もしくはビジネスシーズを有する個人又は個人のグループ。ただし、法人格を有したプロジェクト実施管理組織の協力を得ることが必要。



PM上林弥彦の募集条件など (略歴:1970年 京都大学工学博士 84年 九州大学教授 90年 京都大学教授、この間イリノイ大学助手、マッギル大学・クウェート大学・武漢大学の客員教授 95年ACM SIGMOD貢献賞受賞)

公募対象プロジェクトの性格

データベース技術とネットワーク技術の融合は新しい情報通信革命をもたらしている。この技術は電子出版や電子図書館、ウェブ上の情報検索などの新しい情報流通形態に限らず、電子商取引への応用も含めた分野にも大きな影響を持つ。さらにネットワーク上での協調作業や仮想組織、仮想社会といったものも実現されつつある。このようなデータベース技術とネットワーク技術、さらに情報可視化技術などを用いたシステムの提案を特に歓迎するが、一般に大量データを対象とするものなら研究的側面の強いものもよい。個人またはグループによる次の3種類の形態を考えている。

タイプ1:新規性が高くかつ実用性も高いもの

タイプ2:既存の技術の延長ではあるが、オープンなソフトウェア開発環境を利用してLINUXのような標準を目指すもの

タイプ3:大学2年生位以下(高校含む)で将来性のある学生(予算が50?100万円くらい)

タイプ1と2の採用プロジェクトの参加者に、関連技術である電子図書館の国際会議(11月中旬京都)参加とシリコンバレーツアーを計画している。

提案テーマ群詳細説明記入要領 及び 審査基準

書類選考後、候補者を絞った上で面接を行う。

 詳細説明においては、以下の項目について、様式-3に15ページ以内(タイプ3は5ページ以内)で記述する。

1) 提案の内容およびそれを一枚にまとめた図

2) 提案の目的、背景、および新規性

3) 具体的な進め方、スケジュール 費用の明細

4) 期待される効果 終了後の展望(一般化の方向や企業化など)

 この他、提案者がこれまでに作成した代表的ソフトウェアを添付すること。このソフトウェアについては、動作確認ができるための仕様書を添付すること。その他本人の能力を判断するための参考になるもの(ソフトの配付状況、論文リストなど)があれば望ましい。

審査にあたっては、アイデアの面白さと少なくともプロトタイプ作成のできる計画であることを重視。



4. 採択者のタイプ分け



 採択者を1で示したタイプで分けると下記のようになる。



タイプ1

 「オープンXMLプロセッサを利用した分散データベースソフトウェア」

   山本 泰宇 東大大学院学生

 「確率ネットワークによるユーザモデル構築システム」

   本村 陽一 電子技術総合研究所

 「携帯端末を用いた質問偏在型データベース環境の実現」

   木實 新一 コロラド大学研究員

 「テレビ型Web視聴システムの開発」

   灘本 明代 神戸大大学院学生



タイプ2

 「プラットフォーム非依存な汎用ネットワークエージェントシステム」

   銭谷 謙吾 京大学生

 「安全な電子商取引を目的としたデータベースの新しい認証法の設計」

   荻野 哲男 京大学生

 「移動通信体(iモード)とWWW及びデータベースの連係による、検索通知型サービス」

  木村 健一郎 九大大学院学生

 「自然言語パートを含む暗意ー実現モデルによる自動作曲システム」

   荒牧 英治 京大大学院学生 100万円



タイプ3

 「GNU Emacsenにおける複数のMUAで共有可能なInternet Messageのための汎用部品の開発」

   守岡 知彦 京大助手

 

 特にタイプ2はスーパークリエータ育成の意味もあり監督可能な京大生を中心としたが、皆個性豊かな学生であり、面白い成果が出ると確信している。また、宣伝を行った場所が影響して採用者に関西地区が多いが、今回のほとんどのPMが東京地区であるため、地域的なバランスの問題はないと考えている。また女性ひとり、外国在住者ひとりも含まれている。



 山本さんは、非常に自由度の高いオープンXMLプロセッサを利用した分散データベースソフトウェア、本村さんは、かしこい利用者インタフェース、木實さんは質問レンズという概念を導入している。灘本さんは、ウェブページを閲覧するための新しい利用者インタフェースを提案している。荻野さんからは、動的なセキュリティ方式や電子商取引におけるプライバシー保護の提案があり、最年少の銭谷さんは動的に変化させ得るエージェントの開発と利用、木村さんは、携帯電話を使った新しいビジネスプランとデータベースを結び付けたものを考えている。荒巻さんは、言語理論などを用いた作曲システムで、守岡さんは、従来からの仕事であるGNU EmacsにおけるInternet Message のための汎用部品の開発およびその標準化を考えている。



5.採用者の内容

 これについては、個別テーマ毎に参照されたい。



6.シリコンバレー視察旅行



未踏ソフトウェアの上林グループには、守岡さん以外の全員が開発補助者も参加し、それ以外に京大の横田助手が参加して9日から15日にかけてシリコンバレーの調査旅行を行った。参加者はコロラド大学の木實新一さん、それから荻野グループでは京都大学の4回生の荻野哲男さん、それから共同研究者の高見真也さん、神戸大学の灘本グループでは灘本明代さんと服部多栄子さん、それから京都大学の銭谷グループでは銭谷謙吾さんと京都大学の経済学部の学生の井上勝義さん、慶応大学の学生である妻野光宏さん、九州大学の木村健一郎さん、京都大学の荒巻英治さん、東京大学の山本泰宇さん、それから電子技術研究所の本村陽一さんと原功さん、全体で16人である。

(スケジュール)

1月 9日 夕方出発

       同日着 空港近くで宿泊 時差調整

   10日 スタンフォード大学

   11日 HP  開発者による発表(1)

       SUN 

   12日 FileMaker

       FileMakerの副社長 Chung Le Viet 博士

 開発者による発表(2)

       夕方は

       Dellの元副社長  Doug MacGregor博士

       MCCの元副社長 Marek Rusinkiewicz博士

       開発者による発表(3)

   13日 サンタクララの京大シンポジゥム参加

   14日 出発 16日 日本

       一部の参加者はシアトルへ



7.最終発表会

 最終発表会は2月22日に行った。午前中は最終報告の書類の打ち合わせを行ない、午後は発表会を行い、夜 懇親会を開催した。途中14時半から15時半にかけてベンチャーの雄である堀場製作所の堀場会長との会合も行った。次のようなスケジュールとなった。



8.平成12年度の成果評価

 平成12年度は開始が遅れたため、中間報告を1月に最終報告を2月に行った。その間、アメリカでスタンフォード大学見学、SUN見学のほか、ヒューレットパッカードとファイルメーカでは見学のほかに各人の成果発表会も行った。学生は日本語でも発表したことがなかったのに、徹夜で準備して英語で発表したという点では非常によかったと思う。心配したが物怖じしないで皆がんばってくれたと思う。さらに、MCCとデルの元副社長2人の前での個人的発表や堀場製作所の堀場会長との懇談などでも積極的に発言しており頼もしい人が多いと感じた。学生を主な対象としたのでこのような人材育成型の行事を行ったがこれについては参加者には非常に好評であった。


 外部的に見える主な成果としては、社長が2人生まれたこと、ACMのプログラミングコンテストで日本代表チームの3人のうちのひとりが未踏のメンバーであったことである。



9.PMとしての感想

 文部省やIPAの他のプロジェクトと性格が違うということを意識してやったがその点では一応の成果が出たと考えている。学生を主な対象としたのは、教育面にも興味があったことで、アメリカでの発表は教育的成果があったと考えている。ハッカー的な性格の人を対象としたので、時間どうりに報告がでない、ワードやエクセルは大嫌い、とつぜん連絡がとれなくなる、いなくなる、といった面があったが、優等生を相手にしていない以上しょうがないと思う。事務を担当したアステムやIPAには迷惑をおかけした。

 若い人を相手にしたので、このプロジェクトで人生が変わった人がいる点、影響力があったということと責任も感じている。社長になった木村君、高見君、その影響で会社設立を考えてる荻野君、マスコミで超有名人となった銭谷君、企業と学生の2足の草鞋をはいていたが、未踏に専念するため企業をやめることになってしまった灘本さんなどがその例である。      (以上)