平成12年度未踏ソフトウェア創造事業
採択案件評価書
| 1.担当PM | 1.大黒 晶議 |
| 2.採択者氏名 | 飯塚 豊 (有限会社スーパーストリング) |
| 3.プロジェクト実施管理組織 | 株式会社三菱総合研究所 |
| 4.委託金支払額 | 33,594,607円 |
| 5.テーマ名 | 「パーソナルサイズのマルチエージェント環境AirWeb」 |
| 6.関連Webサイトへのリンク | http://www.airclub.org/ |
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7.テーマ概要 WWW が本格的に普及し始めてから5年以上経過し、インターネット上に蓄えられる情報は現在も加速度的に増えている。しかし、新しいサイトの発見や、決まったサイトの定点観測、コミュニティサイトへの参加、携帯端末への転送、サイトの検索、必要な情報の保存など、ほとんどのユーザは手作業で行っているのが実情である。一部で自動処理(ロボットや購読機能など)が行われているケースもあるが、たくわえる情報のフォーマットがまちまちであり、操作性も統一されていない。また、とくに個人の環境の場合、情報の保管場所が一元化されていないことによる情報の再利用が困難となっているケースも多い。 たとえば最近流行しているウェブ上でのコミュニケーションサイト(掲示板など)は、HTML の構造がまちまちで CGI のコマンドも複雑であることから、単純なミラーリング形式のオートパイロットでは情報を取得することが難しい。 これは主としてWWWのデータが正規化されていない点に負う部分が多い。現在主流の HTML は、その簡易な書き方とブラウザ上での表現力の高さから広く利用されてきたが、文書管理という本来のSGML の持っていた意味はほとんど失われてしまった。XML など、ドキュメントの論理構造と表現を分離する手段は現れてきてはいるが、依然として主流は HTML にとどまっている。 アナロジーで考えればこの状況は15年ほど前にパソコン通信が流行しはじめ、多種多様な草の根ホストが現れ、その後に大手のパソコン通信業者が現れた頃と似ている。当時のパソコン通信の操作とは難易度は異なるものの、利用者が手動でコマンドを出し出力された情報をただ眺めるだけ(あるいは単一のログファイルに記録するだけ)で終わっているという点では、現在の WWW を取り巻く状況はさして違いはない。またコマンドの体系や情報のフォーマットがサイトごとに異なっている点も似ている。 さらに現在では、WWW の利用はデスクトップパソコンに限らず、携帯電話やカーナビゲーション、果てはインターネット冷蔵庫まで多種多様に拡散している。これら多数の機器との連携という、大きなネットワーク的な視点がソフトウェアには求められている。 ネットワークの負荷の分散という点からも高性能なクライアントソフトウェアが望まれていると考える。現在は、できるだけ多くの機能をサーバに持つ手法が主流となりつつあるが(たとえばMy Yahoo!など)、これはネットワークの輻輳およびサーバの過負荷を招きやすい。インタラクティブに操作することを前提としてリッチなユーザインタフェース要素もすべて転送し、個人的な情報もホストに保存しているからである。 必要な情報のみ抜き取り、後の処理はユーザ側で行うようにすれば、最小限の転送に抑えることが可能となる。アクセスが楽になる分、転送量は増えるのではないかという意見があるが、必要な情報の密度は確実に高まっているはずであり、これはネットワークを利用する本来の意味ではないかと私は考えている。 ネットワークの接続という視点では、クライアントソフトウェア同士で通信しあう機能も考慮すべきである。すなわち、サーバは ユーザ同士を結びつけるための仲介役までとし、クライアントもサーバもユーザサイドにあるソフトウェア でまかなうような使い方も考えられる。 つまりブロードバンドの常時接続が当たり前となるこれからの時代のネットワークモデルでは、ブロードキャスト型のクライアントだけでなく、ピアトゥピア型のコネクションも視野に入れていという点で、既存のウェブソフトウェアとは質的に異なる環境が必要となる。何でもかんでも詰め込んだサーバと貧弱なクライアントという図式ではなく、ユーザの視点に立った情報管理技術が求められている。 私は、学生時代の1987年に最初のロボット型通信ソフトを開発し、1990年には仮想機械上に通信環境を構築するコンセプトをたちあげ、その後の日本におけるオートパイロット環境全盛の時代のルーツを作り上げた1人である。コンピュータにとって扱いやすいという非人間的な「簡易言語」ではなく、本格的なプログラミング言語を装備しユーザレベルで通信環境を構築できるプラットホームだった。 とくに 1990年に開発を行った Program of the air は、その後の Java の到来を予見させ、通信環境とマルチプラットホームのあり方を提示して見せたと考えている。仮想機械と言語との分離、アプレットのオペレーティングシステムからの独立(マルチプラットホーム)、通信ホストの操作性をアプレットで吸収しどのホストも同じ操作で利用できるというコンセプトを、当時の貧弱な MS-DOS 上で実現した。この airの開発には、OS、言語処理、データ処理、デバイスドライバなど、情報科学に関するオールラウンドな知識が総動員された。日本において通信環境のありかた(オートパイロット、ブラウザ、エディタの渾然一体となった環境)を多くのユーザとともに布教してまわったのも最初だったと記憶している。 オートパイロットは通話料金の軽減という意味で多くのユーザの心を捉えたが、実はもっと大切な役割があった。それはネットワークを誰でも気軽に使えるようにしたという点である。それにより、ニフティのフォーラムには圧倒的に豊富な情報が集まるようになった。オートパイロットは、アクティブユーザというコミュニティのリーダーの育成に必要だったのである。また、当時ニフティ最大のフォーラムでは、大量の保守作業もオートパイロットによって自動化されていたということを忘れてはいけない。サーバサイドとクライアントサイド双方の処理能力の大幅な向上により、コミュニティが活性化されたのである。 このような経験および考察を踏まえ、WWWにおいてサイトの違いを吸収し、必要な情報を自動で取得し、ローカルのデータベースエンジンで情報の正規化を行ない、閲覧や発信、検索、あるいは情報の自動抽出ができる統合型環境 AirWeb を考案するにいたった。要は10年前に自分が作り上げたコンセプトの焼き直しであるが、まだ誰もやっていないのでやらない法はないというわけである。世間でのメーラーの開発ブームは一段落したが、次に来る波は WWW の情報管理だと私は考えている。そして、この技術は今後5年以上に渡って改良できるものと考えている。ネットワーク上の開発者のコラボレーションによって成長できる環境に設計してあるからである。 AirWeb の設計は 1997 年からはじまり、本格的なプログラミングも 1998 年に開始をしている。最初のバージョンは Windows をターゲットとしている。しかし、本体だけで 25万ステップ以上の膨大なプログラムであるため、まだ完成をしていない。最初の完成版の一般リリースは 2001 年春〜夏を目標とし、現在、詰めの作業に入っている。内蔵のデータベースエンジンの高機能化や、全体のユーザインタフェースの修正、エージェントの使用するライブラリの充実、互換性の検証、エージェントの自動更新を行うライブアップデート機構、検索エンジン、情報の自動抽出など、完成度の要求される部分はまだまだある。 本事業においては、今まで開発が困難であったサーバの機能充実をメインとして、以下のような開発を行う予定である。AirWeb は、AirWeb 本体のほかに AirWeb 用センターサーバ、エージェントの3つの部分から成り立っている。そのためプロジェクトのサイズは巨大であり、単体のユーティリティの開発規模を大きく超える。 1. AirWeb センターサーバにエージェントのカタログデータベースシステムの構築 2. エージェントカタログデータベースと連動する自動インストール機構の開発 3. エージェントカタログデータベースと連動する掲示板システムの開発 4. エージェントカタログデータベースと連動するエージェント評価システムの開発 5. AirWeb 用サーバのユーザインタフェースの向上 6. エージェントに対するニーズの調査 7. HTML/XMLの解析手法の研究開発 8. 30種類以上の標準エージェントの企画・設計・開発 9. エージェント開発資料の作成 10.エージェント開発環境の改良 11.AirWeb 本体のHTML/XMLページ解析・編集機能の向上 12.AirWeb 本体の対応プロトコルの拡大 13.AirWeb 本体のデータベースの機能向上(対応フォーマットの拡大と検索機能) 14.AirWeb 本体の仕様書の作成 15.AirWeb エージェント開発者コミュニティの形成 この開発事業により、ながらくプロトタイプ状態の AirWeb を一気にベータ版まで引き上げ、AirWeb センターサーバを用意し、基本的なエージェントをそろえ、開発環境を充実させることで、完成版ではないが一般ユーザでも利用可能な実使用に耐えるものとすることを目標としている。また、それを足がかりとして、海外進出を目指していきたい。 なお、この開発事業は密室において秘密裏に行うのではなく、AirWeb センターサーバ http://www.airclub.org を通じ、AirWeb の開発過程、ソースを含めたエージェントの技術開発情報の開示、ユーザからのリクエストなどを含めて、一般ユーザに向けてオープンに行っていくのを特徴としている。 |
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8.採択理由 飯塚氏は、今後インターネットに求められるのは情報管理と述べられているが、採択者も同感である。現在インターネット上のサイトはすべてフォーマットが異なり、情報の自動収集は困難を極め、リビジョン管理は現実的に出来ない。この問題を解決できるのが飯塚氏の提案される「AirWeb」である。 「AirWeb」はサイトごとに複数のエージェントと呼ぶアプリケーションを走らせることで情報を収集し、データを1元管理する。プラットフォームは「AirWeb」が提供する。重要なのはエージェントの数である。現在30個ぐらいを開発中で、その中には、株価を収集するもの、オークション情報を収集するもの等がある。又、飯塚氏以外にもエージェントを開発できる環境を提供する予定である。したがって、サーバーを立ち上げ、エージェントの情報を集約するポータルサイトを立ち上げる必要がある。このように周りの人も巻き込みながら「AirWeb」を立ち上げる予定である。「AirWeb」作成に当たっては高い技術力と人脈が必要である。情報を収集するエージェント、情報を整理するバーチャルマシン、HTML/XMLの強力な解析機能。また、さまざまなサイトに対応するエージェントは「AirWeb」ユーザーなら作成可能であるので、エージェントをもちより、ポータルサイトに集めることでリナックス的なネットを介した発展を試みる。このように高い技術力と人脈がなければ成功しないが、飯塚氏は両方持ち合わせている。 飯塚氏はもともと、オートパイロットを考案されたグループの主要人物である。今から12年前のパソコン通信創造期において、情報の自動取得の為に、オートパイロットの創造に立ち会われた。飯塚氏は、本来オートパイロットを通信環境全体の一部として、提案をしたのだが、ただ単に「オートパイロットは通話料金の節約になる」程度の理解でとどめられてしまったためか、ネット上の情報収集は未だ手作業の世界にある。今の状況はパソコン通信が立ち上がり、草の根BBSが林立した時代と非常に似ている。 草の根BBSは現在のWebsiteに置き換わったが、それぞれのフォーマットの統一がされていない様は、当時と同じである。氏は当時において、貧弱なMS-DOS環境で、ロボット型通信ソフトを開発し、仮想機械上に通信環境を構築するコンセプトを立ち上げ、その後の日本におけるオートパイロット環境全盛の時代のルーツを作り出した。さらに1991年に発表されたのが、フリーソフト大賞通信部門賞受賞作「Program of the air」である。この中で氏はMS-DOS環境において、通信環境とマルチプラットホームのあり方を提示して見せた。仮想機械と言語の分離、アプレットのOSからの独立(マルチプラットホーム)、通信ホスト操作性をアプレットで吸収しどのホストも同じ操作で利用するコンセプトは現在も輝きを失わない。惜しむらくは氏がWindows版の開発を氏の都合により遅らされたことである。氏は95年当時、オーサリングツールの開発に心血を注がれていた。当時作られたCD-ROM「パトレーバー」は氏がプログラミングを担当されている。また、バンダイのマルチメディアマシン「ピピン」開発にあたって、初期段階の中心人物として事に当たられた。又、開発されたWindows版もNifty Serve上で情報を収集することを目的としたためおのずと限界があった。これは、氏と時代とのめぐり合わせが悪いとしか言いようがない。しかしながら、前述のとおり、クライアントの情報収集環境、ひいては、通信環境はパソコン通信創世記とあまり変わるところがない。インフラはインターネットベースに改善され、コンテンツの充実は当時と比べるべくもないが、クライアントの通信環境はこれからなのである。氏の究極の思いを考えると、人の役に立ちたい思いが強いと思われる。氏が今までの作品をブラッシュアップされるに当たって、ユーザーからの声に答えてブラッシュアップをされて来た。その時の反応の手ごたえを力とし、プログラムを開発してこられている。氏は人というものを見て動いている。こうすれば便利ではないか、作業が楽になるのではないか、情報収集が楽になるのではないか、協業して進化していくことは出来ないか、そのような思いを実現するものが「AirWeb」である。「AirWeb」がベースとなり、情報収集エージェントが多数現れてくる実現性は高いと思われる。又、各種エージェントの情報交換の場として、サーバーを立ち上げることで、ネット上にコミュニティーが立ち上がるはずである。氏の技術力と今までの人脈から「AirWeb」は実現可能であり、採択理由とさせていただきます。 |
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9.開発評価 現在インターネット上のサイトはすべてフォーマットが異なり、情報の自動収集は困難を極めている。この問題を解決するために「AirWeb」は構想された。 本プロジェクトで開発された「AirWeb」はプラットフォームのようなもので、インテリジェントなブラウザのようなものとして実現している。「AirWeb」は、ブラウザの機能、データベース機能をもつにとどめ、実際の情報収集はエージェントと呼ぶ「AirWeb」のアプリケーションにやらせている。それらのエージェントはすべて「AirWeb」に登録され、サイトごとにカスタマイズされた方法で、情報を取得してくる。取得された情報はエージェントが「AirWeb」のデータベース機能を使ってデータベース化したり、ブラウザ機能を使って見やすく表示できる。面倒なことをエージェントと「AirWeb」にやらせながらも、ユーザーにはそれを意識させない仕組みにしている。エージェントの管理も「AirWeb」にやらせ、エージェントの自動更新も「AirWeb」にやらせるなど管理の手間軽減も図られている。 そのほか、エージェントはアプリケーションなので「AirWeb」に追加登録可能であり、最新のエージェントはエージェントのコミュニティサイト「AirClub」にアップロードされる。即ち、「AirClub」は「AirWeb」ユーザーが新しいエージェントを追加できるサイトになる。また、誰もがエージェントの開発ができる仕組みになっており、「AirClub」にアップロードすることができるので、「AirClub」はコミュニティサイトであるだけでなく、エージェントの内容が更新されたとき、更新情報が「AirWeb」に送られ、エージェントが更新されるサーバの役割も果たしている。 上述したように本プロジェクトでは、プラットホームとしての「AirWeb」、アプリケーション群のエージェント、コミュニティサイトの「AirClub」が開発されており、開発構想が相当のレベルでソフトウェアとして実現されている。 使い勝手の面でも工夫がなされている。例えば、「AirWeb」はエージェントが収集した情報を表示するブラウザでもあるが、最低限現在のウェブブラウザがもっている機能にウインドウを4分割する機能を追加している。エージェントは本プロジェクトで44種類のエージェントが完成しているが、特に掲示板のエージェントとして人気のBBS2チャンネルのエージェントは、人気サイトのエージェントだけに重点的に開発されており、通常のウェブブラウザではできないどこまで読んだかわかる未読機能までサポートしたものが完成している。また、「AirClub」もビギナー用のページとエキスパート用のページ分離させ、分かり易くなっている。 総括すると、一般ユーザは「AirWeb」を使うことにより難しいことを意識せず、情報収集を自動化できる。ウェブブラウザの最低限の機能を持っているだけでなく、エージェントによる情報収集まで反映されるブラウザなので、従来のブラウザより相当インテリジェントなブラウザとなっており、拡張性に富んだソフトウェアとして実現されている。 |
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10.今後の課題 エージェントが増えれば増えるほどクライアントは豊かなものになり、増えることによる管理コストの増加は「AirWeb」ではサーバが吸収する。この優れたエージェントの拡張性を活かすには、一般ユーザとヘビーユーザに、いかにしてこのエージェントコミュニティに参加してもらうかが重要である。コミュニティを栄えさせる文化的社会的活動努力を検討していかなければならない。 |
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